06 入り直す
06 入り直す
三田先生に会いに行くと、職員室へ入る前に見つかった。
「おう。どうした」
十三年たって、先生の髪には白いものが増えていた。
「学校へ、入り直したいんです」
先生は俺の顔を見たあとで、空いている椅子を引いた。
「座れ。今、どこまで考えとる」
責めることも、遅いと言うこともなかった。
以前の単位を確認し、受け入れ先を調べ、先生は何度も電話をかけてくれた。俺は半年働きながら勉強し、翌春、改めて工業高校へ通い始めた。
同じ教室に座る生徒たちとは、一回り以上年が離れていた。
「何て呼んだらええですか」
最初の実習で、隣の生徒が遠慮がちに聞いた。
「呼び捨てでも何でもええよ。同級生やろ」
「いや、それはちょっと無理です」
その生徒が笑ったので、俺も笑えた。
わからないことをわからないと言っても、誰も馬鹿にしなかった。
電子制御の説明でつまずくと、若い同級生が教科書を俺のほうへ寄せた。逆に工具の持ち方や、固着した部品の扱いは俺が教えた。
十三年前の続きではなかった。それでも、続きを始めることはできた。
***
生活費は、近所の農家の手伝いで稼いだ。
働いた時間に応じて金が出て、予定を聞けば休む日も決められた。
「試験前やろ。今週は来んでええ」
雇い主にそう言われ、俺は聞き返した。
「忙しいのに、ええんですか」
「学校へ行くために働いとるんやろ。順番を間違えたらあかん」
その日、借りていた部屋へ戻ってから、しばらく机に向かえなかった。
家では一度も聞けなかった言葉だった。
***
その農家の古いトラクターが、動かなくなった。
整備の人が来て調べたが、原因がわからなかった。新しい機械を勧められ、雇い主は困っていた。
「この面積に、新車はなあ。あと何年やるかもわからんし」
俺は、納屋の中の機械を見せてもらった。
見覚えのある構造だった。高校の実習で触ったものに近い。
「一度、調べてもええですか」
「直るんか」
「まだ、わかりません」
放課後、先生に相談した。調べた結果を整備の人にも伝え、外した部品を一緒に確かめた。
壊れた箇所がわかると、整備の人が引き取り機の部品を探してくれた。使えるかを確認し、交換して、試運転を重ねた。
エンジンがかかったとき、雇い主は俺より先に声を上げた。
「動いた。おい、動いたぞ」
俺は機械の横で、音を聞いていた。
昔、実習室で好きだった音だった。
「助かったわ。これで今年も、これを使える」
雇い主はボンネットに手を置いた。
「新しいもんはええけどな。使い慣れたもんを、もう少し使いたいんや」
俺はうなずいた。
農家にとって機械は、手の延長だ。その手を直す仕事なら、俺にもできるかもしれない。
土と機械の間に、これからの道が見えた。




