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女の私が女の子を抱かなきゃ帰れないって、どういうこと!? ~エロゲ世界に転生したのでヒロイン十六人を攻略します~  作者: 円井ねここ
第三章 練習だと、言い聞かせて

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別れた、翌朝

 土曜日の朝。

 スマホのアラームを止める。通知欄には、天気予報と通販アプリのセール通知だけ。

 大和からの連絡はない。当然だ。昨日、別れたんだから。


 私――五十嵐五月は、彼氏と別れた翌朝を、自分でも意外なくらい静かに迎えていた。

 泣かなかった。布団の中で、ぼんやり天井を見ていただけ。

 大和の名前を探す指は、もう動かない。

 その代わりに、と言っていいのか分からないけれど。

 気づいたら私は、真白とのトーク画面を開いていた。

 彼氏と別れた翌朝。いちばん最初に顔を見たくなったのが、真白だった。


『明日遊ぼうよ』


 打って、送らずに眺める。


 真白は、私のことどう思っているんだろう。

 私は、真白のことどう思ってるんだろう。


「送れ」


 自分に言って、送信ボタンを押した。


 既読はつかない。


 私はローテーブルを拭いた。

 五分経っても、まだつかない。


 洗面所へ行って顔を洗った。

 戻ってきても、まだ。


 冷蔵庫から麦茶を出して、コップに注ぐ。

 スマホを見る。

 まだ。


「いつもならすぐ返事くれるのに……」


 誰に言うでもなく呟いて、私は床に座った。

 クッションを膝に乗せ、スマホをその上に置く。

 画面が消えるたびに、すぐ指で点け直す。


 考えるのをやめようと思ってクッションを持ったまま、ベッドに寝そべった時だった。


 画面が光った。


『ごめん、明日はちょっと無理かも』


 私はすぐに返信欄を開いた。


『何か用事あるの?』


 送ってから、スマホをクッションに押しつけた。

 クッションの上でスマホを見張る。

 見張っても返事が早くなるわけじゃない。

 分かっているのに、スマホを閉じることができない。


『ちょっと友達と他の予定入っちゃって』


「友達」


 唯花なら、真白は唯花って書く。

 友達って誰だろう?

 私の知らない友達。

 私の知らない真白の予定。

 私はクッションに顔を埋めた。


「真白が好き」


 言ってみた。

 思ったより、部屋に響いた。


 もう一回。


「真白が好き」


 顔が熱い。

 私は一つずつ確かめることにした。

 これを誰かに送るわけじゃない。

 誰かに見せるわけでもない。

 逃げないために、自分で自分を呼び止める作業だ。


「分からないって言っても、笑わないところが好き」


 課題を教えてもらった時、真白は私のことを馬鹿にしなかった。

 どこで困っているのかを見て、説明してくれた。


「変な質問しても、ちゃんと困ってくれるところが好き」


 カラオケでの真白は、本当に面白かった。

 あの時の慌て方は、今思い出しても面白い。

 そして、最後まで私の話を聞いてくれた。


「私がふざけると、ふざけ返してくれるところが好き」


 『僕、大和』

 思い出して、私はクッションに顔を押しつけた。

 何度思い出しても大和っぽくない。

 でも、あれを真顔でやった真白のことは、結構好きだ。


「自分のことは、ほとんど話してくれないところは……ちょっとずるい」


 言いながら、気づいてしまう。

 真白は、私のことはよく見ているくせに、自分の話はほとんどしない。

 家族のことも、休みの日に何をしているのかも、私はまだ何も知らない。

 知らないのに、こんなに気になる。

 知りたいと思っている時点で、たぶん、もう答えは出ている。


「友達のつもりなのに、急に全然友達じゃなくなるところが好き」


 言った瞬間、思い出したのは、真白の部屋のベッドだった。

 課題を教わりに行っただけのはずが、気づけば私は、真白の腕の中にいた。

 真白の手つきは、どこまでも優しかった。

 怖がらせないように、急かさないように。甘やかしてくれる。

 耳元で囁かれるたびに、頭の中までふにゃふにゃに溶けて、私はもう、抵抗なんてできなかった。

 大事にされている、と思った。

 大和には一度も感じなかったその温もりに、私は抗えなかった。

 あの時間のことだけは、今も、うまく言葉にできずにいる。


 でも、これって本当に「好き」でいいんだろうか。

 真白は、あれを「練習」だと言った。彼氏とうまくやるための、ただの練習。

 それに私は、昨日、大和と別れたばかりで。

 一人が寂しくて、たまたま優しかった真白に、すがろうとしているだけかもしれない。

 女の子を好きになったことなんて、今まで一度もなかったのに。

 ……それでも。

 どれだけ言い訳を並べても、出てくる答えは、一個も変わらなかった。


 私はクッションから顔を上げた。


「……好きじゃん」


 さっきからずっと、それしか言っていない。

 でも仕方がない。

 そういう結論にしかならない。


 ――――真白が好き。


 大和とは違う好き。

 知らない誰かと会っていると思うだけで、モヤモヤしてしまう好き。

 好きだと分かったところで、どうすればいいのかは分からない。

 真白が私をどう思っているのか。これが「練習」の続きなのか、それとも違うのか。

 考えても、分からないことばかりだ。

 それでも、もう「友達」には戻れない。

 ううん。たぶん、戻りたくないんだ。

 私はスマホを胸の上に置き、天井を見た。

 真白とのトーク画面は、まだ開いたままだった。

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