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女の私が女の子を抱かなきゃ帰れないって、どういうこと!? ~エロゲ世界に転生したのでヒロイン十六人を攻略します~  作者: 円井ねここ
第四章 甘え方を、知らない

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もう一回、言いなさい

 放課後、零式会の仕事を終えて一緒にマンションへ帰った夜。

 晩御飯を食べ終えた私は、ソファーに座り、リモコンを取ってテレビの電源を入れた。


「珍しいわね、テレビなんて」


 久遠先輩がキッチンから麦茶の入ったグラスを二つ持ち、戻ってくる。


「たまには見ましょうよ」

「私、テレビはあまり見ないのだけれど」


 言いながら、先輩はソファの私の隣へ腰を下ろした。グラスをテーブルに置く。

 画面では、検証バラエティの企画が流れていた。

 何も知らされていない芸人が楽屋の椅子に座り、スタッフに差し出されたアンケートへ真面目に答えている。

 画面の端には、仕掛け人たちが別室で見守る小窓が出ていた。


「これの何が面白いのよ」

「これから面白くなるんですって」


 先輩は眉をひそめ、腕を組んで不服そうに画面を眺めている。

 次の瞬間、天井の箱が開き、白い粉が頭から落ちる。

 スーツも髪も真っ白になった芸人が、固まった。字幕だけがやたら冷静に、検証結果を出してくる。

 私は思わず笑い声を漏らす。


「ふふっ」


 隣に目をやると、腕を組んだままの久遠先輩の口元が、つられたようにふっと緩んでいた。


「久遠先輩、今笑いました?」

「……笑ってないわ」

「絶対に笑ってましたよ。粉かぶったところ」

「気のせいよ。私はこういうくだらないのは……」

「嘘だ」

「……」


 図星を突かれたのか、先輩は組んでいた腕を解き、麦茶のグラスを手に取って口元を隠した。


「……たまには見ると、面白いのね」

「ですよね」

「本当にくだらないけれど、たまにはいいわね」


 言いながらも、先輩は画面から目を離さない。

 私はソファの上に置かれた先輩の手に、自分の手を重ねた。

 指を絡ませて、恋人繋ぎにする。


「ん……」


 久遠先輩が身をすり寄せ、私の肩に頭をもたれかからせてきた。

 髪の香りが鼻先をかすめる。

 繋いだ手の体温を感じながら、私たちはそのまま画面を眺め続けた。


***


 数日後の夜、私はまだ久遠先輩の家にいた。

 夕飯を済ませたあと、リビングのテーブルで、向かい合って黙々と課題のプリントを進めていた。

 対面に座る久遠先輩がふと、ペンの動きを止めた。


「真白って」

「はい」


 私は手元のプリントから顔を上げる。


「付き合い始めてから、私のこと、一回も好きって言ってないわよね」

「……」


 言われてみれば、確かにそうだ。

 付き合ってほしいと言い出したのは、攻略のためだった。

 キスされたのも、ここで暮らすようになったのも、全部先輩のペース。

 私はただ、それに流されていればよかった。

 でも、いつの間にか――この人と過ごす時間が、楽しくなっていた。

 毎晩一緒にご飯を食べて、同じベッドで眠って、先輩との生活に、すっかり馴染んでしまっている。

 たぶん、ここで「好き」と伝えなきゃいけない。

 久遠先輩の心を満たして、瓶を満たして、元の世界に帰るために。

 幸い、と言うべきなのか。久遠先輩を好きだというのは、嘘じゃない。

 ただ、それは"恋"とは違う。

 恋になってしまったら、私はきっと、帰れなくなる。

 だから――嘘じゃない「好き」を、恋のふりで差し出す。

 私は顔を上げて、正面の先輩を見た。


「好きですよ、久遠先輩」


 何気なく、でも真っ直ぐに伝えた。


「っ!?」


 久遠先輩の肩が跳ねた。


「な、なによ、いきなり」

「先輩が言ったんじゃないですか」

「そうだけど……心の準備というものが……っ」

「準備が必要なんですか?」

「必要よ。……それに、感情がこもってないわ」

「こもってますって」


 先輩は手で口元を覆い、顔を逸らす。

 耳の先まで赤くなっていた。


「……じゃあ、もう一回」

「え?」

「もう一回、言いなさい」

「好きですよ」

「〜〜っ!!!」


 久遠先輩が椅子から立ち上がり、テーブルを回り込んで私の背後へ来る。

 そのまま、後ろから私の首に腕を回して抱きついてきた。


「先輩?」

「……課題、終わるまでこのままよ」

「書きにくいんですが」

「文句言わない」

「腕が当たって字が歪みます」

「なら、私が手を添えてあげるわ」

「……余計に進みませんよ」


 私は先輩の腕をほどかず、もう一度シャーペンを握った。

 なんとか数式の続きを書こうとペンを走らせたが、覗き込んでいた先輩が、私の耳元で小さく笑った。


「ふふっ」

「……なんですか」

「ほら、やっぱり歪んでるわよ、真白」

「誰のせいだと思ってるんですか」

「さあ? 私のせいかしら」


 先輩の腕が、さらに強く私を抱きしめる。

 結局、その日の課題は予定の半分も終わらなかった。

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