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女の私が女の子を抱かなきゃ帰れないって、どういうこと!? ~エロゲ世界に転生したのでヒロイン十六人を攻略します~  作者: 円井ねここ
第七章 君が歌うなら

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再会のキスは突然に

 目が覚めると、いつもの天井が見えた。またループしたんだ。

 スマホの画面には四月九日と出ていて、終さんとののみの顔がまだまぶたの裏に残っている。

 私は、イルカイルを呼び出した。


「イルカイル、どうなったの……?」


 光が集まり、やがてイルカの形になる。


「二つの瓶、どっちも満タンまで溜まってるイルカ! 大成功イルカ!」

「よかった……。これで二人とも……」


 制服に着替え終えたところで、階下のチャイムが鳴った。


「おねえちゃーん、三上(みかみ)さん来たよー!」


 出海(いずみ)の声に返事をする間もなく、部屋の扉が開く。


「おい真白(ましろ)! 朝だぞ、さっさと学校行くぞ!」


 イルカイルの横で、終先生の瓶とののみの瓶が光っていた。



***



 朝の登校は、雪乃の機嫌が悪い以外は平和だった。

 その平和が昼休みに終わり、十六室(じゅうろくしつ)へ向かうために鞄を持ったところで、クラスメイトが教室の入口からこちらを呼ぶ。


「佐倉さん、廊下にお客さん。呼ばれてるよ」

「えっ? 私に……?」


 佐倉さん、と呼ばれることには慣れた。慣れただけで、自分の名前だとは思えていない。


「……真白」


 廊下にいたのは、零(れい)だった。

 音楽科棟でも特別音楽室でもなく、普通科の教室前で私を呼び出した。

 どういうことだ!? 零はループした後、記憶がなくなったはずじゃ。


「……あ、えっ!? れ……き、霧島さん!? どうしてここに……っ」


 私は零、と言いかけて、霧島さんと言い直す。


「……会いたかった」

「えっ――」

「んっ……」


 返事の続きは唇で塞がれ、零の指が私の制服を掴んだ。

 廊下のざわめきが一瞬止まって、倍になって戻ってきた。

 見られてる。クラスメイトに、思いっきり見られてる。


「なっ!? お、お前、廊下で真白に何して……っ!」


 雪乃の怒鳴り声で、廊下の視線が一斉にこっちを向いた。

 今すぐまわれ右して教室へ逃げ込みたい。その教室の全員が、こっちを見ているんだけど。

 零はようやく唇を離し、私を抱きしめた。


「……真白。……全部、思い出したよ」

「えっ!? 思い出したって……どういうこと〜!?」


 私の声が裏返った。

 廊下でキス、雪乃の怒声、零の記憶、私は一気に全て考えることができなかった。



***



 零を十六室に連れて行くと、零は当然のように私の隣に座り、両手で私の手を包んだ。

 そこは、いつも雪乃が座っていた場所だった。

 久遠(くおん)先輩はノートパソコンを閉じて、こっちを見てくる。

 その指が、机の上を、とん、とん、と叩いている。


「…………」

「おい! さっきから真白にベッタリくっつくな!」

「嫌。……真白は、私の」

「はぁ!? 何言ってんだお前!」


 議題は零の記憶が戻ったことのはずなのに、先に私の座席をめぐる争いが始まっている。

 ちなみに私はまだ、お昼ごはんを食べていない。


「零……」

「……ダメ? ずっと真白に触りたかった。……真白の匂い、落ち着く……」

「あら。ずいぶんと気安くイチャイチャしてくれるのね。見ていて非常にイライラするわ」


 久遠先輩の声はいつも通りだった。いつも通りなのに、怖い。


「あ、あの…零。思い出したって、本当に?」


 強く握られ、外そうとすると力をもっと入れてくる。

 私はそのまま、零の手を外せずに聞いた。


「うん。同じ日が繰り返されるって気がついたの。同じ4月を過ごした後、途中で、違和感に気づいた。それで、真白のこと……真白と過ごした時間、全部思い出して。……だから今日、どうしても真白の顔が見たくて、教室に会いに来た」


