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平民侍女は引きこもり令嬢を更生させたい  作者: いとまる。
ラズティア王国編
30/39

特訓ですよ





「アリア様、本当にやるんですか…?」

「当たり前でしょう。なんのために早起きをしたと思ってるのよ。」


まだ太陽も昇りきっていない早朝の空気は冷たく、肌を刺すような寒さである。

最近は暖かい日が続いていたが、今の季節が真冬であるということを私に再認識させた。

こんな日には率先して布団に閉じこもりそうなアリア様が、なぜこんなにも張り切っているのかというと、剣の特訓のためだ。

鈍った腕を鍛え直したいということで、相手役にと私も連れ出されている。


「しかし…、いくら特訓とはいえアリア様に剣を向けるのは気が引けます。」

「だめよ、本気でやってくれなきゃ困るわ。私の為にも手加減は抜きでやりなさい。」


街の中心から外れた場所にあるこの噴水広場では、今の時間帯の人通りは少なく、お互いローブは身に付けていない。

どうしたものかと考えていると突然、アリア様が黄金色に輝く髪を(なび)かせながら、レイピアを構えてこちらへ斬りかかってきた。


「ッッ!!ちょ!アリア様!?」


慌てて剣を引き抜いて振られた刃を弾き、後ろへ飛び退く。

予想外の出来事に、胸に手をあてなくとも分かるぐらいに私の心臓はバクバクだ。


「今のは本気で斬ろうとしてましたよね!?」

「セレナなら問題無いでしょう?現に今のも弾き返したじゃない。…完全に不意をついたと思ったのに…。」

「狙って不意打ちしたんですかッ…!!」


危険だ。実力を認めてもらえているのは嬉しいが、容赦がまるでない。

セレンディア家の血には戦闘狂の要素でも混じっているのだろうか。

…いや、アリア様は戦闘を好んではいないのでそれはないか。

などと考えているうちに、またアリア様が斬りかかってきている。

これは強制的に特訓に付き合うことになりそうだ…。





結局、道を行き交う人の数が多くなるまで特訓は続き、ようやく宿へ戻った頃にはお互いかなり疲れてしまっていた。


「やっぱり体力が落ちているわね。訓練を受けていた頃よりも疲れやすくなっているわ。」

「いやいや、あれだけ動ければ充分だと思いますよ。結局一度も休むことなく特訓を続けていたではありませんか。」

「セレナだって身体強化を使っていないというのに、最後まで余裕そうだったじゃない。せめてあなたに一撃でも入れられるようになりたいわね。」

「刃引きしていないんですから、一撃でも入れられたら大怪我ですよ…。」


真剣な顔でなにやら考え込んでいるアリア様を見て、私は静かにため息をついた。





お風呂で汗を流し終わった頃にはとっくに太陽は高く昇っていて、一階の食堂からも微かに人の話し声が聞こえてきていた。


「さて。今日の予定はなにもないですが、やりたいことなどはございますか?」

「そうね、今日は部屋でのんびり過ごすことにするわ。」

「……その台詞はアリア様の引きこもり時代にも聞いた覚えがありますね。」

「…なによ。今日は明日に備えて休む日なのでしょう?ちゃんとあなたの言う通りにしているのだから、文句は言わせないわよ。」


そう言い放つとアリア様は颯爽とベッドの中に潜り込み、ものの数分で夢の世界へと旅立った。

…本当に引きこもりだった頃のアリア様に戻ってしまったみたいだ。

まさか休日を丸々寝て過ごすつもり、なんてことはさすがに無い…と思いたい。



しかし、その悪い予感は見事的中し、結局アリア様が目を覚ましたのは夜がすっかり更けた頃であった。


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