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女の私が女の子を抱かなきゃ帰れないって、どういうこと!? ~エロゲ世界に転生したのでヒロイン十六人を攻略します~  作者: 円井ねここ
第六章 二人に、言えない

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事故じゃないキス

 土曜日の十四時前、桜木町のカフェ・ステラリアには、ラピピの看板が出ていた。

 入口の横には、コラボメニューと限定グッズの写真が並んでいる。

 カフェの中は、同じラピピ目当てのお客さんで埋まっていた。

 先生は座席に案内される前から、物販コーナーをチラチラ見ていた。教師じゃなくて、プライベートの顔だ。


「やったー! 限定ラピピのアクリルスタンド、無事にゲットできたよ〜! 佐倉(さくら)さん、今日はいっしょに来てくれて本当にありがとうね!」

「ふふ、先生すごく嬉しそうですね。私も楽しかったです」


 カフェを出る頃には、先生の手提げ袋の中で限定グッズがきれいに収まっていた。

 アクリルスタンド、アクリルコースター、缶バッジ、ステッカー。

 先生は店先で、袋の中身をもう一度覗き込んだ。

 私はその横で、先生が確認を終えるのを待った。


「よし! じゃあ、先生が車で家まで送っていくね。駐車場、行こう」

「……あの、先生」


 駐車場へ向かおうとしている先生が、振り返る。

 夕方の駅前は人通りが途切れず、カフェの前にも次の予約枠の人たちが並んでいた。

 ここで言うべきか、一瞬だけ迷った。

 でも、次の土曜日を待っているわけにはいかない。


「ん? どうしたの?」

「私、もうちょっとだけ、先生と一緒にいたいなぁ……なんて。ダメですか?」

「えっ!? あ、えっと……! そ、それなら、先生の家に来る……? 買ってきたラピピのグッズも並べたいし、お茶くらいなら出せる、よ?」

「はい。行きたいです」



***



 先生の部屋は、前に来た時よりラピピが増えていた。

 棚の上には既存のラピピが並び、ソファーの横にはもちおたちがいる。

 テーブルの端には、前回使ったラピピのコースターが置かれていた。

 部屋の隅には段ボールが何箱も積まれ、開けかけの箱からはぬいぐるみの耳が出ている。


「えへへ〜、やっぱりこの限定アクスタのラピピ、ニヤッてしてる笑顔がたまらないよね〜。こっちの棚に飾って……と」


 先生は棚の前に膝をつき、買ってきたアクリルスタンドを箱から出した。

 私はすぐに視線を段ボールへ戻した。


「こっちの段ボールの山はなんですか?」

「あ、あはは……。えっとね、最近スマホでできるクレーンゲームのアプリにハマっちゃってて……。その、送られてきた景品なの」

「なるほど。オンラインのクレーンゲームですか」

「うぅ……もう二十三にもなって、こんな子供っぽい趣味だなんて呆れちゃうよね。先生、ほんとダメな大人だぁ……」

「別にいいと思いますよ。クレーンゲーム、面白いですし。熱中してついやりすぎちゃう気持ち、わかります」


 先生の手が止まる。

 私はその箱の横にしゃがみ、開けかけのぬいぐるみをそっと中へ戻す。


「佐倉さんは優しいね。よーし、じゃあ先生、美味しいお茶淹れてくるね! ちょっと待ってて……あっ!?」

「え、先生!?」


 先生が立ち上がった瞬間、足が段ボールの角に引っかかった。

 箱がずれて、棚の前に置かれていたクッションが倒れる。先生は棚のグッズをかばおうとして、体勢を崩した。

 私は反射的に手を伸ばす。

 けれど受け止めきれず、背中からベッドに倒れた。

 先生の体が、その上に重なる。

 息を吸う前に、唇が触れた。


「〜〜〜〜〜〜〜っ!」


 ほんの一瞬だった。

 唇はすぐ離れた。

 事故だ。そう言い切れる。

 先生の手はベッドの上につき、私を押し倒した体制になっていた。

 けれど、先生の顔が目の前にあって、私の上で固まっている。


「先生今の……」

「ご、ごめんね佐倉さん! いまどくから!」


 先生が慌てて起き上がろうとする。

 私は、先生の背中へ腕を回した。

 先生の髪が、私の頬に触れる。

 ここで離したら、先生は謝って、この出来事を無かったことにする。


「……ダメです」

「え……?」

「私、このままがいいです」

「さ、佐倉さん……? せ、先生、重いよ……?」


 先生は動けないまま、私を見ていた。

 私は、先生をベッドに引き留めたまま、名前を呼ぶ。


「終先生(ついせんせい)」

「ひゃっ……んっ……!?」


 私は先生の背中に腕を回し、ベッドへ引き留めた。

 驚いて声を出した先生の唇を、今度は私から塞ぐ。

 さっきの事故じゃない。

 私の意思でするキスだった。

 先生の体から力が抜ける。けれど、私を押しはしなかった。

 唇を離すと、先生は目を開けたまま、何も言わない。


「前に、私が先生の彼女になりたいぐらいって言ったの、本当なんですよ?」

「え、ええぇっ!? そ、それって……で、でも私たち、先生と生徒で、それに女同士……っ」


 顧問と部員が、こんなことをしていいはずがない。

 それを分かっていて、私は先生の部屋にいる。


「返事は今じゃなくていいです」


 先生が何か言いかける。

 私はそれを聞く前に、体を起こした。


「でも、私が先生が好きっていうこと、覚えておいてくださいね」


 先生からは、いつもの「先生だから」が、出てこなかった。


「じゃあ、今日はそろそろ帰ります」

「え、でもお茶…」

「これ以上長居したら、先生を困らせちゃいそうですから。今日はありがとうございました。お邪魔しました」


 私は立ち上がり、棚の前に落ちていたラピピの袋を拾ってテーブルに置いた。

 玄関へ向かう途中、段ボールの角を避ける。

 先生も立ち上がったけれど、私を止める言葉は出てこなかった。

 靴を履いて、ドアの前で振り返る。


「えっと、じゃあまた学園で……」

「う、うん。また月曜日……」


 私は、どうすればいいのかわからない顔をしている先生を後にして、玄関を出た。

 玄関の鍵が閉まる音を、私は階段の途中で聞いた。

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