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女の私が女の子を抱かなきゃ帰れないって、どういうこと!? ~エロゲ世界に転生したのでヒロイン十六人を攻略します~  作者: 円井ねここ
第七章 君が歌うなら

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修羅場でコードは覚えられない

 翌朝、久遠(くおん)先輩からギターを持ってくるよう連絡があり、私はギターを背負って五月(さつき)と雪乃(ゆきの)を連れて十六室(じゅうろくしつ)へ行った。

 中には久遠先輩と紡(つむぎ)先輩がいて、スタンドに置かれたベースと、アンプとドラムがおいてあった。


「すごい! これが零式会(ぜろしきかい)!? アンプにベースに、電子ドラムまである!」

「ち、違うよ!? というか、零式会でこんなことしていいんですか?」

「ダメとは書いてないわ。それにここ、防音室でもあるのよ。大事な会議を聞かれるわけにはいかないし」


 私は今まで、久遠先輩がここで大事な会議をしているところを一度も見たことがない。

 まあ、イルカイルを呼んで攻略の話をするのに他の人に聞かれるわけにはいかない。

 それに久遠先輩の攻略の時も、私の声が外に漏れていなかった、ということに安心してしまった。

 その事実は口にしないでおこう。


「じゃあ早速、五十嵐さん。叩いてもらってもいいかしら。好きな曲でいいわ」


 五月は両足でペダルを踏みやすい高さへ丸椅子を直し、電子ドラム脇の操作パネルを押した。

 右手で左上の丸いパッドに細かなリズムを刻み、左手では正面のパッドを強く、弱く叩いた。

 両手の音の合間に足で鳴らす低音を入れ、終わり際には三つの音を連続で叩いて右上のパッドを鳴らした。

 ドラムのことは何も知らないが、素人の私から見ても五月は上手いのが分かった。


「……結構いいじゃない。合格。ようこそ、あなたも今日から零式会メンバーね。この書類を書いてちょうだい」


 五月はスティックを膝へ置き、差し出された書類を受け取った。


「え? 私が?」

「ええ。大丈夫よ、この無愛想泥棒猫女も入っているぐらいだから」

「お前が泥棒猫だろ!」


 久遠先輩が五月へ入会書類を渡し、雪乃が言い返している間に、私はソファの中央へ座った。

 お弁当を置いたところで零(れい)が入ってくる。


「真白(ましろ)、お待たせ」 


 そして、私の左隣へ当たり前のように座る。


「誰もお前を待ってないし、そこは私の席だ!」


 零は私の方へ体をくっつけて、雪乃を見ようともしない。

 雪乃は零の腕を掴み、私から引き剥がそうとした。


「真白の腕を離せ! この生意気新参女!」


 零と揉める雪乃の横を抜け、久遠先輩がソファの右側へ座った。


「真白、今日も可愛いわね。右側を空けて待っていてくれたなんて、嬉しいわ」


 久遠先輩は頬を私の肩へ寄せ、雪乃を見てニヤリと笑った。


「お前のためじゃない! 人が生意気女をどかしてる間に、勝手に真白へくっつくな!」

「……本当にあなたたち、うるさいわね」


 紡先輩はノートパソコンから顔を上げた。

 五月は入会書類を持ったまま、三人と私を順番に見ている。


「えっと……」


 五月の視線が、零と久遠先輩、立ったまま怒る雪乃を順番に見ている。


「ねえ真白。この三人とはどういう関係? 見た感じ、修羅場度九十九パーセントなんだけど」


「「「真白の恋人」」」


 雪乃と久遠先輩と零の声が重なった。

 確かに恋人ではあったが、このループでは恋人ということにはなっていない。

 なんとか言い訳を探すが、何も思いつかない。


「ち、違うよ! 恋人というか、友達以上恋人未満というか……!」

「真白とは、身体の関係」

「セフレってこと!?」

「ちがっ……! いや、違わないところもあるけど、そういう意味じゃなくて……!」


 私が言葉に詰まると、紡先輩が話を止めてくれた。


「色々、深いわけがあるのよ。今はそれで納得してちょうだい」


 言い訳しようとした私の左腕は零に掴まれ、右肩には久遠先輩の顔がある。

 雪乃も二人を引き剥がす気まんまんで、五月の言った九十九パーセントを下げられる材料が一つもない。


「メンバーは集まったし、グループチャットに私と五十嵐さんを入れてもらってもいいかしら」

「……あなたと連絡先、交換したくない」


 零はスマホを胸元へ引き寄せた。


「わかったわかった! 私が五月と久遠先輩を入れとくから!」


 私は二人をバンドのグループへ追加した。


「わ、私、あの七瀬奈々(ななせなな)と繋がっちゃったの!?」


 参加者の欄に七瀬奈々の名前を見つけた五月は、すぐにメッセージ入力欄を開く。


『よろしくお願いします!』


 本人が十六室へ来たら、緊張で固まってしまいそうだ。


「いつから練習するか決めないといけないわね」

「そうね、その日までに真白、猛特訓よ」


 久遠先輩は私の指先を取った。

 その手元を見ていた五月が、練習の話へ戻した。


「というか、その前に曲決めないとダメじゃないですか?」

「そうね、希望はあるかしら?」

「うーん、私はやりたい曲あるけど、今回の主役の奈々ちゃんの希望を聞くべきかと」


 確かに、歌う本人を置いたまま決める話ではない。

 私はグループチャットを開き、七瀬さんへ質問を送った。


