危機感を持つのは大事ですよ
夜、私達はいつも通り宿屋の食堂にて料理が運ばれてくるのを待っていた。
その間に目の前に座るアリア様をそっと観察してみる。
ギルドで手続きを済ませてここに来るまでの間、アリア様はずっと不機嫌そうに口をへの字に曲げていた。
現在もそれは変わらないが、今は不機嫌というよりも申し訳なさそうな雰囲気が漂っているように感じる。
「アリア様。機嫌は直りましたか?」
「………悪かったわね。あなたに全部やらせてしまって。」
バツが悪そうに答えるアリア様に微笑む。
よかった。ひとまず怒りは収まったみたいだ。
「ふふっ。気にしないでください。それよりも、アリア様があれほど不機嫌になるのは久しぶりですね。」
「…何故か分からないけど、無性にイラついたのよ。黒髪の方はまだいいわ。でも、茶髪の方は今でも気に食わない。」
「あはは…。シャロンさんはアリア様と歳が近そうですし、もしかしたら仲良くできるかもと思ったのですが…。」
「絶対に嫌よ。ありえないわ。」
アリア様に初めての友人ができるかもしれないという微かな期待をバッサリと切り捨てられ、ついつい苦笑してしまう。
「お待たせしましたー!お料理をお持ちしました!!」
微妙な空気が流れる中、明るく元気な声と共にテーブルに料理が運ばれてきた。
「ありがとう、アーニャ。さっきまで店にいなかったようだけど、いつの間にか帰ってたんだね。」
「はい!アーニャはおつかいに行っていたのです!人と話してたら遅くなってしまって、お母さんに怒られました!!」
えへへと笑うアーニャは、怒られたというわりには随分ケロッとしている。
良い子ではあるが、案外じゃじゃ馬な部分もあるようだ。
「そっか。話していたのは前に言ってた花屋の店員さんとかな?」
「違いますよ!今日は道で会ったお兄さんとお話してました!」
「…アーニャ、それは知らない人なんだよね?すぐに他人を信用するのは危ないよ。」
「大丈夫です!顔に大きな傷跡があってちょっと怖いですけど、お兄さんはとってもいい人でしたから!」
アーニャはにっこり笑うと、直後に他の客に呼ばれてその場から立ち去ってしまった。
これには女主人も苦労していそうだなぁとその後ろ姿をぼんやり眺める。
「セレナ。料理が冷めるわよ。」
アリア様の声にハッとして前を向くと、既に食事を開始していたアリア様と目が合った。
「申し訳ありません。ボーッとしていました。」
「…愛想が良すぎるのも考え物なのね。」
興味なさげにアリア様が呟く。
アーニャの場合はそれよりも、危機感の無さが問題のような気がするが…。
一抹の不安を抱えながら、私は少しだけ冷たくなった料理を食べ始めた。




