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女の私が女の子を抱かなきゃ帰れないって、どういうこと!? ~エロゲ世界に転生したのでヒロイン十六人を攻略します~  作者: 円井ねここ
第七章 君が歌うなら

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私、ギターにする

 土曜日、零(れい)が予約してくれた駅前の音楽スタジオで、レンタルのギターとベースがスタンドに置かれていた。

 大きいスピーカーのようなものは、アンプというらしい。


「これがギターとベース……」

「真白(ましろ)、弾いてみましょう」


 零がポイントを使ったはずの土日だったが、その場には久遠(くおん)先輩もいた。


「……ところで、どうして、あなたがいるの。週末の真白の独占権利は、私にあるのに」

「あら。私はあくまで楽器を決めるための『講師』として来ただけよ。あなたは鍵盤楽器しか教えられないでしょう? ……さあ、真白。まずはベースを持ってみて」

「…………」


 零は無表情だが、どことなく怒っているオーラを出していた。

 黒いベースを肩にかけると、背中に久遠先輩がくっついてきた。


「どうしてそんなに、真白にくっつく必要があるの」

「不可抗力ね。後ろから支えてあげないと、初心者には重いでしょう? 真白、指はここに置くのよ」


 久遠先輩の指が、私の指を弦の上へ乗せた。


「押さえてみて」


 言われた通りに押さえようとすると、思ったより力が必要だった。


「……痛っ。弦が太くて、押さえた瞬間に指が……」

「そうね。それにベースは、ズレると曲の土台が崩れるわ。ドラムと噛み合わないと、下手さがかなり目立つパートよ。それに、音を鳴らすより、余計な音を止める方がずっと難しいわ」


