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<注意>第37回小説すばる新人賞 落選作品 を改稿したものです
翌日、日曜日の夕方。
予約していた家族客がやってきます。
大人ふたりは、くーちゃんに出迎えられ、驚いたようすでまばたきます——くーちゃんを見た大人は毎度似た反応をします——後ろにヒバリが控えているのを見ると、お手伝いの子どもだろうと判断したようです。
双子の兄弟は、自分と同じ子どもが接客をしているのを、興味深そうに見つめています。
くーちゃんは取り合わず、「ご案内します」と、家族を大部屋に案内しました。
接客に慣れたおかげでしょう、くーちゃんはさして嫌悪感もなく(ぶっきらぼうな感じは抜けていませんが)、ゲストハウスの使い方を説明し、「どうぞごゆっくり」までをきちんと言い終えてから、大部屋の扉を閉めました。
ふと声が聞こえます。
「雨が降る前に着いてよかった」
くーちゃんはガラス戸から空を見上げます。一面に広がる雨雲は、夜が近づくにつれて、どんどん黒ずんでいきます。ぽつ、ぽつ、と、小粒の雨が降り始め、かすり傷のような水滴が、ガラス戸を伝っています。
あっという間に本降りに変わります。風もかなり強く、雨粒が屋根瓦や中庭に雨がぶつかり、ばちばちと弾けるような音が響いています。
「いってきます」
ありえない声が聞こえた気がして、くーちゃんは慌てて玄関に向かいます。ちょうど玄関の扉が閉まったところです。
追いかけたい、でも、まだお客様がいます。
手をこまねいていると、また玄関が開いて、タロウくんが帰ってきました。
「ちょうどよかった」
タロウくんが「なにが?」と言うような顔をします。
「大部屋に客がいるの。なにかあったら対応して」
「おまえが任された仕事だろ」
「同じように仕事を任されたやつが出てったから、問い詰めてくる」
タロウくんが文句を言う前に、くーちゃんは靴のかかとをつぶして、タロウくんの脇を駆け抜けました。
街灯を頼りに、坂道を駆け下ります。冷たい雨が髪も服も濡らして、じっとりと重くなっていきます。いまさら傘を取ってくるのも面倒で、くーちゃんは濡れながら、旧庭神橋に向かいました。
ヒバリはビニール傘を差して、橋の真ん中に立っていました。
今日は月が見えません。
暗い川面に映る町明かりは、雨粒の波紋が重なって、奇妙な形に揺らいでいます。
くーちゃんがヒバリを見上げます。
「なにが、あんたを、そこまでさせるの?」
ヒバリが驚いた顔をします。こんな雨の日までついてくるとは思っていなかったようです。「濡れますよ」と、くーちゃんの頭上に傘を差します。
「傘なんていいから、答えなさい」
ヒバリは、くーちゃんを気遣うような声で、「帰りましょう」と言います。それが作られた気遣いだと、くーちゃんにはわかりました。
「濡れた体を拭かないと。風邪を引いてしまいます」
「罪とかなんとか、あんな意味深なことを話しておいて、いまさらはぐらかすの?」
「……仕方のない話です。帰りましょう」
ヒバリの手が背中に当てられるのを、くーちゃんは身をよじってかわします。
雨に打たれてなお、くーちゃんは動きません。
ヒバリは観念したように、くーちゃんのそばに屈みます。
「楽しい話じゃ、ありませんからね」
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