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<注意>第37回小説すばる新人賞 落選作品 を改稿したものです

 誘拐犯とワゴン車が消えた直後。


 くーちゃんはやりきったような顔をしたり、やってしまったというような顔をしたり、忙しそうにしています。が、セナとソラがいるのに気づいて、「帰るわよ」と、セナが持っていた懐中電灯をひったくり、さっさと山を下っていきました。


 セナは、ソラの手足を解放して、また「重い」と言いつつ、ソラを背負います。


「……ひとりで歩ける」

「強がらなくていいよ」

「……うん」

「怖かったでしょ」

「……うん」


 ソラはセナの首元に顔を埋めて、しゃっくりを上げました。


「ごめん」

 セナはうつむいて、

「ぼくがしっかりしてたら、ソラは怖い思いしなかったのに」


「セナは悪くない」

 悪いのは、わたし……

「今日だって、わたしが悪いの。おとうさんに怒られて、家から出るなって言われてたのに。セナは、きっと、断らないって、わかってて、誘ったの」


 ソラはしゃっくりをあげつつ、


「ゲストハウスの悪口を書いた。それで怒られて、むきになって……わたし、セナのこと、取られたくなくて、馬鹿なことして」


「ソラは馬鹿じゃないよ」


「馬鹿だよ。幼稚園のころだって、そうだった。あんな大雨の日に、セナを遊びに誘わなかったら、セナ、雷に打たれなくてよかったのに……そうしたら、目が悪くならなくて、眼鏡もかけなくて、からかわれなくて、よかったのに」


「なんとも思ってないよ」


 ソラはあふれる涙を我慢できなくて、もうしゃべれませんでした。


 代わりに、今度はセナが話しました。


「ぼく、うれしかったんだ」


 ひとりぼっちのセナを、ソラは誘ってくれました。いじめられていても、ただひとりの味方でいてくれました。たったそれだけのことで、セナには十分だったのです。


「それに、視力が悪くて、よかったって思うこともあるんだ」


 くーちゃんは、目が見えなければ汚いものも見なくていい、と言ってくれました。セナを前向きにしてくれたのは、くーちゃんの言葉ですが、セナは自分なりの考えを、ソラに話しました。


「目が見えづらいから、嫌なものを見なくてもいい、って言われたけど、ぼく、そうじゃないって思う。目が見えにくいから、もっといろんなものを見たいって思えるようになった。もしぼくが、ふつうの目を持っていたら、そんなこと、考えもしなかった」


 セナは休憩するつもりで立ち止まって、ソラを降ろします。


「だから、ぼく、目は悪いけど、自分の目を悪く思わない」

「どうして?」

「だって、ソラの顔を、もっと見たいって思えるようになったから」


 ソラは勢いよくうつむいて、セナの向こう脛を軽く蹴とばしました。「もう歩けるから」と、ひとりさっさと、くーちゃんの後を追います。


(ほんとう、そういうこと言うの、やめてほしい)


 セナのことが、もっと好きになりそうでした。


閲覧ありがとうございます!

次回もよろしくお願いしますm(__)m

内容が気に入れば、ぜひ、SNS等で広めてください。


*順次投稿していきます。

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