『七瀬さんは、希望の曲はありますか?』


 既読は、つかなかった。


「じゃあ、返事が来るまでは真白は基礎の練習ね。簡単なコードから覚えましょう」


 久遠先輩は壁際に立てかけてあったギターケースを見た。


「じゃあギター取りに行くから、二人とも離れてくれないかな?」


 零は私の左腕へ腕を絡め、久遠先輩は肩へ頬を寄せたままだった。

 壁際のギターケースを取りに行きたいが、この状態では立てない。


「そこのチビさん、取ってもらっていい?」

「ち、チビって失礼ね!」


 零に向かって言い返しはしたが、紡先輩は椅子から降りケースをこちらへ運んだ。

 ファスナーを開いてギターを取り出すと、ネックを支えて私へ渡してくれる。


「ついでに、そこのアンプへこれを繋いでくれないかしら」

「あんたがやりなさいよ!」


 紡先輩は、両端に銀色の差し込み部分がついた黒いケーブルを、ギターとアンプに繋いだ。

 私がギターを太腿へ乗せると、久遠先輩が、スマホにコード表を表示する。


「Emからやってみましょう。さあ真白、左手を出してちょうだい」


 久遠先輩は私の中指と薬指を取り、弦の上へ置いた。

 指を立てれば爪が弦に当たり、寝かせれば隣の弦に触れてしまった。久遠先輩が私の指の形を直してくれる。


「ひゃっ……く、久遠先輩、顔が近いです……」

「ふふ。ギターのネックじゃなくて、私の顔ばかり見てるわね? 弦の押さえ方より、私の方が気になる?」

「気になりません! 練習しましょう」

「……真白」


 零が私の左腕に自分の腕を絡めた。

 弦を押さえる手を引かれ、ギターから音が出せない。


「Emは、Gメジャーと同じ音だけでできている。でも、曲の中心になる音が違うから、暗く聞こえるEmと明るく聞こえるGメジャーに分かれる。……真白の隣は私の。この女より、私だけを見て」

「零、だから今は練習……」

「あら。知識をひけらかしても、実践は教えられないでしょう?」


 久遠先輩は私の右手を包み、零は左腕を離さず、五月はちょっと離れた向こうからこちらを見ていた。

 ギターを弾く前から帰りたい。


「二人とも、張り合わないで! 集中できないし、少し離れてくれないと弾けないんだけど!?」


 二人が離れ、私は二本の指を弦に置いて音を鳴らそうとしたが、掠れた音しか鳴らなかった。

 指先を直せばビィンと鳴り、うまく音を鳴らすためには練習あるのみのようだ。



***



 帰宅後、希望曲は『恋するリボン』と『君だけにスマイル』に決まった。

 MVでは、リボンとハートの照明に囲まれた七瀬さんが、囁き声から低音と早口へ切り替え、サビで綺麗な高音を出し歌っていた。

 歌、うますぎない?

 ただ可愛いだけのアイドルじゃない人と、私はバンドをするんだ。


「……動画を見てても、ギターは上手くならないよね。よし、練習するか」


 私はギターを太腿へ乗せ、六本の弦を一本ずつ正しい音に合わせた。ギターのケーブルをアンプの差し込み口へ挿し、そこへイヤホンを繋ぐ。

 電源を入れて音量のつまみを回し、弦を押さえ、ピックを下ろすと、イヤホンにEmが響いた。


「おおっ。ちゃんとした音が出た! 弾けるようになった!」

「次は、Amに挑戦……指をこうして、こう」


 画面のお手本を見ながら、左手の指三本を弦を押さえる。

 ところが、弾いてみても一部の音がうまく鳴らない。もう一度試しても、やっぱり同じだった。


「あれ……指が邪魔してる?」


 人差し指を少し立てて、隣の弦に触れないようにする。

 そのまま弦を弾き直すと、今度は綺麗な音がイヤホンに響いた。さっき覚えたEmとは、また違った雰囲気の音だ。


「うん、Amもいい感じにできる。よし……」


 ちょっと決まった曲の練習をしてみよう。

 私は、スマホで一曲目のコード譜を検索して開いた。

 最初はG、その次がAで、三つ目には見たことのないF#mがあった。


「まずは……Gか」


 画面に表示されたお手本を見ながら、左手の指をギターの弦を押さえる。しかし、指が隣の弦に触れてしまい、弾いても音が鳴らない。


「こうやって……こう……? うっ、上手く鳴らない。なんか音が濁る。とりあえず次いってみよう。Aはどんな感じなんだろう。Gよりは簡単? かも?」


 次に挑戦したAは、三本の指を狭い場所に並べなければならず、指同士が邪魔をする。


「えっと、次は……F#m。……何これ、人差し指で全部の弦を押さえるの!? すごく難しそうだな……」


 人差し指一本で六本の弦をまとめて押さえる必要があるのだが、どう頑張っても指と弦の間に隙間ができてしまう。

 弦を弾くたび、イヤホンから聞こえてくるのは、ペスッという情けない音ばかりだった。


「全然音が鳴らない上に、手が痛い……っ!」


 人差し指には六本の線がついていた。

 私はF#mのコード図を閉じ、Gの図へ戻る。


「うう……今日はもう、Gだけ練習しよう……」


 指の位置を少しずつ直しては弾き、変な音が混ざればまた押さえ直す。その繰り返しだった。

 そうして何度も練習しているうちに、だんだんそれっぽい音になっていった。

 二十三時頃、最初よりもずっと綺麗なGの音が鳴ったことに満足して、私はアンプの音量をゼロに戻し、電源を切った。

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