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女の私が女の子を抱かなきゃ帰れないって、どういうこと!? ~エロゲ世界に転生したのでヒロイン十六人を攻略します~  作者: 円井ねここ
第四章 甘え方を、知らない

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離してしまった、手

 自室の姿見の前で、私は髪を櫛で整えた。

 休日に着る私服は、この世界にやってきた時に最初からあったものだ。

 私が選んだものではないが、センスは悪くない。

 ワンピースをブラウスの上から着て、鞄の中に財布とスマホを入れる。

 階段の下から、出海の声がした。


「お姉ちゃーん、三上さん来てるよー」


 私は鞄を掴んで、慌てて部屋を出た。

 玄関には、雪乃がいた。

 ゆるっとした黒のカーディガンに、プリーツのロングスカート。

 雪乃は私を見るなり、壁から背を起こした。


「……遅い。準備にどんだけ時間かけてんの、低能」

「ごめんごめん! 雪乃、すっごく可愛い服着てるじゃん」

「……うるさい。適当に選んだだけだ。……真白と出かけるのに変な格好だったら、嫌だし」

「ふふ、ありがとう。じゃあ、行こう!」


 私が靴を履くと、雪乃がドアを開けた。

 光の中の横顔が、少し赤い。

 指摘したら怒られそうなので、黙っておく。


「……手」

「え?」

「分からず屋。本当に無神経」


 雪乃は私の返事を待たずに、私の手を取った。

 指を絡めて、あっという間に恋人繋ぎになる。

 雪乃は私の手を引いて、門の外へ出た。

 出海が玄関の中からにやにやしていたので、私は振り返る前にドアを閉めた。


***


 ショッピングモールを一通り回ったあと、私たちはファーストフード店に入った。

 トレイの上には、ドリンクが二つと、ポテトの箱。


「真白、店回りすぎだ」

「でも雪乃、ちゃんと全部見てくれたじゃん」

「見てない。……真白が試着室から出てくるたびに、目の前にいたから仕方なく」

「だって、せっかくの休日だもん。あ、ポテト冷えちゃう。食べよ食べよ」


 私はポテトを取ろうとした。

 その前に、雪乃が一本つまんで、私の口元へ持ってくる。


「口、開けろ」


 店内には、学生も家族連れもいる。

 以前の私なら、人前でこんなこと、と躊躇っていたかもしれない。

 でも、そんなことで動じることは、なくなってしまっていた。

 私は、雪乃が差し出すポテトを素直に口に入れた。


「……美味しい」


 食べた後、私はドリンクを飲んだ。


「……ねえ、真白」

「ん?」

「最近…………」


 雪乃が何を聞こうとしているのか、口に出される前に、分かってしまった。


「……何?」

「……やめた」

「雪乃……?」

「忘れろ。……ポテト、まだ食べるか?」


 聞かれずに済んで、ほっとした。そんな自分が、少し嫌になる。


「うん、もらうね」


 雪乃は二本目のポテトを取った。

 さっきより短いやつを選んで、私の口元へ差し出す。

 言いかけた言葉は、もう出てこない。

 久遠先輩とのことを聞きたいのだろう。

 でも雪乃は、私がどういう状況で行動しているのかを分かっている。

 分かっているからこそ、遠慮したのだと思う。

 私は差し出されたポテトを食べて、もう一度ドリンクを飲んだ。


***


 店を出ると、モールの通路には夕方の人波ができていた。

 雪乃は何も言わず、私の指に自分の指を絡ませた。

 握る力が、少しだけ強い。


「雪乃、くっつきすぎじゃない?」

「……これくらい普通だ。真白が、どっか行かないようにしてるだけだ」


 返す言葉を探しているうちに、前方から黒髪の人影が歩いてきた。

 背筋の伸びた立ち姿。黒いカチューシャ。片手には、紙袋が二つ。

 久遠先輩だった。


「……あ」


 私の手が動いた。

 考えるより先に、雪乃の手から自分の手を離してしまった。

 久遠先輩の視線が、離れた二人の手へ向かったが、すぐに私の顔へ行く。


「九条院先輩……」


 雪乃は私の前へ出た。

 雪乃の肩が、私と久遠先輩の間へ入った。

 久遠先輩は紙袋を持ち直し、私たちの前で足を止めた。


「あら、奇遇ね。お二人で買い物かしら?」

「は、はい! 休日の買い物です。久遠先輩も、お買い物ですか?」

「ええ。必要な備品を調達しに来たの」


 久遠先輩の紙袋には、文具店のロゴが入っていた。

 中身はファイルか、封筒か、十六室で使う消耗品だろう。

 そこへ、雪乃の声が割り込んだ。


「……こんにちは。真白と買い物中なんで、用がないならいいですか」

「あら、仲が良いのね。でも、ご挨拶がずいぶん刺々しいこと」

「あ、ええと、すみません、生意気で! 気にしないでください」


 なんで私が謝っているんだ。

 いや、謝らないとこの二人、通路のど真ん中で何か始めそうだ。

 雪乃は横目で私を見た。さっき離した手のことを怒っている顔だ。

 久遠先輩は私の慌て方を見て、笑った。


「分かっているわ。プライベートの時間を奪うつもりはないもの。私はこれで失礼するわ。月曜日、また零式会でね、真白」

「はい! 失礼します!」


 久遠先輩が私の隣を通り過ぎる。

 すれ違いざま、紙袋の角が私の鞄に当たった。

 そのタイミングで、耳元で囁かれる。


「……言い訳は、月曜日にたっぷり聞かせてもらうわ。あの生意気な女のことも含めてね」


 久遠先輩は振り返らず、そのまま通路を進んでいった。

 私はその背中を見送っていると、雪乃がこちらを見ていることに気づいた。


「……真白、手」

「……ご、ごめん」


 雪乃の手は、まだ私の横にあった。

 さっきまで指を絡めていた手だ。

 私はその手を取る。今さら繋ぎ直しても、さっき離した事実は消えない。


「ほら、帰ろ、雪乃!」


 雪乃はすぐには歩かなかった。

 私に引かれた手を見て、それから久遠先輩が去っていった通路を見る。

 さっき言うのを我慢していた言葉が、今度は喉元まで来ているだろう。

 でも雪乃は、それも飲み込んだ。

 代わりに、私の手を握り返す。

 さっきより、握る力が強い。

 私は雪乃の手を引いて、人の流れの中へ戻った。

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