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13-1

<注意>第37回小説すばる新人賞 落選作品 を改稿したものです

 タロウくんはくーちゃんと並んで、旧庭神橋に立ちました。ここまで来ておいて、いまさら「やっぱりやめた」とは、タロウくんでも言えません。精いっぱい、心からやるつもりじゃないと言うようにため息をついてから、両手を胸の前で組みました。



「光よ、ヒバリのペンダントの行方を示せ」



 タロウくんが唱えると、ふたりの前に光の球が現れます。同時に、口の中に空気が入ってくるのを感じました。まったく意識していなかったので気づきませんでしたが、力を一回使うと、天使は地上の空気が必要になるみたいです。



 光の球は、かつてのペンダントの軌跡をたどるように、人間の首の高さで漂ったかと思うと、ふいに、ふわふわっと宙に浮かんでいきました——くーちゃんが起こしたつむじ風を再現しています——光の球は、しばし糸遊のように飛んで、弓なりに、庭神川のほうに落ちていきます。暗い川の中を、光の球は流れに弄ばれるように、川下へと流れていきます。光の球は止まりません。



「やっぱり馬鹿だ、おまえ」

 光の球を見ながら、タロウくんは嘲るように言います。

「ペンダントの行方じゃなくて、ペンダントそのものを持ってきてくれってお願いすればよかったのに」



 天使の力があれば、竜を生み出したり風を操ったり、地上にはない現象を起こせます。祈るだけで効果があるのですから、水なり岩なりを操って、地上のどこかにあるペンダントを持ってくることだってできるに決まっています。大事な一回だけのお願いを、ただ行方を追うだけに使ってしまうなんて……



「いいの」

 と、くーちゃんは、タロウくんの嘲りを跳ね返します。

「あんたに拾ってもらおうなんて、はじめから考えてない」



 そう言う間にも、光の球はどんどん流れていきます。あのまま止まらなければ、海まで行ってしまうかもしれません。くーちゃんは海の深さを知らないのでしょうか。



「あの調子だと、海まで行くぞ」

「そう。でも、行方さえ分かれば、あたしでも拾える」

「場所によったら、何十メートルもあるぞ」

「潜ればいい」

「天使の力もないのにか」

「そうよ」



 くーちゃんの目は、じっと、光の球を追っています。



「海に沈んだなら、潜り方を覚えればいいだけ。あたしが拾わなきゃ、意味ないの」



 と、くーちゃんは言葉を止め、欄干に身を乗り出します。

 タロウくんはつられて、くーちゃんの見ているほうに目を向けます。



 光の球が止まっていました。

 ちょうど、川下にある新庭神橋の柱の根元にひっかかっているようです。



「持ってて!」



 くーちゃんはマフラーと手袋をタロウくんに押しつけ、駆け出します。町中の小道から、川原へと続く階段を下り、家灯りに照らされながら、川下へと走ります。



 タロウくんはくーちゃんの後を追い、川原に立ちます。

 そのときにはもう、くーちゃんは腰から下を川に浸けていて、「冷たい」「寒い」とぼやきながら、流されないように、川の根元に向けて歩いていました。川底に足がつかなくなると、下手なりに泳いで、柱にぴったりと身体を寄せます。そして、大きく息を吸って、潜りました——時間にして、三十秒と経っていません——タロウくんには、くーちゃんの姿が見えなくなって、一分も二分も経ったように感じました。



「あった!」



 くーちゃんが水面から顔を出し、右手を突き上げています。その手の中に、ペンダントが握られています。光の球がまだペンダントを追っているせいで、くーちゃんの手が光っているように見えます。



 知らず、タロウくんは息をつきます。

 あのまま死なれたら寝覚めが悪いですから。


閲覧ありがとうございます!

次回もよろしくお願いしますm(__)m

内容が気に入れば、どうぞ、SNS等で広めてください。


*順次投稿していきます。

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