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<注意>第37回小説すばる新人賞 落選作品 を改稿したものです
日曜日。
くーちゃんがリビングに向かうと、ナルちゃんとヒバリが話しているところに出くわしました。ふたりともこれから仕事のようです。ナルちゃんは小さなポーチの中身をチェックしています。ヒバリはいつぞやのように、もやし炒めを食べています。
「人間の社会だと、日曜日は休みなんじゃないの」
「そういう仕事もあれば、そうじゃない仕事もあるの」
ナルちゃんがため息をつきます。
「悲しいことに、地上のお勤めはわたしの気分なんて毛ほども気にしてないの。ほんとは、毎日休みで、休んでるだけでお金が舞い込んでくるのが、一番楽なんだけどねえ……ヒバリもそう思うでしょ?」
ヒバリはもやしを飲み込んで、
「わたしは、毎日でも働きたいです。働きたいというか、働かざるを得ないというか……お金が必要なので」
バイト戦士だ、と、ナルちゃんは声を震わせて、目元をぬぐうような仕草をしました。これっぽっちも涙が出ていません。
くーちゃんは気になって、ヒバリにたずねます。
「あんた、家族いないの?」
「いるには、います」ヒバリは歯切れ悪く答えます。
「仕送りは頼めないの?」
「頼めません」
「家賃、払いきれてないでしょ。いっそ、家に帰ればいいに」
「それもできません」
ヒバリは、無理やり折り合いをつけたような、ため息交じりの声で、
「勘当されていますから」
ヒバリはそれきり黙って、もやしをもそもそ食べます。ヤギが芝生を食んでいるようすが思い浮かびますが、あのようすなら、ヤギのほうがまだおいしそうに食べているのではないでしょうか。ヒバリにどんな過去があるのか、続きを聞きたい気もしますが、真剣にもやしを食べているヒバリの邪魔はできません。
ナルちゃんが言います。
「くーちゃんはいいなあ。ここで拭き掃除さえしてれば、それでいいんだもん」
「なら代わって」
「そうしたいのはやまやまだけど、そんなことしたら、祖父江さんに追い出されちゃう」
そのとき、ゲストハウスの電話が鳴りました。リビングの誰も動きません。
「くーちゃん、出ないの?」
「電話の出方、教わってない」
と言っている間に、庭の方から「誰かお願いします」と、祖父江さんが言います。
ナルちゃんが重い腰を持ち上げて、玄関に向かいます。遠巻きに声がします——もしもし、ゲストハウス星山です。はい、ええ、ああ、キミかあ。誰かと思ったよ——ナルちゃんがリビングに戻ってきます。
ナルちゃんは奇妙なにやけ顔で、
「くーちゃん、おいでー」
と手招きします。
「なに?」
「ボーイフレンドから電話」
ぼーいふれんど、が何かさっぱりですが、くーちゃんが電話に出なければならないようです。くーちゃんは玄関に向かい、受話器を取ります。
『もしもし……』
ざらざらとした音ですが、聞き覚えのある声です。
「もしかして、セナ?」
『うん。おはよう』
「なにか用?」
『えっと……』
絶妙に長い間をあけて、毛糸が宙に漂うようなか細い声で、
『今日、遊びに行ってもいい?』
そういえば、前にそんな約束をした気がします。
日曜日の今日、(団体客がキャンセルしたため)利用者はありません。となれば、くーちゃんの仕事もないでしょう。それでも一応、祖父江さんに聞いた方がいいと思い、くーちゃんは庭に向かいます。
「今日、セナが来るって言ってるけど」
「セナ?」
庭掃除の手を止めて、祖父江さんが顔を上げます。
「ああ、銀竜料理店の息子さんですね。来る、というのは?」
「遊びに」
「誰と、ですか?」
「たぶん、あたし」
祖父江さんはくるりと目を丸くしました。まるで生まれたての赤ちゃんがいきなり二本足で歩き出したのを見つけたような——そんな顔をしています。
「ぜひ呼んであげてください」
と、なんだかナルちゃんと似たような笑顔を向けてきました。
釈然としませんが、管理人の了解は得ました。くーちゃんは再び受話器に戻って、「いいわよ」とセナに伝えます。
セナはこれでもかというほどうれしそうに、『わかった!』と言います。
『ぼくの友達も行くけど、いい?』
「いいんじゃない」
ひとり来るのを了解したのだから、あと何人増えようと、祖父江さんは了解するでしょう。ということで、その日の正午過ぎに、セナと彼の友達が、ゲストハウスに遊びに来ることになりました。
受話器を置いたのち、リビングに戻ると、ナルちゃんがさっきよりも強いにやけ顔を浮かべていました。一言も発していないのに、心底うっとうしいです。ヒバリはヒバリで、仕事に行くことで頭がいっぱいなのでしょう、黙々ともやし炒めを平らげていました。
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