↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女の私が女の子を抱かなきゃ帰れないって、どういうこと!? ~エロゲ世界に転生したのでヒロイン十六人を攻略します~  作者: 円井ねここ
第三章 練習だと、言い聞かせて

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/136

私のキスはチョコ味

 放課後の教室で帰り支度をしていると、廊下側のドアが開いた。

 雪乃が入口に立っていた。

 私の席を見て、それから私の机の上に出ていた鞄へ視線を移す。

 私が声をかける前に、雪乃はドアから手を離し、自分の席へ向かった。

 雪乃もどうやらこれから帰るらしい。

 その直後、五月が私の机にファーストフード店のポテト無料券を一枚置いてきた。


「真白、食べに行かない?」

「今日は真っ直ぐ帰る。疲れてるから」

「えー、これ今日までなんだよ! もったいないじゃん! 一生のお願い!」


 元の世界に帰るためには、早く攻略を進めなければならない。

 そう分かっていながらも、私はこれ以上誰かと向き合うことを避けようとしていた。

 雪乃の顔も、零の声も、まだ頭の中で整理できてない。

 それなのに次の子を攻略だなんて…………。

 だから今日は帰る。

 帰って、部屋でベッドで横になって何も考えない。

 そう決めたはずだった。

 しかし、五月が両手を合わせて必死に食い下がってくるため、私は結局折れてファーストフード店へと足を運んでいた。


 プラスチックのトレイを並べ、向かい合ってフライドポテトをつまむ。

 五月はナゲットまで頼んでいた。ソースの容器へ深く突っ込みすぎて、指先を汚した。

 私が無言で紙ナプキンを差し出すと、五月はそれを受け取りながら、テーブルに置いていたスマホの画面へ目を向けた。

 大和という名前でメッセージの通知が来ている。

 五月は画面を一度だけ確認し、返信せずにスマホを裏返した。

 そして、ソースのついたナゲットを持ったまま、私をじっと見つめてくる。

 言葉を発するタイミングを、測っているようだった。


「先週、さあ……キスしちゃったんだよね」

「……そう、なんだ」

「ファーストキスは、レモン味っていうけど、一緒に食べてたポテチの味だった」

「ふーん。惚気るじゃん」


 適当に相槌を打ちながら、私の脳裏にふと雪乃と唇を重ねた記憶が蘇る。

 雪乃の時は、直前にケーキを食べていたはずだ。

 私がショートケーキで、雪乃はチョコケーキ。


「真白は何味だった?」

「うーん、私はチョ……」

「チョ?」


 無意識に出かかった言葉を、私は慌てて飲み込んだ。

 五月が身を乗り出してくる。


「ちょーっと経験ないからわかんないかな〜!」

「今何か言いかけたじゃん! 教えてよー!」

「いや、キスとか、したことないよ!?」


 そう、キスはまだしていない。

 このループでは。


「怪しい! 絶対経験ある人のそぶりだー!」

「それで、彼氏とはいい感じなんだ?」


 無理やり話題を逸らすと、五月は追及を諦めてストローに口をつけた。


「まあ、いい感じ、なのかな?」

「なのかな、って何」

「いや、嫌じゃなかったんだよ。キスも」

「うん」

「でもさ、キスした後に、彼氏がすごい喜んでて」

「うん」

「それ見たら、あたしも嬉しい顔しなきゃって焦っちゃって」

「……しなきゃ?」

「だって、付き合ってるんだよ? 相手が喜んでるのに、私だけ冷めた顔してたら申し訳ないじゃん」

「申し訳ないから、嬉しい顔を作ったってこと?」

「うーん……作ってるっていうか、彼女の正解の反応を出さなきゃいけないって焦ったっていうか」


 五月は視線を落とし、ストローの袋を指でクシャクシャに丸め始めた。


「私、恋愛とかよくわかんないからさ。どう振る舞うのが正解か、いっつも悩んじゃうんだよね」

「別に、正解なんて——」


 私が言い終わる前に、五月が勢いよく顔を上げた。


「あ! そういえば真白に彼氏の写真見せてなかったよね」

「うん、見てない」

「この間プリ撮ったの」


 五月がスマホを取り出し、画面をこちらへ向けてくる。

 明るい髪色の、人当たりの良さを感じさせる男子生徒が写っていた。

 しかし、私の目は彼氏よりも、隣に写る五月の顔へ引き付けられた。

 五月は彼氏の肩に寄って、頬の横でピースを作っていた。

 加工で瞳が光って、口元にはハートが落書きされている。

 いつもの五月なら、変な顔をして台無しにしそうなのに。

 画面の中の五月は、ちゃんと彼女みたいに笑っていた。


「結構イケメンじゃん彼氏」

「プリの補正かかってるけど、私の好みの顔ではある。かっこいい」

「はいはい、惚気ごちそうさま」


 私がため息とともに告げると、五月はスマホをしまった。

 気づけば私たちはポテトを食べ終わっていた。


「そろそろ帰りますか〜!」

「そうだね」


 そう言ってトレーを片付け、ゴミ箱へ捨てた直後だった。

 五月の制服のポケットで、スマホが短く震えた。

 画面を確認した五月の顔から、すっと表情が消える。


「どうしたの」

「……彼氏から。今週の土曜日、デートしようって言われちゃった」


 五月の声には、喜びよりも明確な戸惑いが混じっていた。


「いいじゃん」

「……うん。いいんだけどね」


 五月は伏し目がちに呟き、スマホをポケットへ押し込んだ。

 私たちは並んで店を出た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。