巻き込みですよ
「ちょっ!!前に人がいる!!どうしようクレア!」
「そんなこと言われたって今さら逃げる方向を変えるなんてできないわよ!?」
前方に見えてきたのは大量のゴブリンとそれに追われる二人組の女性だった。
走りながらなにやら言い争っているようだが、彼女らはまっすぐにこちらへと向かってきた。
「そこの人!ごめんね!!なんかよく分からないけど大量のゴブリンに追われてるんだ!!」
「分からないってシャロンがゴブリンを1体逃したからでしょ!?」
「依頼も完了してたし早く帰りたかったんだよッ!!」
こんな状況なのに言い争いをする二人に驚くが、そうしている間にもゴブリンの群れはこちらに接近してきている。
思わず呆然としてしまった頭を切り替えて私は二人に話しかけた。
「えっと。事情は分かりませんが、とりあえず二人とも私の後ろにいてください。私の仲間もそこに隠れているので。」
「!?あの数を一人でなんとかするつもりですか!?」
「クレアッ!とにかく今は言う通りにしておこう!」
二人が木の影に身を潜めたのを確認し、私は迫り来るゴブリンの群れを見据える。
数は20体ほどで一様に酷く興奮しているようだ。
身体強化以外の魔法はあまり得意ではないが、早く終わらせるにはこれが一番いいだろう。
私は手のひらを正面に向けるようにして左腕を前に突き出し、魔力を練り始めた。
「赤く滾る炎よ、眼前の敵を焼き尽くせ──。」
詠唱が終わると同時に左手へ集っていた魔力は瞬く間に炎へと変わり、その炎はゴブリンの群れを1体も逃すことなく包み込んだ。
数秒後、そこに残っていたのは息絶えたゴブリン達の死体だった。
肉の焦げる嫌な臭いに眉を顰めていると、いつの間にかアリア様が近くまで寄ってきていることに気付く。
「あれだけの数を一瞬で倒すなんて、普段どれだけ手を抜いているのよ…。」
驚きと呆れが混じったような表情で呟くアリア様に苦笑いを浮かべ、私は未だ後方で突っ立ったままの二人へ話しかける。
「お二人も冒険者のようですが、一体なぜあのような状況になったのでしょうか?」
「…はっ!すみません、あまりの光景に呆然としてしまいました。…あのゴブリンの群れは、私達が逃してしまった1体が他の仲間を呼んだのだと思います。巻き込んでしまい本当にすみませんでした。」
なるほど。それならあのゴブリンの群れにも納得がいく。
ゴブリンには仲間を殺されて怒るような感情は無いものの、獲物を狩るために集団で行動することは珍しくはない。
50体を超えるゴブリンの群れに襲われ、村が壊滅したという話も聞いたことがあるくらいだ。
そのため、ゴブリンとの戦闘の際は1体も逃さずその場で殺すのが基本なのだが、この二人は恐らく駆け出しなのだろう。
「〜〜ッッ!!クレア!さっきの見た!?私、魔法を見たのは初めてだよ!!」
「馬鹿!!喜んでいる場合じゃないでしょう!!下手したら無関係の人を死なせていたかもしれないのよ!?」
黙り込んだままだった茶髪の女性が突如、瞳をキラキラと輝かせながらテンション高々に話し始めた。
すると、それを窘める黒髪の女性とで再び言い争いが始まり、私との会話はそこで途絶えてしまった。
この状況をどうするか考えていると、ふと横にいるアリア様の肩が小さく震えていることに気が付いた。
……まずいな、これはアリア様が怒る前兆だ。




