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イチゴの行く道  作者: 朝山みどり


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07 雪の日

07 雪の日


 実家の新しいハウスができあがったと聞き、学校の帰りに遠くから見た。

 大きかった。

 白い骨組みが何棟も並び、入り口には農園の看板が立っていた。兄貴の写真もあった。

 俺は軽トラを止めず、道を一周して帰った。

 失敗すればいい。

 そう思った。

 自分の腹の底にあるものを、その日は否定しなかった。

 だが翌朝になると、寒い夜にあの広さを誰が見ているのか、苗の具合はどうなのかと考えていた。

 心配と憎さが、同じところに収まっていた。どちらかだけになれたら、もっと楽だっただろう。

   ***

 その冬、めったに雪の積もらない町が、白く埋もれた。

 夜中に目が覚めた。外の音が、いつもより遠かった。

 窓を開けると、駐車場の軽トラが白くなっていた。

 朝、雇い主から電話が来た。

「今日は来んでええ。道が危ない」

「ハウス、大丈夫ですか」

「何とかする」

 その声が気になり、学校へ連絡した。先生に事情を話すと、現場の様子を確かめてから、手伝える生徒を募ってくれた。

 集まった同級生たちは、白い息を吐きながら歩いてきた。

「イチゴの先生、今日は何したらええんですか」

「まず、それやめろ。学校では俺も生徒や」

 笑っているうちにも、雪は降った。

 大人が建物の状態を確かめ、近付く場所を決めた。俺たちは地面から長い道具を使い、届く範囲の雪を少しずつ落とした。

 腕が上がらなくなると交代した。屋根から雪が滑るたび、皆で声をかけ合った。

 昼過ぎ、雪はやんだ。

 だが、水を含んだ雪は重く、まだ油断できなかった。

 雇い主がハウスを見上げて言った。

「もう一回、端のところだけ頼めるか」

「やりましょう」

 俺が道具を持つと、隣の同級生も立ち上がった。

「あとで飯、いっぱい食いますよ」

「食え、食え。鍋ごと食ってええ」

 雇い主が笑った。

   ***

 夕方までに、何とかハウスと倉庫を守れた。

 熱々のけんちん汁の湯気がありがたかった。皆、腹を空かせていた。

「お代わりあるぞ」

 その声に、同級生たちが次々と器を出した。

 俺も、底に残った大根を食べてから器を差し出した。

 働いたあとに、皆と同じように腹を空かせ、同じものを食べる。

 たったそれだけのことが、ひどく久しぶりだった。

 夜は焼肉をご馳走になった。

 近くの農家で倉庫が崩れたと聞き、席が一度静かになった。中に人はいなかったという。

 雇い主は網の上の肉を返しながら言った。

「今日、来てもらえてよかった。ほんまに、ありがとうな」

 俺は頭を下げた。

 家で何度も言われた助かったとは、違って聞こえた。

 ここでは、明日も俺が差し出すのが当然だとは、誰も思っていなかった。

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