一緒に、お風呂
零が来てから三日が経った。
あの日、私と零が身体を重ねてから、零は意思表示をはっきりするようになった。
「ごちそうさまでした」
零は箸を揃えて、空になった茶碗の横に置いた。
昼ごはんは、母さんが作り置きしてくれていた焼きおにぎりと卵焼きだった。
私は皿を重ね、流しへ運ぶ。
「足りた?」
「卵焼き、もう一つ食べたい」
「分かった」
私は冷蔵庫を開け、保存容器から卵焼きを一切れ取って小皿に載せた。
零の前に置くと、零は箸で端を挟む。
「甘くて美味しい。卵焼き、好き」
「……そっか」
――――好き。
零の口から、さらっと出た。
私は皿を洗い終わり、蛇口を閉める。
「じゃあ、部屋戻ろっか」
「うん」
***
階段を上がり、私の部屋へ戻る。
ローテーブルの前に座ると、零もすぐ横に座った。
肩が触れる。
いや、触れるどころじゃない。
零は私の腕に自分の腕をぴったり押しつけ、膝まで寄せてくる。
「ちょっと暑いよ」
「真白の横がいい」
零は私の手を見て、自分の指を一本ずつ絡めてきた。
恋人繋ぎだ。
私は、何かすることを探す。
学校をサボっている。
家には二人きりで、密着して恋人繋ぎまでしている。
これ以上、状況に任せるとまた変な方向へ行く。
「そうだ。アイス、食べよう」
「アイス」
「冷凍庫にあるはず。何味がいい?」
「いちご味」
即答だった。
「じゃあ取ってくるね」
「私も」
零も立ち上がる。
私は手で制した。
「いや、冷凍庫行くだけだから。ここで待ってて」
「行く」
零は私の腰に腕を回してきた。
ぴったりくっついたまま離れない。
「歩きづらいんだけど」
「離れたくない。だめ?」
私は廊下の方を見た。
家には誰もいない。
それでも、階段をこの状態で降りるのはかなり危ない。
「階段はだめ。落ちる」
「分かった」
零は腕を外した。
外したけれど、私の指に零の指が絡まって恋人繋ぎになる。
私たちは手を繋いだまま階段を降りた。
***
夜になり、母さんたちが帰ってきて、夕飯を食べた。
零は、味噌汁のおかわりを頼んだ。
「おいしい、です」
「お母さん、褒められてるよ」
「嬉しいわねえ」
母さんが笑って、鍋から味噌汁をよそう。
零はそれを受け取り、私を見る。
「おかわりした」
「うん。できたね」
「できた」
なんの報告だ。
でも、報告してくるのが可愛いくて困る。
夕飯の後、私は食器を流しへ運ぶと、先にお風呂入って来てとお母さんに言われた。
「零、先にお風呂入って来なよ」
部屋に戻って零に着替えを渡そうとすると、零が布団の上から顔を上げた。
「一緒に入ろう」
私は着替えを抱えたまま固まった。
「……今、なんて?」
「一緒に入りたい」
「聞き間違いじゃなかった」
「だめ?」
「だめというか、いや、風呂だよ?」
「うん」
零は布団から立ち上がり、私の前まで来た。
上目遣いで私に懇願してくる。
「一緒に入りたい」
「そんなに零が言うなら……」
私は脱衣所へ向かい、棚からタオルを二枚取り出した。
後で使う分、洗面台の横に並べておく。
浴室のドアを開けると、白い湯気が流れ出てきた。
湯船には、もうたっぷりとお湯が張られている。
零と一緒に中へ入り、私がシャワーをひねると、零は短く言った。
「洗いっこしようよ」
零が石鹸を手に取って、私に背中を向ける。私は零の後ろに回り込み、泡を掌に含ませた。
指先で零の背中を撫で始めると、熱いお湯が零の肌を伝い、私の手のひらまでその熱が染み込んでくる。
指を動かすたび、零の息がわずかに乱れる。
「ひゃん……っ」
腰の曲線を撫でた瞬間、零が声を漏らして体をびくっとさせた。
「……ちょっと、変な声出さないでよ」
零が振り返らないまま、言った。
「真白のえっち」
「な……っ!零が洗ってって言ったんでしょ!?」
零が振り向いた。頰に薄い赤が差している。目が熱を帯びていた。
そのまま近づいてくる。熱いお湯が零の体を滑り落ち、私の肌にもかかった。
濡れた睫毛が、近い。
次の瞬間、零が私の首に腕を回し、唇を重ねてきた。
唇は熱かった。舌が絡む。——シャワーの音が、遠くなった。
零の体が胸に押しつけられてくる。石鹸の泡で滑る肌の感触が、一気に伝わった。
「真白……もっと」
掠れた声でねだられるとどうしようもなくなってしまう。
私は零の腰を抱き寄せた。腕の中で、体が細かく震えている。しがみついてくる力が強くなった。
「んっ……」
零の小さな声を聞き、頭の芯が少しずつ溶けていくのを感じていた。
熱いお湯と零の体温と、零の短い息に、私は抵抗する気がなくなっていた。
指が私の背中を這い、零の唇が私の首筋に触れるたび、甘い熱が体の中を駆け巡る。
私は零を抱きしめたまま、荒い息を整えられずにいた。
やがてシャワーの音も、湯気も、全部どこかへ消えた。




