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<注意>第37回小説すばる新人賞 落選作品 を改稿したものです
翌朝。
くーちゃんは暗い部屋にこもっていました。
昨日の雨はすっかり上がり、切れ切れの雲間から青空がのぞいています。雨上がりの日差しが程よく差していましたが、くーちゃんはカーテンを開けられません——光の下に出たくない——白い光に照らされたが最後、くーちゃんの内にある黒いものを、そこらじゅうの人間に明かされるんじゃないか。そう思うと、動けませんでした。
頭の奥がぼうっとします。熱っぽいのに、全身は冷えきっています。
昨夜、ゲストハウスに帰ってから、ヒバリと顔を合わせるのが怖くて、お風呂にも入らず、逃げるように自室に飛び込みました。
怖い?
ヒバリが?
どうして?
時間の進みが、ひどく遅い。
時計は朝の八時を差しています……扉の向こうから、「お世話になりました」と、昨夜利用した家族客が出ていく声が聞こえます。一度布団にもぐり、また時計を見ると、八時半でした……「いってらっしゃい」と、祖父江さんがナルちゃんとタロウくんを見送る声がしました。八時四十五分……
「いってきます」と、ヒバリの声。
くーちゃんの肩が跳ねます。その声は扉に邪魔されて霞む程度にしか聞こえないのに、心臓をえぐるような鋭さがあります。
祖父江さんが言います。
「いってらっしゃい」
「……あの、くーちゃんは?」
まだ寝てるの、と、祖父江さんが応じたのを聞かず、くーちゃんは両耳をふさぎます。
くーちゃんは?
くーちゃんは、なに?
ヒバリはなんて続けたの?
くーちゃんの耳にヒバリの声が響きます——もしかしてくーちゃんは——それは幻の声ですが、たしかにヒバリの声をしていました。
『もしかして、くーちゃんが、わたしの人生をめちゃくちゃにした張本人ですか?』
それに続くように、今度は、セナとソラの声も聞こえます。
『くーちゃんが、ぼくの視力を奪ったの?』
『わたしがセナに責任を感じてたのは、あんたのせいなの?』
三人の声が木霊します。
『くーちゃんは人間じゃないの?』
『人間じゃなくて天使なの?』
『天使だから自然にはないことができて、その力でいたずらしてきたの?』
——じゃあ、わたし(ぼく)(わたし)たちだけじゃないよね?
くーちゃんは布団で頭を隠します。
(あの三人だけじゃない)
ひとりひとりの顔は覚えていませんが、くーちゃんがいたずらしたのは、あの三人だけではありません。どこかの会社員の頭に雨を降らせたことがあります。どこぞの教師のかつらを剥がしたこともあるし、老婆をどぶに引っかけたこともあります。他にも、たくさんのいたずらをしてきました。くーちゃんはそのたびに、天界の湖から、人間の醜態を見下し、笑っていました。
その影響が、たった三人で済むはずがありません。
ゲストハウスの利用者にいたずらをするのとは、規模が違います。ゲストハウスの利用者は、予約を取り消したり、感想ページに文句を連ねたりすることで、くーちゃんに報復できました。
ですが、どこにあるとも知れない天界から下されたいたずらに対して、人間はどうすることもできません。それが人知を超えた力だなんて、誰が想像するでしょう。
くーちゃんは震えました。ずぶ濡れのまま、暖房もつけていないとなると、部屋の寒さもひとしおです。それ以上に、お腹の底から突き上げてくるような震えがして、両手に力が入りません。
罪悪感。
あまたの人間の人生を狂わせ、くーちゃん自身にその罪を洗う術がない、取り返しのつかない過ちです。
くーちゃんは期待をこめて、三人分の幻影から目を盗むように、布団から顔を出します。
時計は、八時五十分を過ぎたばかりでした。
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