↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女の私が女の子を抱かなきゃ帰れないって、どういうこと!? ~エロゲ世界に転生したのでヒロイン十六人を攻略します~  作者: 円井ねここ
第三章 練習だと、言い聞かせて

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/136

練習、だからね

 週末、五月は私の家へ遊びに来ていた。

 自室のカーペットに座り込み、二人でバター醤油味のポテチをつまむ。

 五月は自分のスマホを横向きにして、動画アプリの短いバラエティ動画を流した。

 配信者がオーバーリアクションする度に五月は笑っていた。

 私もそれにつられて笑う。

 最初は他愛のない雑談だった。

 学園の先生の話。

 駅前のゲーセンの新しい音ゲーの話。

 コンビニの限定アイスが出たという話。

 けれど、動画が次の一本へ切り替わったあたりで、五月はポテチを一枚取ったまま動かなくなった。

 バター醤油の粉がついた指を見て、ポテチをもう一枚取ろうとして、やめる。

 結局、私の前にあったティッシュで指を拭いた。


「五月、なんかあった?」

「うーん、あったというか……」

「私でよければ、話聞くけど」

「じゃあ……」


 五月はスマホの音量を一つ下げた。

 それから袋から手を離し、私の目を真っ直ぐに見据えてきた。


「彼氏とさあ、喧嘩しちゃった。……ラブホ行ったんだけど、私が直前で怖くなっちゃって。ごめんって謝ったら、すごい雰囲気悪くなっちゃった」

「そう、なんだ」

「彼氏が悪いとかじゃないんだよ。急だった、ごめんって、ちゃんと言ってくれたし」

「うん」

「でも、私もごめんって言って、大和もごめんって言って、二人でごめんごめん言ってたら、何喋ればいいか分かんなくなった」


 五月は膝の上のクッションを抱え直した。

 部屋に動画の音声はもう響いていない。スマホの放つ無機質な光だけが、五月の輪郭を白く照らし出していた。


「……私、なんで直前になって逃げちゃったんだろう。彼氏のこと、嫌いじゃないのに。ラブホだって、覚悟して入ったのに」


「嫌いじゃないけど、好きじゃないってことなのかも?」


 私がそう言った直後、急に顔を上げた。


「……分かった! 緊張しちゃったのかも!」

「初めては、緊張するよね」

「やっぱり真白、経験あるんじゃん!」

「いや、一般論として……」


 私が慌てて取り繕うと、五月は再び深くため息をついた。


「なんかさ、キスが私、あんまり好きじゃないのかもな」

「……キスの何が嫌だったの?」

「彼氏に舌を入れられかけて、私、どうすればいいか分からなくて。それで怖くて、反射的に離れちゃった」


 五月が自分の唇を指でなぞる。


「そしたら、雰囲気が最悪なことに! はあ〜、辛い! あーもう、分かんない!」


 五月はクッションに顔を押し付け、ジタバタと足を動かした。


「何が分かんないの?」

「キスが苦手なのか、彼氏が苦手なのか、緊張したから逃げちゃったのか」


 クッション越しの籠もった声が室内に響く。

 私はポテチの袋を閉じながら、何か気の利いたことを言おうとして失敗した。

 こういう時、友達として正しい言葉が何なのか分からない。

 『もう一度話しなよ』『無理しなくていいよ』――綺麗事はいくつも浮かぶ。だが、どの言葉を選んでも、今の五月には届かないと直感した。


「じゃあ、私としてみる?」

「え?」


 五月がクッションから顔を上げる。


「キス」

「あはは! 確かに、真白と練習するのありかも〜!」


 冗談と受け取り、五月が明るい声で笑う。

 ここで一緒に笑って、ポテチをもう一枚取ればよかった。

 なのに、私は続けた。


「じゃあ、私が彼氏役? 名前なんだっけ?」

「大和」

「僕、大和!」

「大和はそんなこと言わないよ〜!」


 五月はクッションを抱えたまま笑っている。

 まだ、ただの悪ふざけだった。

 私はローテーブルを部屋の端に寄せた。


「五月」

「な、なに。急にそんな顔しないでよ」

「ちゃんとこっち向いて」

「……ちょっと待って、本気……?」


 私は五月の肩に手を添えた。

 五月はクッションを抱えていた腕をほどき、カーペットに手をついた。


「え、なに。押し倒す練習までやるの?」

「大和はそういう感じじゃないの?」

「知らないよ、されたことないし」


 五月は笑いながら、クッションを横へどかした。

 そのまま、自分からカーペットに仰向けになる。

 カーペットに仰向けになった五月は、まだ悪ふざけの延長だと信じて笑っている。


 だから、私もそこで止まればよかった。

 笑って、はい練習終わり、と言えばよかった。


 けれど、床に散らばった髪と、無防備に晒された首筋。私の体重に押されて乱れる呼吸。

 それらの事実を突きつけられた瞬間、私の中で『友達』という境界線が完全に瓦解した。


「へ? ま、真白?」


 私が上から覗き込むと、五月はそこで初めて笑うのをやめた。

 両手が私の胸元に当たる。

 拒絶の意志はなく、ただ困惑だけがその震える指先から伝わってくる。


「嫌だったら、やめる」

「……嫌、ではないけど」


 その返事を聞いてから、私は五月の唇へ、自分の唇を重ねた


「……っ……!」


 もう一度唇を重ねる。

 今度は、触れるだけでは終わらせなかった。

 五月の唇を舌先でなぞると、戸惑うように息が漏れる。

 開いた隙間へ舌を差し入れると、バター醤油の塩気より先に、五月の熱が舌に触れた。

 先程までの戸惑いを断ち切るべく、私は五月の口内を執拗に探った。

 五月の喉から、甘い声が漏れる。


「んっ……ぁ……まし、ろ……」


 五月の舌が、不器用に私の舌へ絡みついてくる。

 唾液の交じる水音が静かな部屋に響き渡り、五月の呼吸が次第に荒くなっていく。

 私がさらに深く舌を絡めると、五月の手から力が抜け、カーペットの上へだらりと落ちた。

 熱を帯びた息遣いが、私の耳元に届く。

 私は五月の服の裾へ手を伸ばし、ブラウスのボタンを外し始めると五月は体を強ばらせる。


「ま、真白!? 待って、ちょっと……」


 五月の声がわずかに上ずり、私の手首を掴んだ。力は入っていない。


「練習だからね」


 短くそう言って、私はボタンをさらに外した。五月のブラウスがはだけ、熱を帯びた肌と白い下着が露わになる。

 彼女が顔を赤くして視線を逸らそうとした瞬間、私の掌がその素肌に触れた。


「んっ……」


 五月が微かな声を漏らした。

 熱い肌の感触が掌にじんわりと伝わってきて、彼女の呼吸が一気に浅く速くなった。


「あ……っ」


 私はそのままスカートの中に手を滑らせる。


「……んっ」


 五月の喉から、声にならない声が漏れた。

 その震えを、私は唇でそっと塞ぐ。

 カーテン越しの昼の光が、重なる二人の輪郭を白く滲ませている。

 五月の指が、すがるように私の背中へ回った。

 もう、どちらの吐息なのかも分からない。

 「練習だから」――そう言い訳した言葉は、とっくに溶けて消えていた。

 私は五月の熱に、深く沈み込んでいく。

 視界に五月だけを映して、私はそっと目を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。