第124話 夢の続きを、放課後に
火曜日も水曜日も、放課後は五月と練習室で練習した。
五月はドラムを少しずつ原曲に近づけ、サビの直前に一度だけ強い音を入れてくれる。火曜日はそれを合図にサビへ入れるようになり、水曜日には、イントロからサビの終わりまで止まらず弾けるようになった。
木曜日の放課後、五月が私の机へ来た。
「ごめん、今日、練習室使えないんだって。三年の先輩バンドが、本番前の通し練習するから」
「そっか。じゃあ今日はお休み?」
「んー……うち、来る? 大きな音は出せないけど」
「行く! 五月の家、久しぶりだ」
行ってから気がついた。五月の家に行ったのは前のループだ。
「ひ、久しぶりだったよ、ね?」
慌てて誤魔化そうとするが、遅い。
もしかしたら、ループする前の三月辺りに遊びに行っていたかもしれないことに賭ける。
「いつ来たっけ? 唯花と二人でうちに来たよね。確か、三月」
よかった。辻褄はあっていたらしい。
その後、五月と二人で五月の家へ行った。
階段を上がった先の部屋は、前回のループで遊びに来た時と同じだった。
テレビとゲーム機が置いてある。
あの時は気が付かなかったけど、ドラムを練習するための小さなパッドがテレビ台の下に置かれていた。
「適当に座って。麦茶持ってくる」
「はーい。お邪魔してます」
私はベッドの端に座り、ギターをケースから出した。アンプがなくても、静かな部屋なら弦の音は二人に聞こえる。
麦茶を二つ持って戻ってきた五月は、練習台の前へ丸椅子を引いた。
「今日は曲の後半やろう。二番から最後のサビまで」
「うん、お願い」
五月がスティックでパッドを叩き、私は二番の並びを合わせた。
二番は一番とほとんど同じ弾き方なのに、似た部分が続くと、いま何回目なのかを数える方が難しい。最後のサビで、同じ流れを二度繰り返したところで曲が終わったと思い、右手を止めた。
「――あれ、サビ、もう終わり?」
「まだ半分。今と同じ流れを、もう一回」
「うう……曲は覚えてるのに、回数を間違えちゃうなあ」
「あるあるだよ」
二度目は遅れ、三度目は先へ進んだ。四度目で、五月と合わせて演奏を止めることができた。
「よし、休憩しよ」
「そうだね。あ、五月、チョコ持ってきたんだけど食べる?」
「じゃあ、もらう」
私は鞄に入れてきたチョコの袋を開けた。
自分の分を一つ食べてから、もう一つを五月の口元へ差し出した。
「ほら、五月、あーん」
「へ?」
「あ、ごめん! つい」
「つい?」
「いや、なんでもない」
十六室では誰かに食べさせたり、食べさせられたりするのが普通になっていた。
五月にやれば驚かれて当然だと思い袋へ戻したが、五月はチョコを見ている。
「どうしたの?」
「……してくれないの?」
「え?」
「あーん」
五月は私の方へ顔を向け、口を開けた。
「はい」
指でつまんだチョコを五月の口へ運ぶ。唇が触れないように手を止めたところで、五月がチョコを食べた。
「ありがと」
「もう一個食べる?」
「うん」
五月は袋のチョコを取った。私もチョコを食べたが、さっきと同じ味なのか分からなかった。
「……練習、戻ろっか」
「そ、そうだね」
五月はスティックを持ち、私はギターを抱え直した。最初のコードを、二回続けて間違えた。
休憩のあとは、最後のサビへ入るフレーズを練習した。
「これで、曲の最後までに出てくる弾き方は全部練習したよ」
「まだ最初から続けては弾いてないけど」
「それは明日。今日はここまでにしよう」
外が暗くなる前に片づけて、玄関で靴を履いた。
「また明日。明日は練習室、戻れるから」
「うん。今日もありがとう」
***
木曜日の夜、私、五十嵐五月は、夢の中で真白と手を繋いで学園を出たが、手の汗が気になって離そうとした。
真白が指を絡めてきて離したくないと言い、握り返すと、掴んでいたものは布団だった。
まだ部屋が暗い。スマホを見ると深夜の三時半だった。
「……また、あの夢か」
四月に入ってから、クラスメイトの次の話や軽音部で起きることを、先に分かっている時がある。
疲れているせいだと考えないようにしてきたが、最近は真白と恋人になり、キスの先へ進む夢を繰り返し見ていた。
月曜日、真白に手を繋がれた時は、前にもこうして帰ったことがあると口にしそうになった。
今日はもっとひどい。こんな想像をしてはいけないと思うけど、夢の続きが浮かんでしまう。
「――零式会では」
十六室では何人もの女の子が真白に抱きついていたから、私も影響されたはずだ。真白のあの癖だって、十六室でついたものだ。
そう言い聞かせても、夢で触れた真白の唇や肌の感触が残っている。
チョコを真白の手から食べた時も、そのまま真白の指へ触れたくなった。
「私、おかしくなったのかな」
また同じ夢を見て続きを知ったら、真白を友達として見られなくなるのが怖い。
そう思いながらも、真白と一緒に過ごせることがどうしようもなく、嬉しくてたまらなかった。
明日の放課後になれば二人で練習だ。また真白と二人きり。
私はそう考えながら、再び眠りについた。




