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女の私が女の子を抱かなきゃ帰れないって、どういうこと!? ~エロゲ世界に転生したのでヒロイン十六人を攻略します~  作者: 円井ねここ
第六章 二人に、言えない

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元彼と、どっちが気持ちいいですか?

 土曜日の昼過ぎ、私は藤代先生の部屋で、積み上がった段ボールを前にしていた。

 玄関を入ってすぐの廊下にも、リビングの壁際にも、オンラインクレーンゲームの配送箱がある。

 前に来た時も多かったけれど、今日はソファへ向かう通路が箱で狭くなっている。

 確かに、これでは映える写真を撮るのは無理だ。


「最近、全然もちおたちの写真を送ってくれないから、どうしたのかなって思ってたんですよ」

「うぅ……ごめんね。アプリのクレーンゲームのダンボールが溜まりすぎちゃって、部屋が汚すぎてとても写真なんて撮れる状態じゃなかったの……」


 先生は両手で顔を隠した。

 私は玄関で、受け取った空の段ボールを畳み始めた。


「ふふ、だからこうして私が片付けを手伝いに来たんじゃないですか。さあ、どんどん開封して飾っちゃいましょう」


 空箱を畳んだ後、ガムテープで閉じられた箱を開けると、中からラピピのクッションが出てきた。

 私は箱の中の緩衝材を抜き、先生にクッションを渡した。

 先生は棚の空いた段にクッションを置いて、角度を調整する。

 私は畳んだ段ボールを玄関横に積み、緩衝材をゴミ袋へ入れた。


「ふぅ……ようやく片付きましたね」

「うん、ありがとう佐倉さん。……ぬいぐるみたちも、綺麗に並べられて嬉しそう」


 最後の箱を畳むと、先生はソファに腰を下ろした。

 私も隣に座る。

 片付けは終わり、私はやることがなくなってしまった。

 でも、先生の部屋に来た用事は、片付けだけで終わらせるわけにはいかない。


「……佐倉さん」

「なんですか、先生?」


 私は先生の方へ体を向けた。

 先生もこちらを見る。


「私、最近変なの」


 先生が、頼りない声で言った。


「部室で、佐倉さんが四条さんと仲良くしているのを見ると」


 私はドキッとして、言葉が出なかった。

 ののみの顔が浮かんでしまう。


「なんかモヤモヤってするの」


 先生は私の方をまっすぐ見て、言葉を止めなかった。


「気がついたら佐倉さんのこと考えてて……だから、その、多分私」


 先生が一度、唇を噛んだ。

 今の先生は、先生の顔をしていない。

 ただ、好きな人に告白しようとしている二十三歳の女の人だった。


「佐倉さんのこと、好き、なんだと思う」


 私はすぐに返せなかった。

 ののみを抱きしめた手で、今は先生の隣に座っている。

 その事実に、胸が苦しくなってしまう。


「先生……」


 私も好きです、と言えば、先生はきっと喜んでくれる。

 先生がこちらを向く。

 目が合った。

 先生は震えながら、ゆっくり顔を寄せてきた。

 今度は私からではない。

 先生の方から、私の唇に触れた。


「んっ……」


 触れるだけの拙いキスだった。

 先生は唇を離した後、どうすればいいのか分からずに固まっている。

 私は先生の腰に腕を回し、逃げないように引き寄せながら、もっと深く唇を塞いだ。


「……はぁ、んっ」

「んっ……ひゃっ……ま、待って……っ」


 私が息継ぎを待たずに舌を絡めると、先生が慌てて私の肩を押した。

 唇を離す。急ぎすぎただろうか。


「……なんですか? ダメ、でしたか?」

「ち、違うのっ……! あ、あの……もちおたちが、見てる、から……」

「確かに、見られちゃいますね」

「う、うん……! ちょっと、待っててね……!」


 真っ赤になった先生がソファから立ち上がった。

 まず、こちらを向いているラピピを棚の奥へくるりと回す。

 次に、もちおを両手で抱えて、テレビ台の上からクローゼットへ運ぶ。

 こんな場面で、ぬいぐるみへの配慮を真剣にする先生が、どうしようもなく可愛い。


「ふぅ……。こ、これで、大丈夫……」

「ふふっ。可愛すぎますよ、先生」


 戻ってきた先生の腕を引き、そのままソファへ倒した。

 先生の体が硬くなる。

 私は先生の髪に触れ、乱れた前髪を額の横へ流し、頬へキスをする。

 先生の肩から、力が抜けた。


「んっ……佐倉さん……っ」


 先生は、まだ私を苗字で呼ぶ。

 部室でも、車の中でも、先生の部屋でも。


「……真白、って呼んでください。先生」

「……ましろ、ちゃ、ん……」

「ふふ、よくできました」


 私はもう一度、先生の唇に触れた。

 先生は今度は、逃げなかった。

 たどたどしく舌を出して、私の動きを追ってくる。


「……じゃあ、私のことも、先生はやだ」

「えっ?」

「もう、学校じゃない、から……。先生って、呼ばないで……?」


 先生は、恥ずかしそうに私を見上げた。

 その言い方はずるい。


「……分かりました。じゃあ……終さん」


 終さんは返事をしなかった。

 代わりに、自分から私の唇に触れてくる。

 私たちはそのまま、ベッドへ移動した。

 ベッドに座ると、終さんが私の手を握った。


「……真白ちゃん」


