触らぬ神に祟りなしですよ
「…ねえ、ちょっと。いつまでこの場にいるつもりなの?ゴブリンはセレナが全て倒したんだから、さっさとどこかへ行きなさいよ。」
アリア様の不機嫌さを隠そうともしていない尖った声に、思わずゴクリと唾を飲み込む。
怒りが最高潮に達した時のアリア様は、なんというか、そう。かなり面倒くさいのだ。
昔、一度だけアリア様を激怒させてしまったことがあるのだが、機嫌を直すのにとても苦労した。
「!!お姉さん、セレナって名前なの!?魔法が使えるってことはもしかして貴族の人!?」
アリア様の言葉を無視して私に近寄り話しかけてくる茶髪の女性を、アリア様が射抜かんばかりの眼光で睨みつけている。
…頼むから、これ以上アリア様を刺激するのは本当にやめて欲しい。
「シャロン!!あなたは黙っていなさい!!!」
私の切実な願いを聞き入れてくれたのだろうか。
黒髪の女性が一喝し、その後ろ襟を掴んで私から引き離した。
「失礼しました。私の名前はクレアといいます。隣の子はシャロンです。危ないところを助けていただき、本当にありがとうございました。」
黒髪の女性がクレア、不服そうにムッとしている茶髪の女性がシャロンという名前らしい。
見た感じではクレアの年齢は私とそう変わらないだろうに、なにやら苦労していそうな人だ。
「お二人もクドゥカの街を拠点にしている冒険者ですよね?私達も今はそこに滞在しているので、宜しければ今度ご飯をご馳走させてください。」
そう言うと二人は私達に頭を下げ、足早にその場から去っていった。
最後までシャロンはごねていたが、そこはクレアがなんとか説得したようだ。
なんにせよ、クレアが空気の読める女性で本当によかった。
「なによあの子。セレナには馴れ馴れしく話しかけるし私の事は無視するし!…ほんっと最悪だわ。」
「ええと、アリア様。結果的に今日の依頼は達成できたわけですし、私達も早く帰りましょうか。」
「…しかもセレナの名前も勝手に呼んでいたわね。無礼極まりないわ…!」
「……あの、アリア様…聞こえてますか…?」
しかし、既にアリア様の不機嫌度はMAXだ。
私の声も届いていない様子に思わずため息をつく。
仕方なくアリア様はその場に放っておいて、私は倒したゴブリンの右耳と魔石を回収していく。
そういえば、あの二人には偽名ではなく本名を知られてしまったなぁ…。
そのことに気付いて私はまた深くため息をついた。
空は真っ白な厚い雲に覆われていて、今にも雪が降り出してきそうだ。
暖かい宿に思いを馳せながら、私は作業の手を早めた。




