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女の私が女の子を抱かなきゃ帰れないって、どういうこと!? ~エロゲ世界に転生したのでヒロイン十六人を攻略します~  作者: 円井ねここ
第七章 君が歌うなら

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第133話 ケーキ二つと、心配ひとつ

 昼休みに入った瞬間、鞄の中のスマホが鳴った。


『パティスリー・レーヴリーのケーキ食べたい』


 鞄から取り出して画面を見ると、送り主は七瀬(ななせ)さん。

 メッセージの上には「友達に追加する」のボタン。

 そう、連絡先は交換していない。

 ……けど、バンドのグループチャットから私のアカウントを開けば、こうして個別にメッセージを送れたなとぼんやり考えた。


「あれ?」


 一瞬、頭が止まった。七瀬さんから、私に? ってことは……。


「待てよ、これ、連絡先交換できてるじゃん! やった!」


 勢いよく立ち上がってから、ここが教室だったと思い出す。

 近くの席から一斉に見られた。唯花(ゆいか)まで驚いている。


「どうしたの真白(ましろ)ちゃん?」

「いや、ちょっと嬉しいことがあって」

「そうなんだ」


 唯花はそれ以上聞かず、笑った。すると、五月(さつき)が私の席へやってきた。


「真白、一緒に十六室(じゅうろくしつ)に行かない?」

「五月ちゃんも零式会(ぜろしきかい)に入ったんだよね。すごいよね!」

「まあ、成り行きというか」


 五月が私の手に指を絡める。

 そして、もう片方の手には、七瀬さんからのメッセージが表示されたスマホ。


「ごめん、私行かなきゃいけないところができた」


 五月はスマホの画面を見て、それから、絡めていた指を解いた。


「……いってらっしゃい」

「真白ちゃんも、いってらっしゃい」


 七瀬さんを攻略するためというのは、五月もたぶん察している。

 私に何も聞かず、送り出してくれた。

 二人に向かって手を合わせ、私は教室を出た。

 校門を出て、マップを開く。店までは徒歩十五分。往復三十分。

 これなら昼休み中に戻れる――という計算で、画面の案内を追って走った。



***



 十五分後。店の前にあったのは、入口が見えないほどの行列だった。


「……マジか」


 マップのピンは、どう見ても目の前の店。念のため店員さんに聞いてみると、返ってきたのは列の最後を指す手だった。

 口コミには「人気店なので最低でも一時間は並びます」との書き込み。

 昼休みには、戻れない。

 まあ、学校をサボるのには慣れてる。


「……並ぶか」


 それから、気づけば二時間。

 白い箱を手に入れた頃には、スマホの時刻は午後四時を過ぎていた。


「今から帰って間に合うかな……」


 箱を抱えて学校へ戻り、十六室の冷蔵庫へ。

 そして手元のスマホには、七瀬さんからの新着メッセージ。


『まだ?』


 催促の一言。それなのに、七瀬さんの方から私を呼んでくれたと思うと、顔が緩む。

 これから、十六室に七瀬さんを呼んで一緒にケーキを食べよう。

 そう決めて、零式会のみんなへ事情をグループチャットで報告した。


『今どこですか?』


 返事は、待つ間もなく届いた。


『六限終わったところ』

『十六室で待ってます』

『鞄重いんだけど』


 ……つまり、迎えに来い、と。



***



 芸能科の教室へ行くと、七瀬さんは女の子たちに囲まれていた。

 私を見つけた七瀬さんが、女の子たちに向けていた笑顔のまま立ち上がる。


「あ、ごめんね。今から用事あるんだ。今度またお話ししようね」


 女の子たちは奈々ちゃんと呼び、手を振って教室を出ていった。

 最後の一人が出るまで笑顔で見送って、七瀬さんは私の前へ。


「じゃあ、行こっか」


 そして、人のいない廊下へ入った途端、鞄を押しつけられた。


「遅い! なんで昼休み中に買ってこれないの? すぐ食べたかったのに!」


 さっきまでの笑顔はどこへいったのやら、私に理不尽な言葉をぶつけてくる。


「いや、私2時間待ちましたよ!? 行列だったじゃないですか」

「へえ、そうなんだ。人気だとは聞いてたけど並ぶほどなんだ」


 そのまま七瀬さんの鞄を持って、二人で十六室へ行った。


「あれ? 他の人たちは?」

「いないみたいですね」


 ……私が、そうなるように頼んだんだけど。


「じゃあ食べましょう。紅茶を淹れるので待っててください。」


 電気ポットで湯を沸かして、パックの紅茶を淹れて、ケーキを二つの皿へ移す。


「私こっちがいい」


 七瀬さんはチーズケーキを選び、私はショートケーキを取った。

 向かいのソファーに座った七瀬さんは、ケーキを食べながらスマホ。

 ……私の方は、一度も見ない。


「え! ここの店の口コミ、ショートケーキが一番美味しいって」

「いや、もう食べ始めちゃいましたけど」

「交換して」


 返事をする前に、皿が入れ替わった。

 私のショートケーキは一口分。向こうから来たチーズケーキは、すでに四分の一が消えている。


「本当だ! めちゃくちゃ美味しい」

「それはよかったです」


 ショートケーキを食べる七瀬さんの頬が、緩む。

 完璧なアイドルじゃなくて、年相応の、ただの女の子。

 ……こっちも、七瀬奈々なんだ。

 この顔がまた見られるなら、二時間くらい――って、次は先に待ち時間を調べよう。


「……ねえ」

「はい」

「何時間並んだって言った?」

「二時間ですけど」

「じゃあ、あんた五限は」

「出てないです」

「六限も?」

「出てないですね」


 そこで、七瀬さんのフォークが止まった。


「ふうん」


 七瀬さんは、ショートケーキの苺を口へ運ぶ。


「……別に、そこまでして頼んだつもりなかったんだけど」

「いや、頼まれましたけど」

「すぐ買ってこいとは言ってない」

「めっちゃ催促来てましたよ、まだ? って」

「それは、来ないから心配し……いや、遅いなって思っただけ」

「心配してくれたんですね」

「…………」


 七瀬さんは、窓の外へ顔を向けた。

 心配してくれた七瀬さんを見てしまったら、次にケーキを頼まれたら、また断れそうにない。

 だから私はソファーを立ち、七瀬さんの後ろへ回って、その肩に指を置いた。


「ちょっと勝手に触らないでよ」

「でも、肩揉んで欲しそうな顔してましたよ」

「ふん」


 肩を揉んでほしそうな顔だったかは、わからない。

 けれど七瀬さんは私の手を追い払わず、ショートケーキをもう一口食べた。

 そうして、マネージャーから迎えの連絡が来るまで、こうして私たちは二人で過ごした。

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