 アンプから出た低音は床から身体に響く。

 押さえる指に力が入らず、弾いていない弦まで鳴って、ベースは地味で簡単な担当ではないと分からされる。


「次はギターね。ほら、持ち替えて」


 久遠先輩がベースをスタンドへ戻し、今度はギターを私の肩にかけると、久遠先輩はコードの形を教えてくれた。

 さっきより持ちやすい気がする。

 でも、教えられたコードを押さえようとしても全然形にならなかった。


「……んっ。うーん……音が綺麗に鳴らない。指も痛いし、変な弦が鳴っちゃう……」

「じゃあこっちの、この簡単なパワーコードを弾いてみて」


 久遠先輩が私の人差し指と薬指を押さえ直す。


「あ……。少し汚いけど、ギターって感じの音になる!」

「初めてにしては上手ね、真白」


 久遠先輩がまた私の頭を撫で、零の視線がその手にいった。


「ちょっと、弾いてみてもいいですか? どっちも」

「時間はまだあるわ。ゆっくり触って決めなさい」


 久遠先輩は返事をしながら、まだ私の頭に手を置いている。

 講師ということにすれば、何をしても許されると思っていませんか、先輩。


「もう教えるのは終わり。離れて」


 零が久遠先輩の手首を取って、私の頭から外した。

 そのまま、久遠先輩を追い払って私の背中に、腰に腕を回してきた。


「ちょ、零……近すぎるよ。弾きにくいんだけど」

「……真白、今度は私が支えるから」


 零に抱きしめられたまま、ギターを弾いてみた。

 またベースを持ってみる。

 やはり変な音は鳴るものの、うまく止められない。

 もう一度ギターに持ち替えて、音を鳴らしてみた。


「真白、どう?」


 文化祭までに練習するなら。それなら……


「私……ギターにする」


 そう言ってから、左手の指先がじんじんしているのに気づいた。

 下手くそな音しか出せないくせに、もう少し弾いてみたいと思っている自分がいた。



***



 スタジオを出る頃には、左手の指に弦の跡がついていた。

 久遠先輩は駅前の歩道で足を止め、名残惜しそうに私の方を見た。


「それじゃあ、ここでお別れね。月曜日に学校で会いましょう」

「うん。さよなら。……真白」

「んっ……」

「……っ!」


 別れの挨拶の途中で、零が私の唇を塞いだ。

 久遠先輩の笑顔が、ほんの一瞬だけ固まる。


「……んんっ」


 零の腕が背中へ回り、唇が深く重なる。

 通り過ぎる人の視線が集まって、私は零の肩を押そうとした。


「んっ!? ちょ、ま、零……っ!」


 押したはずの手を、零に握られる。

 舌先が触れて、私は外なのに何をされているんだと頭の中で叫んだ。

 久遠先輩がこっちに近づいて止めようとすると、零は私の手を握ったまま、さらに唇を重ねてきた。

 息継ぎのたびに道行く人の足音と視線が戻ってきて、もう文化祭どころか今この場で社会的に終わりそうだった。


「ちょっと零、ここ、外だよ!?」

「愛に時と場所は関係ない」


 あります。

 かなりあります。


「あなた、本当に図々しい新参ね。……せいぜい、短い週末を楽しみなさい。じゃあね、真白」


 久遠先輩は声を荒げなかったが、私を見る視線に怒りがこもっていて、私は月曜日の十六室が怖くなった。



***



 家に着くまで、零は私の手を離さなかった。

 玄関で靴を脱ごうとしても、背中側から腕を回したままなので、私は片足立ちでよろけかける。


「……真白の匂い。ずっと、くっついてたい」

「零、家の玄関に入る時からずっと抱きついてるけど……歩きにくいよ」


 靴を揃えようとしたら、私の後ろに回った零がうなじにキスをして、びくっと肩が跳ねた。

 スリッパを履く前にまたキスされ、玄関の廊下で深く唇を重ねられて、私は壁に手をついた。


「ちょ、零まだ玄関」

「ん……」


 再び唇を塞がれ、舌を入れられる。私はそれに抵抗できず、応えることしかできなかった。


「お姉ちゃん、おかえ……」


 キスをしている最中なのに、話しかけられてしまった。

 ……最悪だ。


「って、ええ!?」


 リビングから顔を出した出海(いずみ)が、両手で自分の目を覆った。

 指の隙間はしっかり開いている。


「……その人は……?」

「……真白の、彼女」

「えっ、あれ? 三上(みかみ)さんがお姉ちゃんの彼女じゃ……」

「いや! 二人とも彼女じゃないからね!?」


 否定した私の腰を零が抱きしめ、出海の視線は私と零から離れない。

 これ以上玄関にいると家庭内で新しい噂が生まれるので、私は零を引っ張って階段を上がり、部屋の扉を閉めた。


「……真白」

「なに?」

「……ベッド、いこ?」

「ええっ!? ま、まだ昼間なんだけど……」


 抗議したのに、零は私の制服の裾を摘んだ。


「……だめ? 私、真白といっぱいいちゃいちゃしたい。……お願い」


 零は、前の零なら言わなかった自分からのお願いを、今は自分がしたい、と私の前で言ってくれる。

 このループが終わったら、またあの空っぽな零に戻ってしまったのかもしれないと、思っていた。

 でも、目の前の零は違った。

 私とのことを覚えていて、自分の意思を示してくれる。

 それを思うと、昼間だとか、出海が下にいるとか、止める理由が出てこなくなってしまった。


「……わかった」


 ベッドに腰を下ろした途端、零が両肩に手を置き、私は押し倒され仰向けになった。

 ひんやりした指が唇をなぞり、さっき玄関でされたキスを思い出してしまう。


「……真白」

「ん、な――」


 返事の途中で唇を塞がれ、舌が触れるたび、逃げようとした息が零の口の中へ戻される。

 零の膝がシーツに沈んで私の両側を挟み、触れられる場所が増えるたび、私は声を飲み込むのに必死だった。


「……真白、キスが上手くなった」

「うっ! そ、それは……今までの経験というか、その……っ」


 言い訳は、最後まで言わせてもらえなかった。

 零がまた口を塞いで、私の声ごと深く重ねてくる。


「……今は、私だけを見て。真白の全部、私で上書きするから……」


 その言葉と一緒に、背中がシーツへ沈んだ。

 私は言い訳を探すのをやめて、零の背中に腕を回した。

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