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女の私が女の子を抱かなきゃ帰れないって、どういうこと!? ~エロゲ世界に転生したのでヒロイン十六人を攻略します~  作者: 円井ねここ
第二章 救うのと、利用するのと

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都合のいい世界で

 風呂から上がると、零はテレビを見たいと言った。

 リビングでは出海がバラエティ番組を見ていたので、零を隣に座らせる。

 出海がリモコンを渡すのを見届けてから、私は自室へ戻った。


「イルカイル。出てきて」


 呼ぶと、ベッドの上にイルカイルがぽんと現れた。

 いつもの間抜けなイルカ顔が、こちらへ向く。


「お呼びイルカ?」

「聞きたいことがある」

「なんでも聞くイルカ! 答えられる範囲で答えるイルカ!」

「そこがもう信用できないんだよね……」


 私はベッドの上に置いてあったクッションをローテーブルの前へ引き寄せ、床に座った。

 イルカイルはベッドの上からローテーブルへ跳ねてきた。


「私がずっと学校をサボっても、両親も妹も幼なじみも何も言ってこない。学校からも連絡はこない」

「そうイルカね」

「そうイルカね、じゃない」


 私はスマホを開き、通知欄を確認した。

 唯花からのメッセージはある。

 でも内容は、今日の授業のノートを送ろうか、というものだけだ。

 学校からの着信はない。

 担任からの連絡もない。


「この世界って、警察いるよね?」

「いるイルカ」

「私、街で警察署があったのを見たことがある」

「あるイルカ」

「零の母親が捜索届を出していたりしないの?」


 イルカイルは胸びれをぱたぱた動かした。


「そこは安心するイルカ! 全部君の都合のいいように世界は解釈するイルカ!」


 私は怒りでイルカイルを掴みそうになって、やめた。

 こいつはホログラムだ。

 代わりに、ローテーブルの上に置いてあったチョコの包み紙を丸める。


「私が全知全能ってこと?」

「違うイルカ! でもまあ、似たものイルカ!」

「似たものってどういうこと?」

「外部主人公が攻略イベントを進められるように、世界が細かい摩擦を減らすイルカ」

「最悪。世界ぐるみでエロゲのご都合主義をやってるってこと?」

「ループを終わらせるために必要なことイルカ」


 私は丸めた包み紙をゴミ箱へ投げた。

 外れた。


「つまり、私が零を家に泊めても、お母さんは深く聞かない。学校を休んでも大事にならない。零の家出も、特に問題にならず流される」

「そういうことイルカ」

「だったら、零のお母さんの感情も操作できたりするってこと?」

「それはできないイルカ」

「零が私を好きになったのは?」

「零本人の感情イルカ」

「零が『やだ』って言ったのは?」

「零本人の意思イルカ」


 私はローテーブルの上で揺れているイルカイルを見た。

 都合よく進む世界。

 家族も、学校も、警察も、私の行動を邪魔しない。

 ヒロインと二人きりになるための時間が生まれる。

 泊めても、休んでも、触れても、話が進む。


 なのに、零の母親の問題だけは消えない。

 零の「やだ」は、零が自分で言うしかない。

 私はローテーブルの上に置いたスマホを裏返した。


「何もかもが都合よく進む世界、か」

「全てではないイルカ」

「でも、かなり都合がいい」

「攻略対象と親密になるための進行補助イルカ」

「その言い方やめて」


 イルカイルはローテーブルの上でくるりと回った。


「しかし、お盛んイルカね〜!」

「う、うるさい!」


 私はクッションを掴み、イルカイルへ投げた。

 クッションはローテーブルの角に当たり、イルカイルの横へ落ちる。

 イルカイルは胸びれで口元を隠している。


「もうこんなにも溜まったイルカよ!」


 イルカイルが胸びれを振ると、ローテーブルの上に瓶が現れた。

 瓶の中で、桃色の光がゆらゆら揺れていた。

 目盛りの半分を越えている。

 イルカイルが胸びれで瓶を指した。


「瓶はもう五分の三溜まっているイルカ!」

「……五分の三」

「情事を連続でして、いい調子イルカ! この調子で行くイルカよ〜! あと三回情事をすれば溜まって次に行けるイルカ!」


 このまま流されて零と身体を重ねればいい。

 どうせこの世界はリセットされる。

 学校も家族も都合よく流してくれる。

 零も、今は私を求めている。

 イルカイルの言う通りにすれば、瓶は溜まる。

 でも、このまま零の問題を解決せずにいたくない。

 これは私の自己満足かもしれない。

 でも、零の力になりたい。


「私は私の方法でラブエナジーを溜める」

「で、でも、情事も大事イルカよ?」

「黙れ」


 イルカイルが口を閉じる。

 リビングから、出海の笑い声が聞こえた。

 そのあと、零の声が続く。


「真白」


 私はスマホを手に取り、唯花から送られてきたノートの写真を閉じた。

 明日の授業より先に、零に聞かなきゃいけないことがある。

 零がこれからどうするか。

 それから、零が本当に帰りたい場所のこと。


「今行く」


 瓶の桃色の光を見ないまま、私は部屋のドアを開けた。

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