ここで、しちゃおっか
漫画喫茶のペアシートで、五月は積んできた漫画の一巻を私の膝へ置いた。
マットの上に二人で座ると、五月の膝が私の太ももに当たる。
中央に置かれた低いテーブルには、五月が持ってきたメロンソーダと私のアイスティー、それから山のように積まれた漫画が並んでいた。
放課後、五月が「二年前に大ヒットした漫画を単行本で読み返したい」と言い出し、駅前の漫画喫茶へ入った。
――――あと二回えっちすれば、あの瓶が満タンになるイルカ!
昨日のイルカイルの声が、頭の中に過ぎる。
友達と漫画を読みに来ただけという体ではあるが、私の中には確実に下心があった。
「真白は何読んでるの?」
「え、分かんないけど適当に絵柄が好みのやつ選んでみた」
「え〜!これアニメ化までしたやつじゃん!」
「そうなんだ」
「夕方やってたじゃん。うちらが中学の時」
少し会話をした後、お互いに漫画に集中し始めた。
最初は本当に漫画を読んでいた。
ページをめくる音が続く。
五月が一人で笑いながら、次第に私の肩にもたれてきた。
好きなシーンを見つけるたびに、ページを指して「ここ、めっちゃ好きなんだよね」と私に見せてくる。
足をぱたぱたさせて、本当に楽しそうに笑う。
漫画を読みに来た、ただの友達同士だ。
私の下心になんて、これっぽっちも気づいていない。
「もう五巻まで読んじゃった」
「全部で何巻なの?」
「十二巻。やっぱり面白い漫画は読み返しても面白いなあ〜」
返事をする前に、私は漫画のページへ目を戻した。
五月は漫画の話をしている。
その顔が、すぐ横にあった。
ページを覗き込むために傾けた顔。
――――これは、そういう雰囲気に持っていける。
頭の中で、はっきりそう考えた。
「五月」
「ん?」
五月が顔を上げる。
私は漫画を閉じた。
表紙の上に、自分の手を置く。
「真白? 読むの飽きた?」
「飽きてない」
「じゃあ、どうしたの」
私は五月の頬に手を添え、唇を重ねた。
五月の身体はくっついたままで、私のキスを拒まない。
「……ここ、漫喫だよ?」
「うん。……ここで、しちゃおっか」
五月の視線が、ちらりと仕切りの向こうへ泳いだ。
すぐ隣に、知らない誰かがいる。その気配に、五月の肩がわずかに強張った。
それでも五月は、私の腕を振りほどこうとはしなかった。
ただ、不安げに潤んだ瞳で、私の出方をじっとうかがっている。
その視線が、私の背中を押した。
五月は口を開きかけた。
けれど、言葉になる前に、私は唇を塞いだ。
触れた瞬間、五月の手から漫画がずれた。
ぱさ、とマットの上に落ちる。
五月は慌ててそれを拾おうとしたが、私がもう一度口付けると、そのまま手をマットについた。
「ん……」
隣のキーボード音や小さな咳払いが、微かに聞こえてくる。
薄暗い照明の下、私は五月をシートに押し倒した。
私は五月の首筋に舌を這わせた。柔らかい肌が、触れた先からぴくりと震える。
ブラウスのボタンを一つ、また一つと外していく。
指が直接触れた素肌は、少し汗ばんでいた。
「ん……っ」
五月が無意識に甘い声を漏らした。
今度は鎖骨のくぼみへ舌を滑らせ、輪郭をなぞるように這わせると、五月の喉の奥から、再び小さな音が漏れた。
触れるたびに彼女の声が甘く零れ落ちる。
私はその反応に胸の奥が熱くなりながら、ブラウスの前を完全に開いた。
指先で露わになった素肌を優しく撫でると、五月が喉を反らしてまた声を漏らした。
「あ……っ!」
私は片手で素早く五月の口を塞いだ。
柔らかい唇が掌に押しつけられ、熱い吐息が指の間から漏れてくる。
——この子は、声を我慢できない。それを知っているのに、触れるのをやめられなかった。
「声、聞こえちゃうよ……」
耳元で低く囁くと、潤んだ瞳で私を見つめてきた。
隣の部屋から聞こえるキーボードの音が、妙に大きく感じる。
口を塞がれても、五月の喉の奥からは甘くくぐもった声が、抑えきれずに漏れ続けていた。
それでも私が手を止めずにいると、抑えこんだはずの声が、また甘く溢れ出してしまう。
「んんっ……!」
私は五月の膝から、スカートの内側へと手を忍び込ませた。
声を奪われた五月にできるのは、私の腕にしがみつくことだけだった。
その指に、ぎゅっと力がこもる。
声を我慢しているのに、体の方はどうしようもなく正直で、触れるたびに小さく跳ねる。
薄暗い照明と、仕切り一枚を隔てただけの、すぐ近くにある人の気配。
その狭い空間で、五月は涙目になりながら、必死にこの状況に耐えていた。
耐えながら、それでも確かに感じていた。
私は、そんな五月をただ可愛がった。
ねだるように潤んだ瞳も、押し殺しきれずに漏れる声も、震える体も、全部。
やがて、五月の体から少しずつ力が抜けていく。
掌の中で、乱れていた吐息が、ゆっくりと静まっていくのがわかった。
友達だった。今も、たぶんそうだ。でもこれは、友達にする触れ方じゃない。
——わかっていて、やめられなかった。




