↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イチゴの行く道  作者: 朝山みどり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/10

06 入り直す

06 入り直す


 三田先生に会いに行くと、職員室へ入る前に見つかった。

「おう。どうした」

 十三年たって、先生の髪には白いものが増えていた。

「学校へ、入り直したいんです」

 先生は俺の顔を見たあとで、空いている椅子を引いた。

「座れ。今、どこまで考えとる」

 責めることも、遅いと言うこともなかった。

 以前の単位を確認し、受け入れ先を調べ、先生は何度も電話をかけてくれた。俺は半年働きながら勉強し、翌春、改めて工業高校へ通い始めた。

 同じ教室に座る生徒たちとは、一回り以上年が離れていた。

「何て呼んだらええですか」

 最初の実習で、隣の生徒が遠慮がちに聞いた。

「呼び捨てでも何でもええよ。同級生やろ」

「いや、それはちょっと無理です」

 その生徒が笑ったので、俺も笑えた。

 わからないことをわからないと言っても、誰も馬鹿にしなかった。

 電子制御の説明でつまずくと、若い同級生が教科書を俺のほうへ寄せた。逆に工具の持ち方や、固着した部品の扱いは俺が教えた。

 十三年前の続きではなかった。それでも、続きを始めることはできた。

   ***

 生活費は、近所の農家の手伝いで稼いだ。

 働いた時間に応じて金が出て、予定を聞けば休む日も決められた。

「試験前やろ。今週は来んでええ」

 雇い主にそう言われ、俺は聞き返した。

「忙しいのに、ええんですか」

「学校へ行くために働いとるんやろ。順番を間違えたらあかん」

 その日、借りていた部屋へ戻ってから、しばらく机に向かえなかった。

 家では一度も聞けなかった言葉だった。

   ***

 その農家の古いトラクターが、動かなくなった。

 整備の人が来て調べたが、原因がわからなかった。新しい機械を勧められ、雇い主は困っていた。

「この面積に、新車はなあ。あと何年やるかもわからんし」

 俺は、納屋の中の機械を見せてもらった。

 見覚えのある構造だった。高校の実習で触ったものに近い。

「一度、調べてもええですか」

「直るんか」

「まだ、わかりません」

 放課後、先生に相談した。調べた結果を整備の人にも伝え、外した部品を一緒に確かめた。

 壊れた箇所がわかると、整備の人が引き取り機の部品を探してくれた。使えるかを確認し、交換して、試運転を重ねた。

 エンジンがかかったとき、雇い主は俺より先に声を上げた。

「動いた。おい、動いたぞ」

 俺は機械の横で、音を聞いていた。

 昔、実習室で好きだった音だった。

「助かったわ。これで今年も、これを使える」

 雇い主はボンネットに手を置いた。

「新しいもんはええけどな。使い慣れたもんを、もう少し使いたいんや」

 俺はうなずいた。

 農家にとって機械は、手の延長だ。その手を直す仕事なら、俺にもできるかもしれない。

 土と機械の間に、これからの道が見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。