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女の私が女の子を抱かなきゃ帰れないって、どういうこと!? ~エロゲ世界に転生したのでヒロイン十六人を攻略します~  作者: 円井ねここ
第二章 救うのと、利用するのと

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ゲーセン、行こうよ

 十六夜学園の最寄り駅前には、学生向けの商業施設が立ち並んでいた。


「結構駅前って色々あるんだね」


 並んで歩きながら私が声をかけると、零は周囲の看板に視線を巡らせていた。


「あ、ゲーセン行こうよ」

「ゲーセン……。お母様が、不良が行くところだから行ってはいけないと」

「行こう?」

「……分かった。あなたが望むなら……」


 私の強引な誘いに、零は頷いてついてきた。

 門限の話をするだけで表情が硬くなっていたのに、私が言うと、零は母親の言いつけを破ってしまう。

 嬉しい、じゃない。

 今のはたぶん、嬉しがるところじゃない。

 お母様の禁止を、私の一言が上書きしただけだ。

 電子音が重なる店内に入り、私はクレーンゲームの前で足を止めた。

 ケースの中には、丸いマスコットとチョコの箱が並んでいる。


「零、どれ狙う?」

「真白が決めて」

「零が欲しいやつ」

「どれでもいい」


 結局、私がマスコットを指した。

 零はボタンの前に立ち、私の説明通りにアームを動かす。

 景品は持ち上がらず、元の場所に転がった。


「惜しい。次、もうちょい右」

「右」


 零はもう一度ボタンを押した。

 遊んでいるというより、私の言葉を順番に実行していた。

 最後に、私は店の奥にあるプリントシール機のカーテンを開けた。


「記念にプリントシール撮ろう!」

「何それ」


 零は、ブースの入口で足を止めた。

 私は先に中へ入り、画面の前に立つ。

 撮影のカウントが始まっても、零はレンズではなく、光る画面の文字を読んでいた。


「零、こっち。画面じゃなくて、上のレンズを見るの」

「上」

「そうそう。あと、もうちょっとこっち」


 私は零の袖をつまみ、自分の方へ寄せた。

 肩が触れる位置で零が止まり、私の顔を見る。


「これでいい?」

「いい。ほらポーズ取って」

「どうすれば……」

「ほら、ピース」


 フラッシュが白く光る。

 画面の中で、私は慌ててピースを作っていた。零はピースの形が分からなかったらしく、私の指を見てから、自分の手を同じ形にしようとしている途中で撮られていた。


「あはは、零、惜しい!」

「惜しい?」

「もう一回やろ。次は一緒にピース」


 二枚目は、私が零の手を取って指の形を作った。

 零はレンズを見たまま、私が作ったピースをそのまま掲げている。

 撮影が終わると、機械から細長いシールが出てきた。

 私は印刷された写真を覗き込んだ。

 画面の中の私は変な顔で笑っていて、零は作りかけのピースのままレンズを見ている。


「ほら、これ。今日の証拠」

「悪いことをした?」

「違う違う。そうじゃなくて、遊んだ記録っていうか……」


 言いながら、私は備え付けのハサミを手に取った。

 勝手に記録にしたいのは、私の方だった。

 私は印刷されたシールを二等分に切り分けた。


「半分に切るね。はい、零の分」


 私が差し出しても、零は手を出そうとしない。

 ただじっと、切り分けられたシールを見つめているだけだ。


「もらって欲しいな」

「……分かった。あなたが望むなら」


 零はシールを受け取り、ブレザーのポケットにしまった。

 記念、という言葉を零は知らない顔で飲み込んだ。

 私が欲しがったから、零はそれを持った。

 ゲームセンターを出た後も、私たちは駅前を歩き回った。

 ファーストフード店に入ってフライドポテトをつまみ、ベンチに座ってクレープを食べる。

 その後もウィンドウショッピングをして時間を潰し、駅前の時計塔を見上げた時には、すでに十六時半を回っていた。


「帰らないと」


 零がそう呟いた。十七時の門限が迫っている。

 私は零の方を向いて、口を開いた。


「ねえ、帰らないで私の家くる? 晩御飯一緒に食べようよ」

「……」


 零の足が止まり、コンクリートの地面へと視線を落とす。


「あなたが、望むなら……」


 零は鞄の肩紐に手を通しかけたまま、返事の続きを言わなかった。

 私は慌てて両手を振った。


「冗談冗談! ごめん、困らせて。今日は帰ろう」


 私がそう言うと、零は顔を上げ、強張っていた表情を緩めた。

 授業をサボるのも、ゲーセンに入るのも、プリクラを受け取るのも。全部、私が言ったから零は頷いた。

 嫌がらないからって、確認しないまま連れ回した。