 終さんが、不安そうに私の顔を見上げる。


「……私が、リードする。年上だし、教える側だし……真白ちゃんのこと、好きだから。ちゃんと、私が」

「じゃあ、お手並み拝見です。……年上の終さん」


 終さんは戸惑いながらも、私に近づいてくる。


「経験、あるもん! だって私、大人だし……」


 そう言い張る終さんの、私の肩に置かれた手は、まだ震えていた。

 「経験ある」も「大人」も、私によく見せようとするだけの見栄だ。

 震える手でそれを言う終さんが、可愛くて仕方ない。

 ──その「経験ある」が本当かどうか、少しだけ突いてみたくなった。


「それって……元彼と、とかですか?」


 終さんが固まり、顔色が一気に変わった。


「こ、こんな話、真白ちゃんの前でしちゃダメだよね!? 私のばかばか……!」


 さっきまでの強がりが崩れてしまい、終さんはうずくまって顔を手で覆った。


「……元彼に、言われたことあるの。私、反応が薄い、つまんないって。……マグロ、って」


 終さんの声が、だんだん小さくなる。


「だから、こういうことするの、本当は自信がないの……。真白ちゃんにも、がっかりされたらどうしようって……」


 終さんは、ずっと消せずにいた古い傷を、私に教えてくれた。

 ――昨日、私はののみに「好きだ」と言った。その同じ手で、今は終さんの傷に触れている。

 最低だと思う。それでも、終さんにこんな顔をさせた元彼のことだけは、今日で忘れさせたかった。


「……嫉妬しちゃいます。終さんの初めてが、私じゃないの」


 私は終さんの背中に手を置いて、うずくまった身体をそっと起こした。


「でも、その元彼が引き出せなかった終さんを、私が全部もらいます。……終さんのそういう顔、私だけのものにしたい」


 終さんがなにか言う前に私は唇を塞ぎ、そのまま押し倒した。


「ま、待って……私がリードするって……」

「もう遅いです」


 キスを重ねながら、私は終さんの髪に触れた。

 伏せられたもちおたちは、もうこちらを見ていない。

 終さんの服のボタンを、上から一つずつ外した。

 あらわになった肌に手のひらで触れると、終さんの身体がびくりと跳ねる。


「ん……っ」


 私が触れるたびに、終さんは慌てて口を手で覆う。


「……声、我慢しなくていいから」

「で、でも……っ」


 私の手のひらの下で、終さんの身体は素直に反応していた。


「元彼は、こんなふうにしてくれましたか?」

「……っ、な、なに……これ……私、こんな……っ」


 終さんは、自分の身体に起きていることに、ついていけていない。

 先生として、年上としての見栄も、とっくに剥がれ落ちていた。

 私が触れるたびに、終さんの言葉が、どんどん形をなくしていく。


「元彼と、どっちが気持ちいいですか?」


 意地悪だと分かっていて、聞いた。


「まし、ろちゃんっ……真白ちゃんの、ほうが……っ」


 その答えが、私の中の何かを満たす。

 高まっていく終さんを、私は抱きしめて支えた。


「あ──もう、だめっ……」


 もう、言葉の輪郭がぼやけている。終さんの口からは、私の名前と、意味をなさない声しか、出てこなかった。

 やがて、終さんの身体が大きく震えて、こわばって――それから、力が抜けた。


「…………っ、……はぁ……っ」


 しばらく、終さんは動けなかった。天井を見上げたまま、荒い息を繰り返している。まだ、身体が小さく震えていた。

 しばらくすると、両腕を伸ばして私をぎゅっと抱きしめてきた。

 顔を私の胸に埋めて、声を押し殺すように震えている。


「……私が年上なのに……」


 くぐもった声だった。


「でも、可愛かったです」

「もう、そういうの言わないで……っ」


 終さんは抗議しながらも、腕の力を緩めなかった。

 私は終さんの背中に手を回して、抱きしめ返した。

 今日この部屋で、私たちは顧問と部員ではいられなくなった。

 終さんが私の胸に顔を埋めたまま、小さくうなずいた。


「……真白ちゃん、好きだよ」


 終さんの腕に、ぎゅっと力がこもった。


「私もです。終さん」


 終さんは、私の胸に顔を埋めたまま、しばらく動かなかった。

 汗ばんだ髪を撫でると、くすぐったそうに首をすくめた。


「……ねえ、真白ちゃん」

「はい?」

「もちおたち、そろそろ……出してあげても、いい……?」


 ぬいぐるみたちを気にする終さんがおかしくて、私は笑ってしまった。

 起き上がって、うさちゃん先輩をクッションの陰から、たこ部長を箱の中から救い出す。もちおとラピピも、元の棚へ戻した。

 ぬいぐるみたちの視線が戻ってくると、終さんは布団を引き上げて、その中に半分隠れる。


「もう……っ、恥ずかしいから、こっち見ないでよぉ……」

「見ちゃダメなのは、もちおたちですよ。私は、いいでしょう?」

「真白ちゃんが一番ダメなのっ……!」


 布団の隙間から、真っ赤な終さんが睨んでくる。睨んでいるのに、私の袖を掴んだ手は離れない。

 「マグロ」なんて言った元彼は、きっとこの顔を知らない。知らないまま、この人を手放したんだ。もったいない、と思う。

 私は布団ごと終さんを抱き締めて、頬ににキスをした。

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