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女の私が女の子を抱かなきゃ帰れないって、どういうこと!? ~エロゲ世界に転生したのでヒロイン十六人を攻略します~  作者: 円井ねここ
第四章 甘え方を、知らない

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私のものだと、刻まれて

 放課後、私は十六室の扉の前にいた。

 昨日のショッピングモールで、久遠先輩とすれ違った時の声が、まだ耳に残っている。


『月曜日、また零式会でね、真白』

『言い訳は、月曜日にたっぷり聞かせてもらうわ』


 ノックをしても返事はなかった。

 取っ手を恐る恐る押して、扉を開く。


「……失礼します」


 久遠先輩は深い緑色のソファに座り、組んだ足の上に片手を置いている。

 私が扉を閉めると、金具がかちりと鳴った。


「遅いわね、真白」

「……すみません」

「それで、昨日、あなたの隣にいた女は誰?」

「え……」

「名前を聞いているの。私の恋人の手を、当然のように握っていたあの女」


 誤魔化すしかない、と思った。

 でも、どうやって。


「三上雪乃です。同じクラスの子で……」

「同じクラスの子」

「はい」

「同じクラスの子と、休日に恋人繋ぎをしていたの?」

「それは……」

「あなた、私を見た瞬間にその手を離したわ」

「……っ」


 否定しようとして、言葉が止まった。

 久遠先輩を見た瞬間、私は雪乃の手を離した。

 それを久遠先輩に見られていたことには、分かっている。


「隠す必要がある関係だと、あなた自身が分かっていたからでしょう」

「違います。そういうつもりじゃ……」

「今日は零式会の仕事はしないわ」

「え? じゃあ……」

「あなたを帰したら、またあの女のところへ行くでしょう」


 久遠先輩はローテーブルに置いていた鍵を取った。

 私が何かを言おうとする前に、立ち上がる。


「来なさい。あなたを連れて行く場所があるの」

「どこへ行くんですか?」

「私の目が届く場所よ。あなたの拒否権はないわ」


 久遠先輩は私の横を通って扉を開けた。

 私は何も言えず、久遠先輩と一緒に十六室を出た。


***


 連れてこられたのは、学園から少し離れたマンションだった。

 エントランスの自動ドアを抜けると、磨き上げられた大理石の床が、天井の間接照明を映している。

 高い吹き抜けのロビーは物音ひとつなく、奥のカウンターには生花が活けられていた。

 学生が一人で住むような場所ではない。

 久遠先輩は慣れた手つきでカードキーをかざす。

 上の階で降り、廊下の奥の部屋の前で久遠先輩が鍵を回した。


「ここは……久遠先輩の家、ですか?」

「ええ。どうぞ、上がって」


 玄関には靴が揃っていた。

 久遠先輩のローファーと、休日用らしいパンプスが一足。

 私は靴を脱ぎ、廊下へ上がる。リビングにはソファとガラス天板のテーブル、壁際のテレビ台には、薄型の大きなテレビが置いてある。

 久遠先輩はキッチンの方へ向かった。


「何か飲む?」

「えっと……じゃあ、お水で」


 久遠先輩はグラスを一つ出し、水を注いで私の前に置いた。


「……ありがとうございます。あの、ご家族は……」

「いないわ」

「今日は、ですか?」

「しばらく帰っていないわね。今の拠点は海外だから」


 久遠先輩は向かいの椅子を引き、私の正面に座った。


「先輩は、一緒に行かなかったんですか」

「仕事の邪魔になるから、来なくていいと言われたの」

「……」


 私は返事ができなかった。

 ――――邪魔。

 親が子供に向けていい言葉ではない。

 私の元の世界の家族にはそんなことを言われたことがなかった。

 思春期にはお父さんとあまり喋らなくなったし、お母さんに文句を言った日もある。

 それでも、両親から邪魔だなんて一度も言われたことはない。


「でも、放っておいてくれるわけでもないのよ」

「え?」

