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女の私が女の子を抱かなきゃ帰れないって、どういうこと!? ~エロゲ世界に転生したのでヒロイン十六人を攻略します~  作者: 円井ねここ
第七章 君が歌うなら

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第129話 この人の隣で、私は弾くんだ

 五月(さつき)と一階へ降りると、出海(いずみ)は食卓でパンをかじっていた。

 私は食パンを二枚、トースターへ並べた。五月は椅子へ座る前にリビングのドアを開けた。


「ちょっとトイレ」


 五月が廊下へ出る。リビングの扉が閉まると、出海はパンを皿へ戻した。


「昨夜はお楽しみでしたね」

「あー……」

「ギターの練習するんじゃなかったの?」

「それは、その、えっと〜色々あって」

「いろいろが、そういうことすること、なんだね」


 トーストだけでは足りないと思い、目玉焼きを作ろうとフライパンに火をつけた。

 出海はまだこちらをジト目で見てくるところで、五月が戻ってきた。


「なんの話してるの?」

「ううん、お姉ちゃんと五月ちゃんってとっても仲良いんだなって話」

「うんうん。私と五月は仲良し〜!」


 そのまま五月に近づいて、抱き寄せると耳が赤くなる。


「ちょっ真白(ましろ)!」


 昨夜のことをこれ以上追求される前に、このまま仲良しで押し通したほうが早い。



***



 朝食を終えて部屋へ戻ると、五月がベッドに座り、自分のスマホを差し出した。


「真白、これ」


 画面には七瀬奈々(ななせなな)のライブ告知と、昼と夜の二公演が表示されていた。


「日付、今日だね。昼公演と夜公演があるんだ。」

「そうそう。現地は行けないけど、ネット配信もしてるんだ。それで、視聴チケット買っちゃった。一緒に見ない?」


 五月が画面を下へ送り、昼公演の配信ページを開く。開始時刻の横には、開演までの残り時間が表示されていた。


「十二時半から開始か……」

「それまでは一緒に練習しよっか。パッドとスティック持ってきたんだよね。」


 五月は鞄から、練習用パッドとスティックを取り出した。

 私はギターを膝に載せ、昨日覚えたコードを弾く。五月がパッドで刻む速さに合わせ、Aメロを何度も繰り返した。

 昼前に両親と出海が三人で出かけ、私たちは冷蔵庫にあったシチューを温めて二人で食べた。

 十二時二十分には部屋へ戻り、五月が配信ページを開きスマホを横向きに持つと、空いた手を私の指へ絡めた。

 画面の中で客席の照明が消え、ステージの輪郭を縁取る灯りが一斉についた。


 最初の伴奏が始まると、七瀬奈々は何人ものダンサーと中央へ走り込み、そのまま歌い出した。

 複雑なダンスをしても、歌声はぶれない。伸ばした声も、歌詞の終わりまで途切れなかった。

 画面にいる七瀬さんが片手を振ると、客席のペンライトが同じ方向へ動く。

 曲の途中で七瀬さんがマイクを客席へ向けると、何千人分もの歌声が返った。七瀬さんはそれを聞いて笑い、次の歌い出しで旋律へ戻って音を一つも外さない。

 歌が上手いという言葉では足りない。画面に映っているのは、客席を丸ごと自分のステージへ引き込むアイドルだった。


 ――そして私は、この人の後ろでギターを弾く。


 昨日、二曲目のAメロを止まらずに通せたけれど、音が濁る箇所が何個もある。ステージで同じ失敗をしたら、その音は七瀬さんの歌に混ざってしまう。

 攻略のために組んだバンドでも、七瀬さんの歌を、私の音で台無しにしたくない。

 配信の終盤、『恋するリボン』の前奏が流れ、サビに入ると五月は七瀬さんの名前を叫び、その声が画面の向こうの歓声と重なった。

 そして、昼公演が終わった――。


「……すごかった」

「ね。あんな複雑なダンスをしながら、全然ぶれないんだもん」

「リアルタイムの歌声も音外さずにあそこまで綺麗に歌えるんだね」

「しかも『恋するリボン』のラストの高音、本当にうますぎた。奈々ちゃん、マジで別格だよ」


 五月と感想を言い合ってから、それぞれのスマホでグループチャットを開いた。私は七瀬さんのアイコンを見ながら、昼公演を見終えた感想を送る。


『昼公演見ました。歌もダンスもすごくて、最後まで画面から目を離せませんでした』


 私のメッセージに続いて、五月も親指を動かした。


『私は「恋するリボン」のサビで叫んだ! 奈々ちゃん最高!』


 文字を打っている間も手を繋いでいた五月は、送信を終えると壁から背を離し、私の肩へ頭を預けた。

 スマホを枕のそばへ置き、五月と一緒に布団へ倒れた。

 左腕を五月の頭の下へ入れると、五月は身体を寄せ、私の胸元へ頬をつけた。私は空いた手で五月の髪を梳き、頬へ触れる。

 五月が顔を上げたので、私から唇を重ね五月のTシャツの裾へ指をかけた。

 五月が目を閉じた瞬間、枕元で二台のスマホが同時に鳴った。

 二人とも動かなかった。私は五月の首筋へもう一度唇をつける。

 二度目も、二台が同時に鳴る。続けて三度目の通知音が重なり、五月が枕元へ目を向けた。


「今ので三回目だよね」

「うん。グループチャットかな?」

「……ちょっと見てみよっか」


 私は五月から身体を離し、二人で自分のスマホを取った。五月はTシャツの裾を直し、布団を鼻まで引き上げる。私も画面を開こうとした途端、自分の指が五月の服へかかっていたことを意識して、頬が熱くなった。

 グループチャットを開くと、夜公演を控えた七瀬さんから、二通のメッセージが届いていた。


『二人とも感想ありがとう! あんなに褒められたら、夜公演も頑張らないわけにいかないよね! 全体練習、5月7日木曜日の放課後は空いてる? まずは学校で一度合わせてみたいな』


 五月、零(れい)、久遠(くおん)先輩の順に返信が並ぶ。


『行けるよ!』

『参加できる』

『私も参加できます。その日は、とりあえず一曲だけ合わせてみませんか?』


 入力欄を開き、私も参加できると打つ。送信ボタンへ指を運んだところで、昼公演の七瀬さんが頭へ浮かんだ。

 私が弾けるのは二曲目のAメロまでで、最初の曲を通して弾けたのも、昨日が初めてだった。


 あの歌声の後ろで、自分の音だけが外れる。

 零も久遠先輩も演奏経験があり、五月のドラムもかなり上手い。私はコードを押さえることだけで精いっぱいになる。

 なかなか送信できない私をみて、五月が身体を起こした。


「大丈夫。一緒に頑張ろう。練習いくらでも付き合うからさ」


 一曲目は、昨日初めて最後まで通せた。木曜日は全員の音を聞きながら一曲目を合わせ、失敗した場所を直して完成度を上げる。

 二曲目はAメロを完璧にして、Bメロに挑戦する。それで行こう。

 私は参加可能の返信を送った。木曜日まで、あと四日。

 とにかく練習をするしかない、そう思った。

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