第135話 私が聴きたい、君の曲
「奈々、買ってきたよ」
七月十九日、前回の全体練習から四日後の、夏休み前最後の登校日。
あれから個人練習を重ね、今日は十六室で全体練習をして、二曲とも最初から最後まで通した。
今回も作戦通り、五月、零、久遠先輩が帰り、迎えを待つ奈々と、最後に鍵を閉める私が残った。
私は隣駅へ自転車で十五分かけて行き、奈々に頼まれたプリンを買って戻ったところだ。
「抹茶と苺とマンゴーと、プレーン。どれがいい?」
「苺!」
「はい、どうぞ。私はプレーンにしよ」
相変わらず、私は奈々のパシリ。
紙箱をローテーブルへ置き、奈々の隣へ座ってプレーンを一口食べると、奈々がこっちを向いた。
「ん」
味見させろ、ということだろう。
私はプレーンをすくい、自分が使ったスプーンを奈々の口元へ差し出すと、奈々は何のためらいもなく食べた。
「プレーンの方がおいしい」
「はい、どうぞ」
プレーンのカップを奈々へ渡して、代わりに苺味を受け取る。
交換したのは、どちらも食べかけのプリン。間接キスだ。
こういう時、雪乃と亜里沙は照れていたけれど、奈々は私の食べかけのプリンを気にせず口にしている。
何口か食べると、奈々はスマホへ目を戻し、聞いたことのないメロディーを口ずさみ始めた。
「それ、新曲?」
奈々の鼻歌が止まる。
「え?」
「今、口ずさんでた曲」
「これは、えっと……」
すぐには、返事がなかった。
「……私が考えたオリジナル」
「え、すごい! 奈々って作曲できるんだ」
「作曲ってほどじゃないけど」
「でもすごいよ。今のメロディー、すごい頭に残るというか」
奈々の配信も、ラジオも、SNSも、ずっと追いかけてきた。
二曲の演奏を始めてから作詞、作曲、過去のライブ映像もかなり調べたから、作曲者の名前は覚えている。
「あれ、でも今やってる二曲って、Stella☆Bloomの『恋色スタートライン』を作った朝倉廉さんの曲だったよね?」
「そう。だいたい、朝倉さんが私の曲を作ってくれてる」
そういえば、私が調べた曲の中に、奈々本人が作曲したものはなかった気がする。
「奈々は作らないの?」
「事務所がダメだって言ってる」
「え、作曲できた方が話題になりそうなのに」
「バズる曲じゃないからって」
奈々が自分で作った曲を、最初から最後まで聞いてみたい。
さっき途切れたメロディーの続きが気になった。
「じゃあ、やろうよ。オリジナル」
「え?」
「二曲目までもうほとんど完成してるじゃん、私たち」
私はスマホのカレンダーを開き、奈々へ見せる。
「もうすぐ夏休みだしさ。夏休みに作って、夏休み中に練習すれば、十月初めの学園祭には余裕で間に合うよ」
「確かに真白、ちょっとギター上手くなったけど、調子に乗りすぎじゃない?」
「私、奈々のオリジナルやりたい! できれば、ギターのコードは簡単にしてほしいなとは思うけど」
「でも……」
奈々は、すぐには返事をしなかった。
十六室のマイク、スタンドに立てた私のギターへ視線が行く。
しばらくして、奈々が私を見た。
「わかった。なら、やってやろうじゃない」
あのメロディーに、私のギターを重ねられる。
そう考えたら、もう一度聞かずにはいられなかった。
「本当!?」
「その代わり、真白には手伝ってもらうからね」
浮かれたところへ、すぐに条件がついた。
それでも、奈々の曲に関われるなら、断る理由はない。
「いいけど、私、音楽のこと何も分からないよ?」
「――――作詞。それぐらいはやりなさいよね」
作詞なんて、もちろん一度もやったことがない。
「え〜! 奈々がやった方がセンスいいのができるんじゃ」
「真白がオリジナルやりたいって言い始めたんだから」
……それはそうだ。
言い出した私が、作詞まで奈々に丸投げするのは違う。
「分かった。じゃあ、やってみる。絶対めちゃくちゃいい歌にする!」
奈々の曲に、私が言葉をつける。
何を書けばいいのかは、まだ分からない。
でも、奈々が口ずさんだあのメロディーを、適当な歌詞で終わらせたくはない。
こうして私たちは、学園祭で演奏するオリジナル曲を作ることになった。




