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女の私が女の子を抱かなきゃ帰れないって、どういうこと!? ~エロゲ世界に転生したのでヒロイン十六人を攻略します~  作者: 円井ねここ
第六章 二人に、言えない

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キスで補給してほしいみゅん

 月曜日の放課後、オカルト研究部の机には、ののみの占いセットが広がっていた。

 その中央には、手相の特集が載った古い雑誌が開かれている。

 ののみは私の右手を握ったまま、雑誌の図解と私の左手のひらを見比べながら、真剣な顔で線を追っていた。

 金曜日の放課後から、ののみはずっとこの調子だ。

 部室で隣に座る時も、廊下へ出る時も、帰り支度をする時も、私の手を握ってくる。


「ぴこーん! 真白(ましろ)ちゃんの生命線と感情線、ののみんの星の軌道と完全に交差してるみゅん!」

「ふーん、そうなんだ」

「ここが生命線みゅん。こっちの長い線が、恋愛方面で怪しいみゅん!」

「長いとどうなるの?」

「好きになった相手を、銀河の外に行っても追跡する相みゅん!」

「それ、雑誌に書いてある?」

「雑誌には、情が深いって書いてあるみゅん。続きは、ののみんのアンテナが受信したみゅん!」


 ののみは繋いだ右手を離さないまま、私の左手を机の上に置かせて手相を見ていた。

 雑誌の図解と見比べられ、占いというより実験台の気分だ。

 ののみは雑誌の端に肘を乗せ、私の手のひらを覗き込む。


「みゅふふ……手相占いの結果は宇宙の真理みゅん。だから、真白ちゃんとののみんはずっと一緒みゅん」


 ののみが、繋いでいた私の右手に自分の指を絡めてきた。引っ張られた私は、椅子の上で姿勢を直す。

 そういう占いだったっけ。

 言いかけたところで、部室の扉が開いた。

 入ってきた終先生(ついせんせい)が、入口で私とののみの手を見る。

 その姿を見た瞬間、私はののみの手をほどこうとした。


「……ののみ、ちょっと手が……」

「離さないみゅん。……あっ、先生みゅん! じゃあ次は、終先生の手相を見るみゅん! 先生、左手を出してほしいみゅん!」


 土曜日のことがあってから、先生とは学園でまだまともに話していない。

 廊下で一度すれ違った時も、先生は顔を赤くして目を合わせてくれなかった。

 それなのに、私の右手は今、ののみに指を絡められている。

 先生は私の顔を見て、それからもう一度手に視線を戻し、何か言おうとして口を閉じた。

 違います、と言いたい。

 いや、何が違うんだろう?


「えっ? あ、うん……じゃあ、お願いしようかな。なんだか本格的だね」


 先生が、ののみの前に左手を差し出した。

 ののみは空いている右手で先生の手を取り、真剣な顔で覗き込んだ。

 先生の視線が、ののみの手から私の手へ移る。

 私は、つながれた指をほどこうとしたが、許してもらえず指を絡め直される。


「むむっ……! 先生の手相、見えたみゅん!」

「ど、どうかな……?」

「先生は今、心の中に秘密を抱えているみゅん! 恋愛は年下に翻弄されるかもと出ているみゅん!」

「ひゃっ……!? そ、そんなことまで分かるの……?」


 先生が息を呑み、私の方を見た。

 その視線がもう一度、私とののみのつながれた手で止まる。


「…………佐倉さ……えと……」


 土曜日のベッドでの出来事が、頭の中に浮かぶ。

 私からのキス。

 それから、「私が先生を好きっていうこと、覚えておいてくださいね」と言ったこと。


「あ、あの、先生……これは、その」


 私はもう一度、右手を引こうとした。

 ののみは「みゅん?」と首を傾げて、さらにぎゅっと指を絡めてくる。

 離してくれない。


「……ののみんの占い、当たってたみゅん?」

「……うん。四条さん、すごいね。……先生、ちょっと不安になっちゃうな」


 先生の声は、途中で擦れた。

 返事がすぐに出てこない。

 ののみは先生の言葉に、ぱあっと表情を明るくした。

 占いが当たったことを喜んでいる。


「先生、あの……」


 名前を呼びかけた瞬間、先生は鞄から活動日誌のファイルを取り出した。


「え、えっとね、この間のトンネルに行った時のこと、活動日誌書かないといけないから、ど、どう書くか考えておいて欲しいな……っ」


 活動日誌のファイルを机の上に置き、引き戸に手をかける。


「先生、もう行くんですか?」

「ま、まだ仕事が残ってるから……っ」


 先生は早口でそれだけ言って、目を逸らしたまま廊下へ出た。


「ツッチー先生、また占ってあげるみゅん! 次は水晶占いにするみゅん!」

「う、うん。……また今度ね」


 扉が閉まる。


「ツッチー先生、今日はなんだかしょんぼりしてたみゅん」

「……そう、かな」

「でも、手相は当たってたみゅん。きっと悩みがあるんだみゅん」


 ののみはまだ私の手を握っている。

 私は机の上のファイルを見て、さっき離そうとしたののみの手を強く握り返した。


「みゅっ……」


 私が力を込めると、ののみが少しだけ肩を揺らした。

 上目遣いで私を見上げてくる瞳が、潤んでいる。


「真白ちゃん……エナジーが、足りないみゅん」

「エナジー?」

「ツッチー先生の手相を見るのに、ののみんのパワーを使いすぎちゃったみゅん。……だから、補給してほしいみゅん」


 ののみは繋いだ手を自分の胸元に引き寄せると、目をぎゅっとつむり、少しだけ背伸びをして唇を突き出した。

 さっき先生があんな顔をして出て行ったばかりなのに。

 私の中にある罪悪感を、目の前の無防備な姿のののみが、塗り潰していく。

 私は、空いている左手でののみの頬を包み込んだ。


「……うん。お疲れ様、ののみ」


 そのまま顔を傾け、柔らかい感触に自分の唇を押し当てる。


「んっ……」


 触れる程度のつもりだった。

 ののみが私の服の裾を強く握りしめて、唇の重なりが深くなる。

 わずかに開いた唇の隙間から、甘い吐息と、ののみの熱が流れ込んできた。


「んんっ……みゅ……っ」


 静かな部室に、微かな水音が響く。

 私にしがみつく小さな体を支えながら、私はそっと目を閉じた。

 ――触れるたびに、泥のように甘く沈んでいく。

 誰かを安心させるための優しさが、また別の誰かを傷つけていく。

 それが分かっているのに、この熱を突き放すことなんてできなくて。

 交差してしまった星の軌道は、きっともう、引き返せない場所まで私を連れて行こうとしている。

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