五月の恋人
週末の土曜日。
元々は五月、唯花、私の三人で駅前のショッピングモールへ出かける予定だった。
しかし、前日の夜になって五月に大和から「明日会えないか」と連絡が来た際、五月が断りきれずに私たちの予定へ彼を合流させる形になった。
「ごめん! 待った?」
「ううん、私たちも今来たとこ」
駅の改札前で、五月が見知らぬ男と並んで歩いてきた。
短く整えられた黒髪に、清潔感のあるジャケット。
大和と名乗ったその男は、私と唯花に向かって丁寧に頭を下げた。
「急に俺まで参加してごめんね。大和です。五月がいつもお世話になってます」
「こちらこそ。真白です。こっちは唯花」
「よろしくお願いします」
唯花もペコリと頭を下げる。
大和は初対面の私たちに対しても気さくに接し、会話のテンポも良かった。
四人で向かったのは、駅前の大型ゲームセンターだった。
クレーンゲームやメダルゲームを一通り巡った後、フロアの奥にある音楽ゲームのエリアへと足を踏み入れる。
足元のパネルを踏んでリズムを取るダンスゲームの筐体を見つけた瞬間、五月の足が止まった。
画面には、新作の『ステップビート』のデモ映像が流れている。
五月は画面を見て、それからすぐにクレーンゲームの方へ顔を向けた。
「五月、あれやらないの?」
「え? いや、今日はみんなで来てるし」
普段なら、絶対に一回はやる。
財布を出して、私と唯花を観客席に立たせているはずだ。
大和が筐体の前で足を止めた。
「五月、こういうの好きなんだ?」
「まあ、ちょっとね」
「じゃあやろうよ。俺もやってみたい」
「え、いいの?」
五月は私と唯花を見た。
唯花が先に頷く。
「大丈夫だよ。見てるね」
「じゃあ、一回だけ」
五月はようやく財布を出した。
二人が筐体にコインを入れ、ステージに立つ。
難易度選択の画面で、五月の指が上の方へ動きかける。
大和が横から画面を覗き込んだ。
「俺、初見だから五月に合わせるわ」
「私もそんな上手くないし」
「じゃあ真ん中くらいで」
大和は迷わず中級のボタンを押した。
五月はその指先を見てから、パネルの上で靴の位置を直した。
アップテンポな電子音が鳴り響き、画面の指示に合わせて二人が足元のパネルを踏んでいく。
大和は初めてと言いながら、五月の動きを見てすぐにリズムを掴んだ。
五月も何度かミスをしながら、曲のサビに入る頃には笑っていた。
「二人とも、上手だね」
「うん。息ぴったり」
唯花と言葉を交わしながら、私はプレイに熱中する二人を眺めていた。
曲が終わると、五月はステージから降りて、先に大和へ頭を下げた。
「ごめんね、付き合わせちゃって」
「いや、普通に楽しかったけど」
「ほんと? 疲れてない?」
「疲れたけど、もう一回やれる」
大和は笑ってそう言った。
五月も笑った。
けれど、もう一回とは言わず、そのままクレーンゲーム機の方へ歩いて行った。
唯花がクレーンゲームに熱中していると、大和は自販機で四人分のスポーツドリンクを買って戻ってきた。
そのまま四人でプリクラ機へ入り、ぎこちないピースサインで何枚か写真を撮る。
遊び疲れた頃には、時計の針は夕方を指していた。
「じゃあ、この後ファーストフードでも行くか。俺が奢るよ」
「いや、悪いですよ。初対面で奢られるのはさすがに」
「俺、めっちゃバイトしてるし貯金もあるから。今日はカッコつけさせて」
「で、でも……」
「五月の友達に会う日だから、それなりに準備してきたんだよ」
大和の提案で、駅前のハンバーガーショップへ向かった。
ポテトとドリンクを頼み、テーブルを囲む。
「大和くん、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「大和、ごちそうさま」
「どういたしまして」
大和は率先して話題を振り、私たちを楽しませようと気を配っていた。
本当に、いい人だ。文句のつけようがない。
だからこそ、私は心の中でそっと手を合わせていた。
ごめん、大和くん。
あなたのその彼女に、私はもう「練習」なんて言い訳をつけて、際どいところまで手を出している。
そんなことを考えながら、私は何食わぬ顔で、冷めかけたポテトを一本つまんだ。
帰り道、大和は五月を駅まで送ると言った。
並んで歩く際、大和は自然な動作で五月を歩道のガードレール側へ誘導し、自分が車道側を歩く。
完璧な彼氏だ。非の打ち所がない。
だが、私の視界に映る五月は、終始大和の顔色を窺い、不自然なほど相槌を打ち続けていた。
純粋に楽しむ余裕はなく、大和を気にかけるための立ち回りに徹しているのが、傍目にも明らかだった。
駅へ向かう途中、五月が一度だけ振り返った。
目が合う。
大和の隣で浮かべていた笑顔とは違う、頬をかすかに赤らめた、照れたような顔。
この前、私の部屋で「練習」をしたあとに見たのと、同じ顔だった。
五月は逃げるように視線を落とすと、ひらりと手だけ振って、また前を向いた。
お似合いの二人が、夕方の人混みに紛れていく。
その背中を見送りながら、私はもう次の口実を探していた。
五月と、また会う口実を。




