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女の私が女の子を抱かなきゃ帰れないって、どういうこと!? ~エロゲ世界に転生したのでヒロイン十六人を攻略します~  作者: 円井ねここ
第七章 君が歌うなら

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第132話 下手くそで終わるつもりはない

 部屋へ戻ると、私はギターを抱え、動画サイトで『恋するリボン』を検索した。


『上手い人の演奏、ちゃんと参考にしたことある? ってこと』


 手元が見える動画を、再生した。

 私なら一度しか鳴らさないところで、画面の右手はもう一度弦を鳴らしている。

 私も真似してみると、音が増えて、サビが急に難しくなった。

 前の全体練習でもそうだった――七瀬(ななせ)さんはまだ歌っていたのに、私は待てなくて、次の音を鳴らした。


「……増やせばいいってことじゃないよね」


 動画を閉じて、七瀬さんのライブ映像を開いた。

 昨日は前髪に埃をつけて焦っていたのに、画面の中では完璧なアイドルで客席へ笑いかけている。

 ……可愛い。

 近くで見ても可愛かったけど、歌っている時は、もっと――って、気づけば私は七瀬さんばかり見ていた。


「……七瀬さんばっかり見てどうする、私」


 もう一度サビの前へ戻し、七瀬さんの後ろにいるギタリストを見る。

 音を伸ばしている間、画面の右手は止まり、七瀬さんの声が切れたところでまた動き始めた。

 私も同じ場所を弾き直して、今度は、声が終わるまで待つ。

 あ、今のはぶつからなかった――次も譜面だけじゃなくて、七瀬さんの歌を聞いて弾こう。



***



 翌朝、久遠(くおん)先輩から預かった鍵で十六室(じゅうろくしつ)へ入り、授業が始まる前に、練習をする。

 スマホで音源を再生し、昨夜見た動画のようにサビを弾いてみた。

 七瀬さんの声が切れるところで、次の音。

 もう一度、最初から――と弾こうとしたところで、背中から抱きしめられた。

 腰に回った腕と首筋に触れる髪――こんなくっつき方をする人を、私は一人しか知らない。


「……零(れい)?」

「……朝のピアノの練習をしにきたら、十六室から音がしたから。誰かいるのかなと思って」


 零は私を後ろから抱きしめたまま、首筋へ頬を寄せていた。

 練習に集中していたからか、入ってきたことに私はまったく気がつかなかった。


「真白(ましろ)、ちゃんと弾けるようになった」


 零は、私の一曲全部を聞いていたようだった。


「でも、感情がないかも。今、どんな気持ちでギター弾いてる?」

「うーん、上手くなりたいって気持ちが強いかな」


 答えた途端、零の唇が首筋に触れた。


「んっ、ちょっと、零……」


 私の反応はお構いなしに、零は言葉を続けた。


「……それは大事。でも、ちょっと違う。……私は悲しい曲は悲しいことを思い出して弾いてる。楽しい曲は楽しい気持ちで弾く」

「零……」

「ずっとお母様に言われて、機械みたいに弾いてたけど……最近私のピアノ、ちゃんと気持ちがこもってたことに気がついた。……真白のことを考えて弾くと、すごく胸が熱くなるの」


 以前の零は、好きか嫌いかを聞かれても、自分では選べなかった。

 それが今は、悲しい、楽しい、胸が熱い――そんな自分の気持ちを、自分の言葉で話している。

 私が零に教えたかったことを、今度は零が、私に教えてる。

 ……あれ? これ、立場が逆になってる?


「これは真白のおかげ。だから、真白も感情をギターに乗せてみるのがいいと思う」


 感情を、ギターに。

 そう言われて、最初に浮かんだのは、前回の全体練習で歌っていた七瀬さんだった。

 まだ声が伸びていたのに、私は待てなくて、次の音を重ねてしまった。

 次は歌を崩したくないし、下手だと笑われたままにもしたくない――今度こそ、助言してよかったって思わせたい。


「まだ時間あるよね? ちょっと練習付き合ってもらってもいい?」

「うん。でもその前に……」


 零の腕が腰から離れたので、私はギターをスタンドへ立てて、振り返る。

 次の瞬間には、零が正面から、私の胸へ飛び込んできていた。


「……真白チャージ」

「ふふ、なにそれ」

「……昨日から、こうしたかった。真白の匂い、落ち着く」


 制服の胸元へ鼻先を寄せて、短く息を吸う零。

 ……可愛い。

 こんなふうに、自分がしたいことを、自分からしてくれるようになったことも。

 思った通りに背中へ腕を回して髪を撫でると、零は私の胸から顔を上げ、左手を両手で取った。


「あ……零?」

「……指先、硬くなってる。いっぱい……ギターの練習したんだね」


 練習で硬くなった指を、零が両手で包んでいる。

 人差し指から順番に、指先へひとつずつキスをされる。二本目まではなんとか零の顔を見ていられたけど、三本目で恥ずかしくなって私は視線を外した。


「れ、練習しよう!」

「うん、練習」


 零がキーボードの電源を入れ、私はギターを構える。スマホから『恋するリボン』の音源を流し、最初から合わせた。

 浮かべるのは譜面じゃない――目の前で歌っていた七瀬さんと、最後の言葉に混じった息。

 その声が切れるまで待ってサビへ入り、途中で隣の弦に触れても、今度は止まらなかった。

 最後のコードを零と一緒に止めた後も、右手を弦へ置いたまま、零の返事を待つ。


「真白、前より気持ち、伝わった」

「本当に? ちょっと間違えちゃったけど」

「それでも前のより好き」


 間違えたのに。いや、間違えても、零は前より好きだと言ってくれた。

 だったら、次は七瀬さんにも――。

 完璧を目指すのはもちろんだけど、もっと私らしいギターが弾けるようになりたいと思った。

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