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8-1

<注意>第37回小説すばる新人賞 落選作品 を改稿したものです

 翌朝。

 くーちゃんは暗い部屋にこもっていました。



 昨日の雨はすっかり上がり、切れ切れの雲間から青空がのぞいています。雨上がりの日差しが程よく差していましたが、くーちゃんはカーテンを開けられません——光の下に出たくない——白い光に照らされたが最後、くーちゃんの内にある黒いものを、そこらじゅうの人間に明かされるんじゃないか。そう思うと、動けませんでした。



 頭の奥がぼうっとします。熱っぽいのに、全身は冷えきっています。

 昨夜、ゲストハウスに帰ってから、ヒバリと顔を合わせるのが怖くて、お風呂にも入らず、逃げるように自室に飛び込みました。



 怖い?

 ヒバリが?

 どうして?



 時間の進みが、ひどく遅い。

 時計は朝の八時を差しています……扉の向こうから、「お世話になりました」と、昨夜利用した家族客が出ていく声が聞こえます。一度布団にもぐり、また時計を見ると、八時半でした……「いってらっしゃい」と、祖父江さんがナルちゃんとタロウくんを見送る声がしました。八時四十五分……



「いってきます」と、ヒバリの声。



 くーちゃんの肩が跳ねます。その声は扉に邪魔されて霞む程度にしか聞こえないのに、心臓をえぐるような鋭さがあります。



 祖父江さんが言います。



「いってらっしゃい」

「……あの、くーちゃんは?」



 まだ寝てるの、と、祖父江さんが応じたのを聞かず、くーちゃんは両耳をふさぎます。



 くーちゃんは?

 くーちゃんは、なに?

 ヒバリはなんて続けたの?



 くーちゃんの耳にヒバリの声が響きます——もしかしてくーちゃんは——それは幻の声ですが、たしかにヒバリの声をしていました。



『もしかして、くーちゃんが、わたしの人生をめちゃくちゃにした張本人ですか?』



 それに続くように、今度は、セナとソラの声も聞こえます。



『くーちゃんが、ぼくの視力を奪ったの?』

『わたしがセナに責任を感じてたのは、あんたのせいなの?』



 三人の声が木霊します。



『くーちゃんは人間じゃないの?』

『人間じゃなくて天使なの?』

『天使だから自然にはないことができて、その力でいたずらしてきたの?』



 ——じゃあ、わたし(ぼく)(わたし)たちだけじゃないよね?



 くーちゃんは布団で頭を隠します。



(あの三人だけじゃない)



 ひとりひとりの顔は覚えていませんが、くーちゃんがいたずらしたのは、あの三人だけではありません。どこかの会社員の頭に雨を降らせたことがあります。どこぞの教師のかつらを剥がしたこともあるし、老婆をどぶに引っかけたこともあります。他にも、たくさんのいたずらをしてきました。くーちゃんはそのたびに、天界の湖から、人間の醜態を見下し、笑っていました。



 その影響が、たった三人で済むはずがありません。

 ゲストハウスの利用者にいたずらをするのとは、規模が違います。ゲストハウスの利用者は、予約を取り消したり、感想ページに文句を連ねたりすることで、くーちゃんに報復できました。

 ですが、どこにあるとも知れない天界から下されたいたずらに対して、人間はどうすることもできません。それが人知を超えた力だなんて、誰が想像するでしょう。



 くーちゃんは震えました。ずぶ濡れのまま、暖房もつけていないとなると、部屋の寒さもひとしおです。それ以上に、お腹の底から突き上げてくるような震えがして、両手に力が入りません。



 罪悪感。



 あまたの人間の人生を狂わせ、くーちゃん自身にその罪を洗う術がない、取り返しのつかない過ちです。



 くーちゃんは期待をこめて、三人分の幻影から目を盗むように、布団から顔を出します。

 時計は、八時五十分を過ぎたばかりでした。

閲覧ありがとうございます!

次回もよろしくお願いしますm(__)m

内容が気に入れば、どうぞ、SNS等で広めてください。


*順次投稿していきます。

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