様子がおかしいですよ
「アリア様!後ろから来ています!!」
「ッッ!!」
背後から接近していたゴブリンをその場から飛び退くことで躱し、アリア様は再びレイピアを構える。
連戦でさすがに疲れているのか、その呼吸は荒い。
助けに入りたい気持ちをぐっと抑え、引き続き戦闘を見守る。
『グギギッッ!!!』
短く声を上げ、ゴブリンが棍棒を振り回しながらアリア様に襲い掛かる。
素早い動きに翻弄されながらもそれを躱し続け、一瞬の隙をついてアリア様はゴブリンの胸を貫いた。
地面に転がるゴブリンの死体は3体、その中心で立ち尽くしているアリア様のそばに私は近寄った。
「お疲れ様です。初めよりもだいぶ慣れてきましたね。」
「…人間とは違って魔物の動きは読めないから、苦戦してしまったわ。」
「こればかりは慣れるしかありません。今ので8体目ですので、残りは2体ですね。」
最初の3体以外は全てアリア様が倒している。
無理をしなくてもいいと言ったのに、少しでも強くなりたいのだと返されてしまったのだ。
アリア様はホーンラビット程度であれば問題なく倒せるが、それ以上の魔物には苦戦してしまうみたいだ。
剣の訓練だけで実戦経験はないため、それも仕方ないだろう。
でも、そんなに焦って強くなろうとしなくてもいいのに。
「あとは私がやりますので、アリア様は休んでいてください。」
「…そうね。何体も同時に相手をするのは想像以上に疲れたわ。申し訳ないけどお願い。」
「はい。任せてください。」
腰にぶら下げていた革袋を手に取り、ゴブリンの耳を切り取って回収していく。
8匹分の右耳が入った革袋はずっしりと重い。
そこで、ふと気がついた。やけに森の中が静かだ。
先程までは鳥の鳴き声などが聞こえていたのだが、それもない。
「……おかしいですね。静か過ぎます。」
「…?そうかしら…。」
うまく言えないが、なんとなく不気味な空気だ。
「討伐数は足りていませんが、今日はもう森を出ましょうか。」
「あと2体なのよ?その後ではだめなの?」
「良くないことが起きる前触れかもしれません。依頼のひとつは未達成となりますが、それは明日以降にでもまた受ければいいでしょう。」
「せっかく頑張ったのに…。」
残念そうにするアリア様を見て戸惑う。
少しでも異常を感じた時はすぐに退散するのが正解なのだが。
どうしようか迷っていると、ふと遠くから大量の足音が近付いてきていることに気付いた。
しまった。考え込んでいたせいで音に気付くのが遅れてしまった。
この場から逃げ出そうにも、疲労が溜まっているアリア様は森の入り口まで走る体力はないだろう。
「!?なんの音…?だんだん近付いてきてる…!」
「…アリア様は私の後ろに。少し離れた場所にいてください。」
不安そうにしながらも、アリア様は指示通りに私の背後の木の影に隠れた。
それを確認し、先程よりも近くなった音の方向へと剣を構える。
未だ目視できない距離にいる足音の正体は分からないが、私がアリア様を守らなければ。
柄を握る手に力を込め、私は迫り来るなにかをじっと睨みつけた。