 それで二人の仲が進んだ気になっているなら、私が嫌っていた攻略と何が違うんだろう。

 私たちは駅前を後にし、そのまま家路についた。


***


 自室の机に英語のプリントを広げた。

 元の世界でも勉強した。こっちへ来てからの一周目でも、たぶん同じ範囲をやっている。

 それなのに、長文の三行目から先が頭に入ってこない。

 私はシャーペンの先で、同じ単語を何度もなぞった。


「ぜーんぜん進んでなイルカね〜!」

「うるさい! 今、三行目読んでるところ!」


 ふと視線を左に向けると、イルカイルが机の端に寝転んでいた。


「勉強じゃなくて、こっちの話イルカ」


 イルカイルが尾びれを振ると、机の上に瓶が現れた。

 零の瓶。

 中は、空っぽだった。


「……今日、結構一緒にいたんだけど」

「ぜーんぜんダメイルカね」

「サボったし、ゲーセン行ったし、プリクラ撮ったし、クレープも食べたんだけど」

「楽しい放課後レポートありがとイルカ。でも瓶は空っぽイルカ」


 私は英語のプリントを押しのけて、瓶を見た。

 駅前であれだけ連れ回して、何も進んでいない。

 私一人だけが、勝手に進んだ気になっていた。


「さっさとえっちしちゃえばいいイルカ〜」

「そういうわけにいかないでしょ!」

「でも相手は、君が望むならいいって言ってたイルカ」

「それが問題なんだよ」


 零は、私が望むならと言った。

 私が望むなら、脱ごうとした。

 私が望むなら、サボった、ゲーセンにも入った。


「零は、相手の言うことをただ受け入れてるだけ」

「受け入れてるなら問題なイルカ」

「そこに零の意思がないの」

「私には同意に見えるイルカ」

「拒否できない子の『いいよ』を、同意に数えないで」


 イルカイルは瓶の周りをくるりと回った。


「えっちが一番効率いいけどイルカね〜」

「本当に最低」


 瓶は空っぽのまま。

 今日一日、零は一度でも自分から何かを言っただろうか。

 サボるのも、ゲーセンも、プリクラも、全部私が言った。

 零はただ、頷いただけだった。


「……違うんだ」


 空っぽの瓶越しに、今日の駅前を思い出す。

 サボる時も、ゲーセンに入る時も、シールを受け取る時も、最初に口を開いたのは私だった。


「何がイルカ?」

「私が何をしてほしいかじゃない」


 シャーペンを置く。

 英語の三行目は、もう読めそうになかった。


「零が、何をしたいかを聞かなきゃいけないんだ」


***


 いつものように、昼休みの特別音楽室に足を運んだ。

 私はパイプ椅子に腰掛け、部屋の中央でグランドピアノに向かっている零の背中を見つめる。

 鍵盤が弾かれ、旋律が響いていた。

 その音色をしばらく聴いていた私は、ふと口を開いた。


「零、ピアノ弾くのやめて私と話そうよ」

「……あなたが望むなら」


 零は鍵盤から手を離し、椅子を回転させてこちらへ顔を向けた。

 そのままじっと視線を合わせてくるが、お互いに口に出す言葉が見つからない。

 零は私を見ている。

 私は窓の外を見て、すぐにピアノへ目を戻した。


「あのさ、零はやりたいことないの?」

「特に」

「私がお願いしたら、なんでもいうこと聞いてくれるの?」

「うん」

「じゃあ、お願い事しちゃおうかな」


 私が人差し指を立ててみせると、零は瞬きをした。


「あ……」

「何?」

「この間のお願い? えっち、したいの?」

「違う違う!」


 私は両手を激しく振って否定した。


「零のやりたいこと、やってみて。お願い」


 私がそう告げると、零は鍵盤を見た。

 すぐには弾かない。

 ゆっくりと体の向きを戻し、再びピアノの鍵盤へと両手を乗せる。

 紡ぎ出されたのは、先ほどまでとは全く違うメロディだった。

 綺麗な旋律が流れていく。聞いたことのない曲だった。

 弾き終え、鍵盤から手を離した零の背中に向けて、私は口を開けた。


「ピアノ、好きなんじゃん」

「ううん、今のは弾かなかった」

「え?」

「課題曲じゃなくて、デタラメに弾いてみた」

「デタラメって……それ、オリジナルってこと!?」


 私が身を乗り出して尋ねると、零は振り返った。


「そう、かも」

「すごいすごい! すごく綺麗な曲だったよ!」


 私が両手を叩いて称賛の言葉を並べる。


「今の方が、零のピアノって感じがした。上手いかは分かんないけど、私はさっきの音の方が好きだな」


 零は瞬きを繰り返した。

 零が、零の中から出した音。

 口元が、動いた。

 私は、すぐに次の言葉を探した。

 でも、出てきたのは同じ言葉だった。


「もう一回、聞きたい」


 零がピアノをもう一度弾き始める。

 私はそのメロディに身を委ねて、目を瞑った。

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