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<注意>第37回小説すばる新人賞 落選作品 を改稿したものです
パチンッ
パチンッ
グッ、グッ
げほっ、と、くーちゃんはおなかにあった水を吐き出しました。全身が氷になったみたいに固まっています。ひとつ息をするたびに、ひゅー、ひゅー、と、か細い風ばかりが出てきます。ぼんやり開けた視界には、散れぢれの曇り空があって、雲の隙間から、夕暮れ色が透けています。
ふと、背中に砂利の硬さを感じました。川底? と思いましたが、それにしては冬の冷気が吹いているようです。くーちゃんは川原に引きずり上げられていました。
「なにやってんだ、バカ!」
男の子の声。セナの幻聴かと思いました。が、声の方に視線を向けて、細く目を見開きます。半そでの男の子——『最強!』と書いてある——あの、いじめっ子のダイチです。
「なに、あんた」
「しゃべるな。いま、他のやつが大人呼んでくるから」
「あたしのこと、いじめるの?」
ダイチは心底あきれたような顔をして、
「おまえ、なに考えてんだ」
と、疲れたようなため息をつきます。そこでやっと、くーちゃんは、ダイチの服もズボンもずぶ濡れになっているのに気づきました。彼のそばにはランドセルが放られています。ランドセルの蓋が雑に開いて、中身が飛び散っています。
くーちゃんは力なくまばたきます。
「……助けてくれたの?」
「見りゃわかるだろ」
「……なんで?」
「しゃべるなって」
「なんで?」
ダイチは、セナの持ち物を大切に扱わない、いじめっ子のなかのいじめっ子です。そういうやつは変わらない、きっとまた同じようにセナをいじめるに違いない。誘拐犯と同じくらい、もしかしたらそれ以上に、いじめっ子とは愚かな存在……だと、くーちゃんは確信していました。
そのダイチが、なぜ、おぼれたくーちゃんを助けたのでしょう。
ぼんやりとした視界の中、ダイチは観念したように答えてくれました。
「川に落ちたやつは、助けるのがふつうだろ」
「いじめっ子でしょ、あんた」
「いまは、違う」
「でも、セナをいじめてた」
「だからなんだよ」
ダイチは面倒くさくなったように、どかっと腰を下ろします。
「だからって、助けない理由にはならないだろ」
くーちゃんには、やっぱりわかりませんでした。
ダイチはもう、愚かな人間ではないのでしょうか。どんなことをしたって、ダイチがいじめっ子だった事実は変わりません。いじめっ子はやはり愚かなはず……
ですが、くーちゃんは——セナや、ソラや、ヒバリのときもそうだったように——ダイチを愚かな人間とは、思えなくなっていました。
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