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Mg  作者: 東京卑弥呼
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〈3〉夢

俺は新宿のホテルの宴会場で皿洗いをしながら脚本家を目指した。

テレビ八時以降見るなと言われていた俺は勿論テレビドラマなんて見たことがない。テレビが見れなかった俺はラジオでラジオドラマを聞いていた。そこでジュールベルヌの皇帝の密使というドラマと出会い、毎日聞いて「次どうなるの?」と心を奪われた。

その時だけは家での嫌なことも忘れられる。

こんなドラマ描けたら幸せだろうな、と俺は高校生のとき思っていた。

しかし、小説も漫画もほとんど読んだことがない。ドラマというモノにさほど触れてきていない。

そんな俺が脚本家を目指したのは、脚本はト書きとセリフだけの構造で出来ているというところから脚本家を目指した。

小説のような卓越した文書力を必要としないだけ自分でもやれると思った。

面白いドラマを書けばプロになれる。

自分には書けるという自信があった。そして何よりプロの脚本家になってお金が稼げれば母を自分のふるさと、山形の朝日村に連れて行けるのではないだろうか、と思っていた。

大型バスを母がリラックスして乗れるように改造し、医者と看護婦を雇い、一緒に山形に帰れる。お祖母ちゃんのお墓参りも出来る。そうすれば母も何か変わって来るのではないだろうか。

父や兄は母は治らないと思っていたが、俺は母がまた昔の元気の頃の母になることを諦めてはいなかった。少しずつでも良くなっていくと。

そのためにはまず俺がプロの脚本家にならなくてはいけない。

新宿に出てから毎年、シナリオコンクールに応募した。しかし、結果はついてこなかった。

それでも諦めるという考えはなかった。

なぜなら受賞した作品に負けたと全く思えなかったから。負けてない。自分のドラマの方が面白い。そんな気持ちではとてもドラマを諦めるという選択肢は到底浮かばなかった。

もっと面白いドラマを書けばいいんだ。

その一心でドラマを書いた。

結局、東京に出て三十七年間、シナリオコンクールに応募するもプロになるどころか一つのチャンスもきっかけも得られなかった。

その間に母は死に、自分は自分の無力さに、思い上がりにただただ打ちひしがれた。

俺は自分の家族を持つこともなく、父と兄と俺の三人だけになった。

兄も父と暮らしていくのは辛いと思ったのか実家の近くにマンションを買って独り暮らしを始めていた。兄は国立大学を出て大手企業に就職したが独身だった。一人の方が好きなのだろう。

父は九十歳、一人で実家で暮らしていたが、その父も白内障で視力をなくし、一人で暮らす気力を失い、自ら老人ホームに入った。

そのことを兄から聞いたとき、あの親父が自ら老人ホームに入ると言い出したことに俺は驚いた。

俺は父のことだから老人ホームが合わず、実家に戻って来るものと思っていた。

しかし、帰っては来なかった。

正月休みに一人、実家に帰省したときのことだった。

誰もいない実家。

一軒家で一人暮らしをして真っ先に思ったのは寂しい。

明らかに寂しかった。

親父はこの家でずっと寂しい思いをしてきたのだ。

この家に、この家族に足りないものは幸せ。

圧倒的に幸せが足りない。

俺は空き家になる実家に帰ることにした。

東京に出て結局、三十七年、脚本家になることも出来ず、手取りも少なく日々、家賃を払うために働いているような生活。

東京にいてもチャンス一つ掴めなかったのだから実家に戻っても何ら変わらない。いや、家賃を払うために働く生活をしなくていいだけ楽になるかもしれない。

五十七歳だけど、実家に戻ってなんとか幸せ掴もう。

その幸せを掴む必須条件はプロのドラマ書きになることに何ら変わりはないということは分かっていた。五十七歳の低所得者に嫁のなりてはいない。

五十七で新人賞を取る。

とてつもなくあり得ないことだ。

それでも何かこの家に、この家族に幸せをもたらしたい。

四月、俺は東京での仕事を辞め、実家に戻った。






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