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女の私が女の子を抱かなきゃ帰れないって、どういうこと!? ~エロゲ世界に転生したのでヒロイン十六人を攻略します~  作者: 円井ねここ
第四章 甘え方を、知らない

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ずれていく、四月九日

 スマホのアラームが鳴る前に、目が覚めた。

 見慣れた家の自室の天井だった。久遠先輩の部屋ではない。隣に眠る久遠先輩もいない。

 私はベッドの上で身を起こし、枕元のスマホを取った。

 画面の日付は、四月九日。


「……戻った」


 制服に着替え、洗面所で顔を洗って、出海に呼ばれて朝食を食べた。

 お母さんはいつも通り味噌汁をよそい、出海は父親の卵焼きを一切れ持っていこうとして怒られていた。

 箸を置いたところで、玄関のチャイムが鳴った。

 出海が玄関へ向かう。


「お姉ちゃーん、三上さん来たよー」


 出海の声が廊下から飛んでくる。

 椅子を引いて立ち、リビングを出た。

 玄関には制服姿の雪乃が立っていた。靴を脱ぐ前から、私をまっすぐ見ている。


「真白!」


 雪乃は靴を脱ぎ捨てると、私の手を掴んだ。

 そのまま階段を上がり、私の部屋のドアを開ける。

 ベッドの脇まで来ると、雪乃は私を布団の上へ押し倒してきた。


「ちょっ、雪乃?」

「我慢してたんだ」

「なにを」

「九条院先輩に取られてから、ずっと我慢してた……っ!」


 まだ登校前で、一階にはお母さんも出海もいる。

 それでも雪乃は止まらず、覆いかぶさったまま上から唇を塞いできた。

 二週間我慢した分をぶつけるみたいに、舌が深く入り込んでくる。


「……雪乃」

「嫌なら押し返せばどうだ」


 雪乃は私を見上げた。

 口は強気なまま、目が潤んでいた。


「二週間。真白に触れられなかった」

「クラスでは一緒だったじゃん。お昼ご飯も一緒に……」

「クラスで隣にいても、触れていなければ意味がない」


 雪乃の指が、私の頬に触れた。


「目を逸らすな」


 その一言で、私は抵抗する手を止めた。

 雪乃の唇が重なる。応えろ、と言うみたいに、強く。


「ちょっと雪乃、いくらなんでも急すぎ……」

「急じゃない。私、ずっと我慢してたんだ」

「だからって、学校は」

「行かない。今日は学校行くな。私の隣にいろ」


 背中が布団に沈み、制服の布が擦れる音が耳元で重なる。

 私が雪乃の肩に腕を回すと、キスがいっそう深くなった。

 何度も深く口づけられて、頭の芯が痺れていく。

 雪乃の髪が頬にかかる。首筋に唇が触れて、声が漏れた。


「家の人、いるから……っ」

「知ってる」

「知ってるなら、ちょっとは」

「いやだ」


 雪乃は短く言って、私の手を取った。

 私の指を自分の頬に当て、そのまま目を閉じる。

 ずるい。

 そんな顔をされたら、突き放せない。


「真白」

「……うん」

「今日は私以外のこと考えるな」


 返事の代わりに、私は雪乃の背中を引き寄せた。

 登校時間を知らせるスマホのアラームが、机の上で何度か震えた。

 雪乃はそれを見もしない。私も手を伸ばせなかった。


 新しいループが始まったのに、イルカイルが姿を見せない。

 その疑問も、長くは続かなかった。一度離れても、雪乃は何度もすぐに私を抱き寄せる。

 昼になっても、ベッドから出してくれなかった。

 ようやく起き上がっても、雪乃は私から離れなかった。

 夕方、お母さんに挨拶する間も裾を掴み、出海に「お姉ちゃんの彼女?」と聞かれて、私が訂正する前に「そうだ」と即答した。

 夜、また布団に引き込まれた。


「もう一回」

「雪乃、さっきも……」

「足りない」


 また抱きしめられて、抵抗は声にならなかった。

 腕の力は、眠っても緩まなかった。

 考えなきゃいけないことは、いくらでもあった。

 なのに、雪乃の腕の中では、何も浮かんでこない。

 今はもう、雪乃のことしか、考えられなかった。


***


 次の日の朝になっても、イルカイルは姿を現さなかった。

 ループのたびに出てきてヒロインを攻略しろとしつこかったのに。

 私は、誰を攻略すればいいのかも分からないまま、二日目に入っていた。

 待っていても何も始まらない。情報だけでも欲しくて、私は雪乃と一緒に登校した。

 道すがら、雪乃はずっと私の手を握っていた。校門が見えても離さず「人いるから」と言うと、渋々ほどいた。


 四時間目の終わりのチャイムで、教室がいっせいに昼休みの空気になった。

 私は雪乃と机を向かい合わせ、お母さんが持たせてくれた弁当を広げた。

 雪乃は朝コンビニで買ったパンの袋を開ける。

 いつも通りの昼休みだった。

 雪乃が紙パックのストローを刺したところで、校内放送のスピーカーが鳴った。


『二年、佐倉真白。二年、三上雪乃。至急、零式十六会室まで来なさい』


 聞き慣れた冷たい声に、箸が止まった。


「……久遠先輩?」

「……どういうことだ?」


 久遠先輩は、私だけでなく、雪乃の名前まで呼んだ。

 二人とも、フルネームで。

 ……なんで。

 雪乃は私と同じ二年の普通科で、三年特進の久遠先輩とは本来なら接点なんてない。

 でも、引っかかったのはもっと単純なことだった。

 この四月九日を、私は何度も繰り返してきた。

 なのに、こんな放送は一度もなかった。

 久遠先輩が放送で私たちを呼んだことも。イルカイルが現れないことも。

 顔を上げると、雪乃と目が合った。ストローを刺したまま、固まっている。

 箸を置いて立ち上がると、雪乃が無言で私の袖を掴んだ。

 その指に、いつもより力がこもっている。

 ――このループは、いつもと違う。

 私は嫌な予感を抱えたまま、雪乃と並んで、十六室へと続く廊下を歩き出した。

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