 零の説明は短い。でも、教室前のキスの理由としては、それが全てだった。


「新参、そこをどけ! 真白の隣は私の指定席だぞ!」

「どかない。私が先に座ったから。……真白、私とこの人、どっちの隣がいい?」

「ええっ!? ど、どっちって言われても……っ」

「でも霧島さん。私、あなたをどこかで見たことがあるわね。どこだったかしら?」

「……私は知らない。あなた、誰?」

「……ふふっ。本当に可愛げのない口ね」


 机を叩く音が、止まった。

 久遠先輩が、零をじっと見た。

 お願いだから知らない者同士の威嚇に私を挟まないでほしい。


「まあ待ちなさい。記憶が戻ったのなら、今後の協力のためにも、私たちから全てを話すべきじゃないかしら?」

「……そうですね。分かりました」


 紡(つむぎ)先輩の提案で、ループ、瓶、ラブエナジー、零の記憶の話に戻った。

 説明が一段落したところで、イルカイルが十六室に現れた。


「また記憶持ちイルカ〜!?  まあ、エナジー集めの得にはなるからいイルカけど……真白が優先すべきは今の攻略で……むむむイルカ」

「……喋る、イルカ……。真白、これ何?」


 零が、初めて私以外を見た。

 相手がイルカイルなのは、一番説明しづらい。


「いいか霧島零、真白にはこれからの攻略を優先してほしイルカ! だから、真白を独り占めしていちゃいちゃするには、ポイントが必要イルカよ〜!」

「……真白は私の、なのに」

「ふん! ルールはルールだ。ポイントがない奴は大人しくしてろ!」

「三上さんもポイントないのに、威勢だけはいいわね」

「う、うるさい!」

「じゃあ、頑張ってポイント、集める」


 イルカイルが勝手に作ったルールを聞き、零が真面目に頷いている。

 誰も、私の都合は関係なしだ。


「さて。次の攻略について話すわよ。鍵守六実(かぎもりむつみ)、七瀬奈々(ななせなな)、矢代八雲(やしろやくも)、千代田詩織(ちよだしおり)。この四人を並行攻略するわ」

「よ、四人同時……!? できるかな、そんなこと……」

「最初から完璧にやろうと思わなくていいわ。全員と接触して、仲を深めて……無理そうなら、二人か三人に妥協しましょう」


 紡先輩が指を四本立てて、候補の名前を挙げた。

 鍵守六実は同じクラスの不登校の女の子。

 プリントを先生の代わりに自宅に持っていくことで、接点が作れる。

 千代田詩織は出海の友達。だから、出海に会えるようにお願いする。


「鍵守さんと千代田さんなら、簡単に接触できそうだけど……七瀬さんと矢代さんが問題ね。七瀬奈々はアイドル、矢代八雲は舞台女優。人気者の上、多忙だわ」


 七瀬奈々は学園アイドルとして行事の中心にいて、矢代八雲は男装王子様として舞台に立つ。

 零式十六会《ぜろしきじゅうろくかい》が呼び出したところで、はいそうですかと来てくれる相手じゃない。


「……七瀬奈々なら。なんとかなる、かも」


 零が私の手を持ったまま、ぽつりと言った。


「えっ? 零、どうするの?」

「一緒に、文化祭のバンドに誘ってみる」

「文化祭? ずいぶん先の予定ね」

「うん。でも、理由がないと近づけないと思うから」

「でも、どうやってそのアイドルにバンドやろうって言うんだ? 向こうは忙しいんだろ?」

「私がお願いしたら、多分、聞いてくれる」

「え……? どういうこと?」


 零は答えなかった。


「見てて。……真白、一緒にお願いしに行こう。……ずっと、手繋いでてね」


 零が立ち上がる。繋いだままの手に私は引っ張られた。

 文化祭でバンド。まだ何も始まっていないのに、もう逃げられそうになかった。


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