↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女の私が女の子を抱かなきゃ帰れないって、どういうこと!? ~エロゲ世界に転生したのでヒロイン十六人を攻略します~  作者: 円井ねここ
第四章 甘え方を、知らない

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/135

四度目の、四月九日

 枕元のスマホが、シーツの上で震えた。

 私は手探りでそれを掴み、画面を見た。

 四月九日の朝。

 五月の瓶を満たし、三度目のループを迎えた直後だった。

 制服に着替える気力すら起きず、呆然と天井を見上げていると、玄関のチャイムが鳴った。

 しばらくして、ドタドタと階段を登る音が近づいてくる。


「お姉ちゃーん、三上さんが迎えに来たよ〜」


 返事をする前に、部屋のドアが開いた。

 出海が顔を出し、その後ろに、雪乃が立っていた。


「……雪乃」

「迎えに来た」


 雪乃は私のパジャマ姿を見て、部屋の中に入ってくる。


「出海、悪いけどドア閉めて」

「え、あ、うん」


 出海が気まずそうにドアを閉める。

 結局、私たちは学校をサボり、ベッドに並んで座り込んだ。

 五月との別れの記憶が頭を占め、私は何も言えなかった。

 長い沈黙が続いた後、雪乃が口を開く。


「次は」


 ――――誰のところに行くんだ?


 全部聞く前に、何を私に聞きたいのか分かってしまった。

 その時、部屋の中でポンッと破裂音が鳴った。

 青色のイルカが宙に浮かび上がる。


「順調イルカ! でも雪乃、君は邪魔するなイルカ!」


 現れるなり、イルカイルは雪乃に向かってヒレを突きつけた。


「邪魔って何。私は真白と一緒にいるだけ」

「それが邪魔イルカ! すぐ攻略できるヒロインから攻略して行くイルカ!」

「すぐって……」

「真白、疲れてるイルカね。別に行動せずに休んでもいいイルカ。ループまでの猶予は一年残ってるイルカらね」


 イルカイルが空中でクルクルと回りながら、無駄に高いテンションでまくしたてる。


「雪乃、君も邪魔ばかりしていると、いつまで経っても真白を独り占めできないイルカ。今のところ真白は三人攻略したけど、記憶を取り戻したのは雪乃だけイルカ。このまま攻略が早く終われば、真白の正妻は雪乃で決定イルカ!」

「……っ」

「協力して、早くループを終わらせて、真白を独り占めするイルカ!」


 雪乃は私の袖へ伸ばしかけた手を、膝の上に戻した。

 唇を噛んだまま、イルカイルを睨む。


「……早く終わるなら、やる」


 雪乃は膝の上の手を握り直してから、頷いた。


「じゃあ、今回のオススメヒロインイルカ!」


 イルカイルがヒレを振ると、空中にプロフィール画面が開いた。

 一人の女の子の立ち絵。

 艶のある黒髪ロング。黒いカチューシャ。青紫色の目。

 九条院 久遠。


 プロフィール欄には、数字と項目が並んでいた。

 学年、十六夜学園三年。特進クラス。所属、零式十六会会長。

 誕生日、九月九日。血液型、A型。

 身長、164cm。体重、50kg。

 スリーサイズ、B88/W57/H88。


 好きなもの、予定通りに進む行事、整理された書類。

 苦手なもの、無断欠席、期限切れの申請書。

 紹介文には、学園の特別自治組織・零式十六会を取り仕切る完璧な会長で年上ヒロイン、とある。


「……零式十六会?」

「零式十六会は、この学園の特別自治組織イルカ! いわゆる生徒会みたいなものイルカね」

「なるほど」

「そして、こいつはレズイルカ」

「……え?」

「前任者は……おっとイルカ! とにかく、真白は女だから簡単に付き合えるイルカ。とりあえず零式十六会に入るイルカ!」


 イルカイルが早口で説明を終えると、再び破裂音と共に姿を消した。

 あとに残されたのは、私と雪乃の二人だけだ。


「真白」


 雪乃の手が、私のパジャマの袖を掴む。


「真白。どうするの」

「どうするって……ループを終わらせるにはイルカイルのいう通りにするしかない」


 元の世界に帰るという話は、言わなかった。

 そうなると、雪乃のずっと好きだった人は私じゃなくなる。

 いっそのこと今全てを話して、雪乃に嫌われてしまった方がいいのだろうか。

 元の世界に帰るため、雪乃の気持ちを利用した最低な人間だと。

 口を開こうとしたその時だった。


「また、他の女とそういうこと、するんだな」


 その声の直後、雪乃の唇が重なった。

 最初は触れるだけだった。

 でも、私が名前を呼ぶ前に、唇が重なり、もう一度塞がれる。

 今度は逃げ道を探す前に、雪乃の舌が入り込んできた。

 雪乃は息継ぎのために一瞬だけ離れて、すぐにまた唇を重ねた。

 パジャマの背中に、雪乃の指が回る。

 布越しに爪が立って、私の体が雪乃の方へ引き寄せられた。

 だが、私は彼女の肩に両手を当て、その体を静かに押し返した。


「……ごめん。雪乃」

「……」

「私、ちょっと疲れてるかも」


 拒絶された雪乃は、息を呑んだ。

 私自身、誰かの温もりを拒めるほど心に余裕があるわけではない。

 それでも、今の状態で雪乃に甘えれば、本当に全てが壊れてしまうと直感したのだ。

 雪乃はうつむき、私の袖を掴んでいた手を離した。


「……分かった。今日は帰る」


 掠れた声でそう告げると、雪乃は立ち上がり、逃げる足取りで私の部屋から出て行った。

 玄関のドアが閉まる音が響く。

 私はベッドに倒れ込んだ。

 ベッドから起き上がり、クローゼットを開ける。


「……やるしかない、か」


 声に出すと、少しだけ息が通った。

 スマホを拾い、画面を点ける。

 ――四月九日。

 私は制服に袖を通し、鞄の中へスマホを押し込んだ。

 元の世界へ帰るために、次の瓶を満たす。


 九条院久遠。

 プロフィール画面に出ていた名前を、もう一度思い出す。

 午前中は学校をサボってしまったけど、放課後に零式…なんとか会、に行けば会えるだろう。

 標的。

 そう呼ばないと、私はたぶん、部屋から出られなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。