「月に一度、成績と生活状況を送ることになっているわ。問題がなければ返信は数行。問題があれば、家庭教師が来て、習い事が増える」


 久遠先輩は、私の前に置いたグラスを見た。


「邪魔だから連れて行かない。でも、九条院の娘として品行方正でいなければいけない。私に求められているのは、いつでも問題のない娘でいることよ」


 久遠先輩は玄関脇の棚へ戻り、小さなケースを手に取った。

 その中にはエントランスのカードキーと、銀色の鍵が一本。

 それを私の手のひらに乗せる。


「……あの、これは?」

「合鍵と、エントランスのカードキーよ。今日から、私と一緒に住むわよ、真白」

「え、ええ!? 一緒にって、私がここで暮らすんですか!?」

「ええ、その通りよ。私の目が届かない場所で、誰に手を握らせるか分からないもの」

「そんな、雪乃とは本当にそういう……」

「そういう、何?」

「……」


 言えない。

 雪乃は、同じクラスの子。

 最初に攻略した子。

 今も記憶を持っていて、私を責めて、それでも手を繋いできた子。

 そんな説明を、久遠先輩にできるはずがない。


「説明できないのね」

「違います。言えないだけで……」

「私という恋人がいるのに、他の女との関係は言えない」

「久遠先輩……」


 久遠先輩が、私の手からキーケースを取り上げ、リビングのテーブルに置く。

 次に掴まれたのは、私の手首だった。

 久遠先輩に引かれ、ソファの背が膝裏に当たり、私は座るより先に倒れ込んだ。


「あ……っ、先輩……」


 久遠先輩が上から私を見下ろし、私の右手を取った。


「この手ね」

「久遠先輩……?」

「あの女が握っていた手」

「違、あれは……」

「違わないわ。私の恋人が、他の女と休日に手を繋いでいた。それだけで十分よ」

「先輩、怒って……」

「怒っているわ」

「……っ」


 あまりにもはっきり言われて、返す言葉が出なかった。

 久遠先輩の親指が、私の掌をなぞる。雪乃が指を絡めていた場所を、ひとつずつ確かめるように。


「分からせてあげる。あなたが誰の恋人なのか」

「先輩、待っ……んっ……」


 唇を塞がれた。

 キスがいつもより荒い。


「待たないわ。他の女に油断を見せた罰よ……あなたの体が、私をどれだけ欲しがってるか、しっかり刻み込んであげる」


 久遠先輩の声が耳のすぐそばで低く響いた瞬間、唇が私の首筋に深く吸い付いた。


「明日も残るようにしてあげる。誰かに見られるたびに、私のことを思い出しなさい」


 甘い音が響いて、体の奥が疼いた。

 私は息を詰めた。

 その指が、ゆっくりと私の熱くなった場所に触れる。

 それだけで、膝から力が抜けていく。

 久遠先輩は、私の体を知り尽くしている。どこをどう触れれば私が震えるのか、最初から全部見抜かれていた。


「あなたは私のものなんだから」


 そう言いながら、久遠先輩は私の肌に、自分の印を一つずつ刻んでいく。

 首筋に、鎖骨に、唇が吸い付くたび、ちりっとした痛みが走った。きっと、痕が残る。

 恥ずかしくて、逃げたくて、それなのに体は勝手に応えてしまう。

 一度達しても、終わらせてはもらえなかった。

 余韻が引く前に、また追い上げられて、何度も、何度も。

 もう無理だと泣いて懇願しても、久遠先輩は止まってくれない。

 気づけば、時間の感覚も、自分の輪郭も、溶けてなくなっていた。

 体じゅうが、久遠先輩の残した痕で、埋め尽くされている。

 ――ああ、私は今、この人のものにされているんだ。

 遠くなっていく意識の隅で、私はぼんやりと、そう思った。


 ようやく指の動きが緩んだ頃、私はぐったりとソファーに沈み込んでいた。

 全身を震わせる私を、久遠先輩が後ろから強く抱きしめる。


「可愛かったわよ、真白……これでしばらくは、私のことしか考えられないでしょう?」


 私は、小さく頷くことしかできなかった。

 体中にまだ熱が残って、刻まれた痕の感触が、疼いていた。

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