第三十八話 ニコル vs ギャリング①
王都軍闘技場の使用許可が下り、僕は今闘技場でギャリング殿下と対峙している。
「おいおい、あのギャリング殿下の対戦者はどこのどいつだ?」
「詳しい事情は知らんが、グルジット伯爵家の推薦らしいぞ!」
「あいつ死ぬんじゃねーか? ギャリング殿下はアルシオン王国の英雄と呼ばれちゃいるが、ありゃどう見ても《バケモン》だろ。俺だったら絶対相手したくないね!」
「バカお前それ《不敬罪》で死刑だぞ。もうちょっと言葉を選べ!」
「ははっ、心配するな。どうせ聞こえねーてっ!」
『ギンッ!』
「ひっ、ひえーーー!!」
ギャリング殿下が、騒がしい客席を睨みつけた。
すると、一人の兵士から悲鳴が上がった。
「誰がバケモンだ!」
『ははっ、ギャリング殿下にも聞こえてたんだ』
観客席には大勢の兵士が、隣国の英雄ギャリング殿下の戦いを一目見ようと集まっていた。
「今回の《親善試合》の審判は、三番隊隊長のクラウドが務めさせていただきます!」
「おう!」
「宜しくお願いします」
審判が《親善試合》と言った理由は、ソフィア婦人が使者にそう指示したからである。
同盟国の王太子殿下と自国の者が《決闘》となれば、理由を追求され王国が介入し止められるだろうからだ。
僕としてはその方が良かったが、ソフィア婦人とユミナは《決闘》で僕が勝つ事を望んでいるようだ。
「それでは改めて試合のルールを確認させていただきます!」
「はい」
「手短にしろ!」
「ではその様に。今装備している武具の他、魔法・スキル・アイテムの使用を有りとします。但し、相手の殺害は禁止です。勝利条件は相手を戦闘不能、もしくは戦意喪失にさせた方を勝ちとします。以上が事前にお聞きしたルールです。大変危険な様に感じますが、本当にこの条件でよろしいですか?」
審判が心配そうな視線を僕に向ける。
「ああ、問題無い! ニコルも良いな?!」
「ええ、まあ」
「そうですか分かりました。ギャリング殿下陣営から大変貴重な《エリクサー》と《回復薬》を各種預かってますので、私が必要と判断したら試合を止め、遠慮なく使用させていただきます!」
「おう、自由に使え!」
「はい。それではお二人共準備はよろしいですか?!」
「いいぞ!」
「はい」
「では、剣を構えて!」
『『スッ!』』
僕とギャリング殿下の視線が合い、互いに剣をかまえる。
「始めっ!!」
「行くぜ、ニコルッ!」
『ダッ!!』
始めの合図と共に、ギャリング殿下が五メートルはある間合いを一気に詰める。
『ザシュッ!』
『ガキーーーン!!』
「余裕で受けるか。やはり只者じゃねーな。普通の奴なら今の一撃でぶっ飛んでるぜっ!」
ギャリング殿下の振るう身長をも超える長さの大剣を受けてみた。
思っていた以上に重い。
その剣の材質は、超硬度に加え超重量の《アダマンタイト製》だった。
非力な人間では、ただ持ち上げるのも難しい。
だがギャリング殿下は、それを軽々と振るった。
ちなみに僕は《ヒヒイロカネ製》の剣を使っている。
アダマンタイトに硬度では劣るものの、重量は軽く扱いやすい。
「でも、まだ本気じゃないですよね?」
「あたりめーだ。貴様に死んでもらっちゃあ困るからなっ。実力を測らせてもらうぜっ!」
『ザシュッ!』
『スッ!』
『ザシュッ!』
『スサッ!』
『ザシュッ!』
『スッ!』
『ザシュッ!』
『スサッ!』
『ザシュッ!』
『スササッ!』
今度は最小限の動きでかわした。
斬撃でおこる風圧が、かわす度に僕の髪を乱す。
「大した見切りと動きだ!」
「殿下の剣は重いですからね。避けた方が楽です」
「そうかよっ!」
『ブオンッ!』
『ダッ!』
足元への横薙ぎを、真上へのジャンプでかわす。
「引っ掛かったな」
『ザシュッ!』
ギャリング殿下はすぐさま剣を返し、斜め上に切り上げる。
『ダッ!』
『スカッ!』
それを二段ジャンプでかわす。
「空中で更にジャンプだとっ!」
『シュッ!』
『ガキーーーン!!』
僕が剣を振り下ろすと、ギャリング殿下は咄嗟に剣で受けた。
「ぬおーーーっ!」
そして力で僕の斬撃を押し返す。
『クルッ、スタッ!』
僕は後方へ一回転し着地する。
『ザシュッ!』
『ギキィーーーッ!!』
着地と同時に僕を斬撃が襲う。
安定しない状態でまともに受けると吹っ飛ばされる為、衝撃を殺しつつ剣で受け流す。
『ブオッ!』
が、ギャリング殿下の攻撃は止まらない。
剣を振るった勢いのまま脇腹へ回し蹴りがくる。
『スッ!』
『スカッ!』
僕は体勢を思い切り低くし、回し蹴りをかわす。
ギャリング殿下の背中が見え、こちらが有利な状況になる。
『ブオッ!』
だが直ぐに、顔面への足刀蹴りがくる。
『タッ!』
『スカッ!』
僕は後ろへ跳んでそれをかわす。
「がーはっはっはっはっ! 剣だけでなく体術への対応も可能ってか。二段ジャンプといい、今のところ全く底が読めねー。このままじゃ拉致があかねーな!」
「・・・・・・?!」
「ふんぬっ!」
気合いと共にギャリング殿下の筋肉量と纏うオーラが変わった。




