小話8 小さなお客様2
すみません。遅くなりました。
店内には、人の気配が無かった。明かりがついていても、どこか暗い印象だ。扉の隙間からは、漏れ聞こえる激しい雨音。ただそれだけ。
「……」
右に左に頭を振りながら、無人の店内を歩く。
カチャっ。
「!」
耳に届いたのは、物が擦れる音。一緒に、雨とは違う大量の水が聞こえて来た。音のした方へ向かえば、だんだんと音が大きくなっていく。
すると、テーブルの向こうに、エプロンを身につけたマスターの姿が見えた。影は勢いをつけてカウンター席に座ると、その小さい口を開ける。
『ニャオ〜』
「!」
小さなその声に、気づいたらしい。マスターは手を止めて、水道の蛇口を締めた。そしてカウンター席の上にちょこんと座った。影の存在に目を向ける。
「……いつの間にネコが?」
『ニャーっ!』
影……黒い毛並みのネコは、一声なく。体は雨に濡れてペッタリとしており、いくらか痩せているように見えた。放っておくわけにもいかず、マスターは一旦その場を離れる。しばらくして、清潔感な白いタオルを手に戻り、ネコをふきはじめた。
『ニャ〜〜』
ネコは気持ちよさ気に鳴き、されるがまま。ぎゅっと目を閉じて、自分の前足を頭を撫でるように擦る。
「はい、終わり」
ひと通り拭き終えたマスターは、タオルを回収しようとする。その時。
『ニャニャ〜』
突然、ネコがジャンプして来たのだ。
次回は金曜19時更新予定です。




