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女の私が女の子を抱かなきゃ帰れないって、どういうこと!? ~エロゲ世界に転生したのでヒロイン十六人を攻略します~  作者: 円井ねここ
第三章 練習だと、言い聞かせて

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五月の恋人

 週末の土曜日。

 元々は五月、唯花、私の三人で駅前のショッピングモールへ出かける予定だった。

 しかし、前日の夜になって五月に大和から「明日会えないか」と連絡が来た際、五月が断りきれずに私たちの予定へ彼を合流させる形になった。


「ごめん! 待った?」

「ううん、私たちも今来たとこ」


 駅の改札前で、五月が見知らぬ男と並んで歩いてきた。

 短く整えられた黒髪に、清潔感のあるジャケット。

 大和と名乗ったその男は、私と唯花に向かって丁寧に頭を下げた。


「急に俺まで参加してごめんね。大和です。五月がいつもお世話になってます」

「こちらこそ。真白です。こっちは唯花」

「よろしくお願いします」


 唯花もペコリと頭を下げる。

 大和は初対面の私たちに対しても気さくに接し、会話のテンポも良かった。


 四人で向かったのは、駅前の大型ゲームセンターだった。

 クレーンゲームやメダルゲームを一通り巡った後、フロアの奥にある音楽ゲームのエリアへと足を踏み入れる。

 足元のパネルを踏んでリズムを取るダンスゲームの筐体を見つけた瞬間、五月の足が止まった。

 画面には、新作の『ステップビート』のデモ映像が流れている。

 五月は画面を見て、それからすぐにクレーンゲームの方へ顔を向けた。


「五月、あれやらないの?」

「え? いや、今日はみんなで来てるし」


 普段なら、絶対に一回はやる。

 財布を出して、私と唯花を観客席に立たせているはずだ。


 大和が筐体の前で足を止めた。


「五月、こういうの好きなんだ?」

「まあ、ちょっとね」

「じゃあやろうよ。俺もやってみたい」

「え、いいの?」


 五月は私と唯花を見た。

 唯花が先に頷く。


「大丈夫だよ。見てるね」

「じゃあ、一回だけ」


 五月はようやく財布を出した。

 二人が筐体にコインを入れ、ステージに立つ。

 難易度選択の画面で、五月の指が上の方へ動きかける。

 大和が横から画面を覗き込んだ。


「俺、初見だから五月に合わせるわ」

「私もそんな上手くないし」

「じゃあ真ん中くらいで」


 大和は迷わず中級のボタンを押した。

 五月はその指先を見てから、パネルの上で靴の位置を直した。

 アップテンポな電子音が鳴り響き、画面の指示に合わせて二人が足元のパネルを踏んでいく。

 大和は初めてと言いながら、五月の動きを見てすぐにリズムを掴んだ。

 五月も何度かミスをしながら、曲のサビに入る頃には笑っていた。


「二人とも、上手だね」

「うん。息ぴったり」


 唯花と言葉を交わしながら、私はプレイに熱中する二人を眺めていた。

 曲が終わると、五月はステージから降りて、先に大和へ頭を下げた。


「ごめんね、付き合わせちゃって」

「いや、普通に楽しかったけど」

「ほんと? 疲れてない?」

「疲れたけど、もう一回やれる」


 大和は笑ってそう言った。

 五月も笑った。

 けれど、もう一回とは言わず、そのままクレーンゲーム機の方へ歩いて行った。

 唯花がクレーンゲームに熱中していると、大和は自販機で四人分のスポーツドリンクを買って戻ってきた。

 そのまま四人でプリクラ機へ入り、ぎこちないピースサインで何枚か写真を撮る。

 遊び疲れた頃には、時計の針は夕方を指していた。


「じゃあ、この後ファーストフードでも行くか。俺が奢るよ」

「いや、悪いですよ。初対面で奢られるのはさすがに」

「俺、めっちゃバイトしてるし貯金もあるから。今日はカッコつけさせて」

「で、でも……」

「五月の友達に会う日だから、それなりに準備してきたんだよ」


 大和の提案で、駅前のハンバーガーショップへ向かった。

 ポテトとドリンクを頼み、テーブルを囲む。


「大和くん、ありがとうございます」

「ありがとうございます」

「大和、ごちそうさま」

「どういたしまして」


 大和は率先して話題を振り、私たちを楽しませようと気を配っていた。


 本当に、いい人だ。文句のつけようがない。

 だからこそ、私は心の中でそっと手を合わせていた。

 ごめん、大和くん。

 あなたのその彼女に、私はもう「練習」なんて言い訳をつけて、際どいところまで手を出している。

 そんなことを考えながら、私は何食わぬ顔で、冷めかけたポテトを一本つまんだ。


 帰り道、大和は五月を駅まで送ると言った。

 並んで歩く際、大和は自然な動作で五月を歩道のガードレール側へ誘導し、自分が車道側を歩く。

 完璧な彼氏だ。非の打ち所がない。

 だが、私の視界に映る五月は、終始大和の顔色を窺い、不自然なほど相槌を打ち続けていた。

 純粋に楽しむ余裕はなく、大和を気にかけるための立ち回りに徹しているのが、傍目にも明らかだった。


 駅へ向かう途中、五月が一度だけ振り返った。

 目が合う。

 大和の隣で浮かべていた笑顔とは違う、頬をかすかに赤らめた、照れたような顔。

 この前、私の部屋で「練習」をしたあとに見たのと、同じ顔だった。

 五月は逃げるように視線を落とすと、ひらりと手だけ振って、また前を向いた。

 お似合いの二人が、夕方の人混みに紛れていく。

 その背中を見送りながら、私はもう次の口実を探していた。

 五月と、また会う口実を。

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