ここは、部室だよ……?
次の日の放課後、オカルト研究部の部室には、終先生がいた。
ののみはまだ来ておらず、机の上には昨日の活動日誌ファイルが置いてある。
課外活動の記録のプリントを先生は記入しようとしていた。
私が向かいに座ると、先生はプリントをこちらへ少し向けた。
「えっと、この間のトンネルの件なんだけど……活動内容、どう書けばいいかな。肝試しってそのまま書くと、ちょっと怒られちゃいそうで」
「地域の民俗資料調査、でどうですか? 心霊スポットとして語られている場所の調査、とか」
「そ、それなら課外活動っぽいね」
「はい。ののみ、いっぱい写真撮ってましたし、あとでデータもらって印刷しましょう」
先生はプリントの項目を埋めていく。
こうして普通に部活の話をしていると、先生は顧問というより、同級生に見えた。
ただ、参加者の欄に四条ののみ、と書いたところで、先生のペンが止まった。
「佐倉さんって、四条さんと仲良いんだね」
「そうですね、同じ部活の友達ですからね」
ペン先は、参加者欄のところで止まったままだった。
その続きを書かない。
「…………友達って、あんなふうに、指を絡める恋人繋ぎとか、するの……?」
「えっ……」
ぎくりとした。先生は昨日のあれを見ていた。
うろたえたら終わりだ。
「はい、私は友達とは普通にしますよ?」
「ふ、ふつう……」
「最近の子はみんなそうだと思いますけど。私なんて、幼馴染の唯花とも普通に手を繋いで歩きますし」
本当はそんなこと絶対しない。
唯花と手を繋いで歩いたことなんて、今までのループで一度もない。
けれど、今はこう言って押し切るしかない。
「そ、そうなの……? 先生たちの時代とは、ずいぶん感覚が変わったんだねぇ……」
「先生も、繋ぎますか?」
先生に向かって、私は手を差し出した。
先生は、困った顔で私を見て、差し出された私の手を見て、それから、おそるおそる手を乗せてきた。
私は先生の指の間へ、自分の指を入れる。
「ひゃっ……」
先生は顔を真っ赤にして、私から目を逸らしたが、手を振りほどこうとはしない。
私は空いている方の手を伸ばした。
先生の頬に触れると、先生の肩が跳ねる。
部室の外からは、まだ誰の声も聞こえない。
昨日、先生が言いかけてやめたことを今なら聞ける。
「先生……まだ、昨日のこと怒ってます?」
「怒って、ないよ……。ただ……」
「ただ?」
「四条さんと……すごく楽しそうだったから。私、一応大人なのに、生徒にヤキモチ妬くなんて、みっともないよね……」
先生は、恋人繋ぎの手をほどかないまま、私を見上げた。
「みっともなくないですよ。私にヤキモチ妬いてくれてる先生、すっごく可愛いです」
「〜〜〜〜っ! もう、佐倉さんはいつもそうやって、私をからかって……っ」
「からかってないって、土曜日に言いましたよね。……先生の彼女になりたいって」
「うぅ……」
先生の返事が、そこで切れた。
ののみが来たら、いつものオカルトの話が始まる。
先生は顧問に戻って、私は部員に戻る。
その前に、どうしても先生に踏み込みたかった。
「……キス、してもいいですか?」
「……ここは、部室、だよ……? 四条さんが……」
先生は扉の方を見て、それから私の顔を見る。
私は先生の返事を待った。
それでやっと、かすかに頷いた。
私はそれを見て、先生の頬に触れ、唇を重ねた。
先生は目を閉じて、繋いだ手に力を込めた。
二度目は、先生からも動いてきた。
私の下唇を、そっと挟んでくる。上手くはない。
歯がかすかに当たって、それでも離れようとしない。
先生の唇が開く。入ってきた舌に触れた瞬間、先生の指が私の手を握り直した。
「……先生、もう一回……」
「ぁ……う、うんっ……」
一度離れた唇の間で、先生が短く返事をする。
私は先生の頬に手を添え直した。先生も、もう逃げる気はない。
今度は先生の方から、かすかに顎を上げる。
その瞬間、引き戸が勢いよく開いた。
「ぴこーん! ののみん、部室に到着みゅん! ……みゅん? 真白ちゃん、ツッチー先生、何してるみゅん?」
私は、反射的に先生から離れた。
先生も、横へ退いた。
「ひゃああっ!?」
繋いでいた手が離れて、私の手だけが宙に残る。
まずい。見られてしまっただろうか。
「あ、ののみ。先生の髪に、ちょっと埃がついてたから取ってたんだ」
「ほ、ほこり!? そ、そう! すっごく大きな、オカルト的な埃がね!」
「そうだったみゅんか!」
先生は両手を胸の前で握って、こくこく頷いている。
ごまかし方が下手すぎるのに、ののみは素直に信じてくれた。
「それよりののみ、前髪がはねてるよ」
「みゅ?」
「はい、直してあげる。……よしよし」
私はののみの頭に手を乗せた。
先生の髪についた埃から、ののみの前髪へ話を移して、逃げる。
けれど、ののみはすぐに嬉しそうに目を細めた。
頭を撫でると、ののみの肩から力が抜けた。
「みゅ〜〜〜んっ! 真白ちゃんの手、気持ちいいみゅん! もっとなでなでして欲しいみゅん!」
「いいよ。可愛いね、ののみは」
「みゅふふ〜、真白ちゃん〜」
ののみが私の手に頭を預けて、これはこれでまずいと思う。
ついさっき先生と恋人繋ぎをしていた手で、今度はののみを撫でている。誤魔化せたのはいいが、別の火種を作っているような気がする。
横を見ると、先生が机の向こうで唇を尖らせ、私とののみを見ていた。
先生として、何も言えない顔だった。
「…………っ」
ののみにはバレずに済んだ。
そういうことにしておく。
私はののみの頭を撫でながら、先生に向かって笑ってみせた。
先生は笑い返さない。
これ、本当に大丈夫なのか……?




