サキュバスなのに、搾り取られちゃったみゅん
日曜日の午後、私はののみの家に招かれていた。
「真白ちゃん、入ってみゅん!」
ののみの部屋に入ると、いつものオカルトグッズが棚を埋めていた。
鏡が壁際に立てかけられ、その隣に、ひびの入った水晶玉があった。
棚の一段には心霊写真だという古い白黒の写真が画鋲で留められ、その上の段では、宇宙人のソフビ人形が、並んでいた。
机の上では、ロウソクの型をしたライトが、光っている。
壁の一面には、墨文字のお札が隙間なく貼られていて、その文字は、何が書かれているのかは読めない。
そして、昼間なのにカーテンは閉め切られ、天井に散らばった蓄光の星シールが、薄く光っていた。
「今日は特別な儀式があるみゅん。だから、真白ちゃんには後ろ向きで待っててほしいみゅん」
「儀式?」
「ぴこーん! 詳しくは見てからのお楽しみみゅん!」
ののみは私の肩を掴んで、壁に向かせた。
「いいよっていうまで、絶対こっち見ちゃだめみゅん!」
「分かった」
「約束みゅん! 振り向いたら、ののみんが怒るみゅん!」
後ろで、衣擦れの音がした。
ファスナーを下ろす音。
それから、慌ただしく何かを身につける気配がした。
留め具がかちりと鳴って、また、外れる。
時々「みゅ、っ」と、うまくいかないらしい小さな声が漏れた。
見てはいけないと言われているので、私は壁に貼られたお札の文字を、ぼんやり見ていた。
「……いいみゅん!」
振り向くと、肌面積の多い衣装をしたののみが、そこにいた。
ビキニのような衣装だった。
それに加えて小さな角、背中の羽、腰の尻尾。
お腹の辺りには赤い模様が浮かんでいる。
タトゥシールだろうか。
「ぴこぴこぴこーん……! サキュバスののみん、参上みゅん! 今日は、真白ちゃんのエナジーを吸い尽くすみゅん……!」
ののみは両手を広げ、ポーズを取った。
言い切ったあと、少しだけ不安そうに私の顔を覗き込む。
「……ののみん、魅力あるみゅん? ムラムラするみゅん?」
顔が真っ赤になりながら、私の反応を求めている目をしていた。
サキュバスの衣装をしていても、この子が本当に欲しいのは、吸い尽くすことじゃない。
私に求められて、置いていかれないことだ。
「……する」
ののみの肩が、ぴくんと動いた。
「ムラムラしてきたよ、ののみ」
ののみが、息を呑む。
その隙に、私はののみの手首を掴んでベッドへ押し倒した。
「ひゃ、みゅっ!? ま、待ってみゅん、ののみんがサキュバスなのに……っ」
「ののみがこんな格好してきたから、ダメなんだよ?」
私は、ののみの顎を上げて、唇を重ねた。
触れるだけでは終わらせない。
下唇を軽く挟んで、開いた口の隙間から、舌を差し入れる。
ののみの身体が一瞬こわばって、それから力が抜けた。
奥へ逃げる舌を追いかけて絡めると、ののみの喉から、こもった声が漏れる。
「んっ……んんっ……!」
私は、ビキニの上着を上へずらした。
「エナジーを吸う」と言い張っていたののみの声が、私が触れるたびに、少しずつ形をなくしていく。
「……んっ、あっ、だめ、みゅ……っ」
空いた手を太ももの内側へ滑らせると、ビキニの薄い布の奥は、ものすごい熱を持っている。
「……ののみの方がムラムラしてるじゃん」
「ちが……っ、これは儀式の、副作用みゅ……っ、あっ──!」
布の内側へ、指を進める。
エナジーを奪うサキュバスの余裕は、とっくに無くなっていた。
強がって着飾って、それでも失敗した素のこの子が、可愛くて仕方ない。
「……ぁ、ましろ、ちゃん……っ、それ、だめ……っ」
私が触れるたび、ののみの言葉から、また電波語が抜け落ちていく。
やがて、ののみの奥で、何かがせり上がってくるのが指に伝わった。ためこんでいた熱が、限界まで膨らんで――
「あ、あ、あああ──っ!」
弾けた。
抱えきれなくなったものが、ののみの奥から一気に放たれる。腰が跳ねるたび、その熱がまた押し出されて、私の指を、手の甲を、伝っていった。
一度では終わらない。二度、三度と、溜めこんでいたものが、こぼれていく。
サキュバスが吸うはずだったエナジーを、ののみは、自分から全部こぼしてしまった。
「ひゃ、あっ……! やだ……っ、止まらな……っ!」
ののみは涙目で天井を見上げて、最後の波が引くまで、私の腕の中で震えていた。
ふっと、力が抜ける。
「…………っ、……はぁ……っ、はぁ……っ」
しばらく、ののみは動けなかった。荒い息の合間に、まだ指先まで震えていた。
「……エナジーが、出ちゃったみゅん……」
くぐもった声だった。
角も羽も尻尾もずれたまま、ののみは力を抜いた。
「うん。……いっぱい出ちゃったね」
ののみは、返事の代わりに私の胸へ倒れ込んできた。
汗ばんだ額を私の鎖骨に押し当てて、腕を回してくる。
私は、ずれた角のカチューシャをそっと外して、枕元へ置いた。
羽も、尻尾も、順番に外していく。
「みゅ……真白ちゃん、あったかいみゅん……」
「ののみもね」
汗で貼りついた前髪に触れると、ののみがくすぐったそうに目を細めた。
「サキュバス、失敗しちゃったみゅん……。吸うつもりが、ののみんが全部出しちゃったみゅん……」
「いいよ。ののみのそういうとこ、好きだから」
そうののみに言いながらも、昨日の終さんの顔がちらついて、私はその影ごと、ののみを抱き寄せた。
ののみは、みゅふふ、と笑って、私の背中をぎゅっと掴む。
「……なでなでしてほしいみゅん」
「はいはい。何回でも」
窓の外はもう夕方で、ロウソク型のライトだけが、二人をぼんやり照らしていた。
オカルトグッズに囲まれた部屋で、私はしばらく、ののみの髪を撫で続けた。




