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女の私が女の子を抱かなきゃ帰れないって、どういうこと!? ~エロゲ世界に転生したのでヒロイン十六人を攻略します~  作者: 円井ねここ
第二章 救うのと、利用するのと

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初めて、自分で選んだ音

 審査中のロビーで、私はプログラムを開いたり閉じたりしていた。

 周りでは、出演を終えた生徒たちが小声で話している。


「さっきの子、途中で曲変えたよね」

「あれって失格じゃない?」

「すごかったけど、コンクールではないよね」


 コンクールとして正しくないのは、たぶん本当だ。

 でも、零が初めて自分で選んだ音を、ただの失敗として片づけられるのは嫌だった。

 係の人がロビーに出てきて、結果発表のため客席へ戻るよう案内する。

 私はプログラムを鞄にしまい、もう一度ホールへ入った。


 結果発表は、ホールの舞台上で行われた。

 司会者がマイクの前で賞の名前を読み上げるたび、客席のどこかで拍手が起こる。

 最優秀賞、優秀賞、奨励賞。

 最後まで、霧島零の名前は呼ばれなかった。

 私は拍手の中でプログラムを閉じ、ホール入り口のロビーへ向かった。

 ここで待っていれば零に会えるはずだ。

 柱の陰で待っていると、廊下の奥から怒声が響いてきた。


「どういうことですか、あれは! 課題曲ではなく、あんなデタラメなものを弾くなんて!」


 零のお母さんの声だった。

 私はそっと声のする方へと歩み寄る。

 壁際で、白いブラウス姿の零がお母様に詰め寄られていた。


「答えなさい、零! どうしてあんなことをしたの!?」

「……お母様」

「あなたには才能があるのよ。課題曲なら、十分に評価されたはずなのに」

「……ごめんなさい」

「謝れば済むことではありません。あなたは何のために練習してきたの」


 零の口が、もう一度「ごめんなさい」の形になりかけた。

 私は壁の角から飛び出しそうになって、止まる。

 ここで私が割って入ったら、また私の言葉になる。

 零が何を言うのか、聞かなきゃいけない。


 零は顔を上げ、正面からお母さんを見た。

 今まで一度も反抗したことのない彼女が、言葉を選ぶように口を開く。


「私は、これを弾きたかった」

「何を言っているの。あなたが弾くべき曲は、プログラムに書いてあったでしょう」

「お母様の曲は、弾けます」

「だったら、どうして」

「でも、今日は、あれを弾きたかった」

「なっ……」


 お母さんの顔が怒りで歪んだ直後、零の視線が私を捉えた。

 目が合った瞬間、私の体は勝手に動いていた。

 お母さんが振り上げた手を躱し、私は零の腕を掴む。


「行こう!」

「えっ……」

「あなた、待ちなさい!」


 お母さんの制止の声を背に受けながら、私は零を引っ張り、ホールの外へと駆け出した。

 どうして彼女を連れ出したのか、その理由は自分でも説明できない。

 ただ、無我夢中で足を動かした。


***


 裏通りの公園に入ったところで、私はベンチの背に手をついた。

 ホールの中では静かだった零も、隣で肩を上下させている。

 紺のスカートの裾に、走っている間に付いた葉っぱが一枚くっついていた。

 零はそれに気づかず、まだホールの方を見ている。


「疲れたね。喉乾いた」

「……うん」


 ベンチの横に設置された自動販売機を指さす。


「あ、自販機がある。何か飲む?」

「私、今お金持ってない……」

「私が奢るよ。零、どれがいい?」


 私が財布を取り出して小銭を入れると、零は自販機のボタンを見たまま答えた。


「真白が好きなのでいい」


 私は危うく、じゃあお茶でいい? と言いかけた。

 口を閉じる。

 ここで私が決めたら、また同じことを繰り返す。


「私は関係ないよ。零が自分で選んで」

「……私が?」


 零は自販機の前へ行き、並んだボトルを端から順番に見ていった。

 水、お茶、スポーツドリンク、缶コーヒー。

 全部眺めて、視線を彷徨わせて、すぐにはボタンを押さない。

 やがて、麦茶のボタンに指を添えた。


「ほら、しっかりボタン押して」


 私の声に背中を押され、零はボタンを押し込んだ。

 取り出し口に落ちたペットボトルを拾い上げ、彼女へと手渡す。


「どうぞ」


 零は麦茶を受け取ると、ボトルの水滴を見つめた。


「これで、よかったのかな……」

「間違いじゃないよ。自分で麦茶を選んだだけじゃん」


 私の言葉を聞き、零はキャップを回して一口飲んだ。


「このまま今日は私の家に泊まる? お母さん、ものすごく怒っていたじゃない」

「大丈夫。帰る」

「怒られるよ?」

「うん。怒られる」

「怒られるって分かってても、帰るんだ」


 零は麦茶のラベルを見た。


「だって、帰らないと、今日私が弾いたことまで、逃げて無かったことになるから」

「……そっか」


 彼女の決意を揺るがすことはできない。

 私たちは公園を後にし、並んで歩き始めた。


「明日、音楽室にいる?」

「分からない」

「私は行くね。零のこと待ってるから」

「……うん」

「あ、待って。連絡先交換しよ」

「どうすればいい?」

「貸して。登録する」


 私は零のスマホを借りて自分の連絡先を追加し、自分のスマホにも零を友だち登録した。

 画面に表示された霧島零の名前を確認して、ポケットへしまう。


 やがて、石壁に囲まれた屋敷が見えてきた。

 ここで別れなければならない。


「またね、零」

「うん、またね」


 門をくぐる彼女の背中を見送り、私は家路についた。

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