ゴブリンですよ
ひんやりとした冷気に肺が縮み上がり、思わず外套を両手で強く押さえる。
雪は降っていないものの、この寒さでは今日中にでも降り出してきそうだ。
後ろを歩くアリア様も寒さに身を震わせていて、見ているこちらが可哀想に思えてしまう。
「最近は暖かい日が続いていたのに、なんで急に寒くなるのよ…。」
「昨日までは快晴でしたからね。冬の天気は変わりやすいものなんですよ。」
さすがにこの寒さで外に出ようとする者は少ないのか、前に来た時よりも森にいる冒険者の姿は少ない。
私達も今日は依頼を完了したらすぐに帰るのがいいだろう。
「依頼内容はゴブリン5体の討伐だから、二人で合計10体倒さないといけないのよね。さっさと倒して終わらせましょう。」
「早く帰りたい気持ちは分かりますが、ちゃんと緊張感は持ってくださいね。何が起こるか分かりませんから。」
「…分かってるわよ。油断はしないわ。」
ムスッとしつつもアリア様が素直に返事をしたことを確認し、再び目の前へと意識を向ける。
既に先日よりも森の深い場所へと来ている。
ギルドからの情報によると、この辺りでゴブリンの目撃情報が多いらしい。
この森に生えている木は冬でも落葉しないため、ただでさえ陰っている太陽の光を更に遮り、何処と無く不気味な雰囲気だ。
「……止まってください。」
しばらく歩き続けていると、前方に気配を感じて進む足を止める。
そこに意識を集中させると、伝わってくるのは人間ではない何者かの嫌な気配。
「…魔物です。恐らくはゴブリンでしょう。」
「本当に凄いわね…それ。」
私のすぐ後ろで立ち止まるアリア様に振り返り、そっと呟く。
「いいですか?最初の戦闘は私がやりますので、アリア様は後ろで見ていてください。くれぐれも戦いに混じろうとはしないでくださいね。」
「朝から同じ台詞を何回も聞いているわ。そんなに言われなくても大人しくしているわよ。」
アリア様が呆れた顔で私を見ているが、重要なことなのだ。
初見でその魔物と戦うよりも、実際に魔物が戦う姿を見ておいた方が戦闘時に柔軟に動くことが出来る。
アリア様に怪我をさせる気は毛頭ないが、少しでもその可能性は低くしておきたい。
「では、敵に近付きます。アリア様は少し離れた位置から着いてきてください。」
鞘から剣を引き抜き、再び歩を進める。
少し進んだ場所から目の前に見えたのは、予想通り今回の討伐対象であるゴブリンの姿だった。
数は3体、武器はバラバラで、棍棒、ナイフ、石をそれぞれ持っている。
ナイフは冒険者から奪ったのだろう。
手入れがされていない刀身は離れていても分かるほどにボロボロだ。
アリア様が木の影に身を潜めたのを確認して、私はゴブリンに向かって駆け出した。




