小話7 一般人も楽じゃない4
すいません、予定より遅くなりました。
青年が眼鏡を外し、女へと視線を送る。その目を見た瞬間、女が驚く。
「そ、その顔、テレビで……むぐっ!?」
「バカっ!? 言うなよっ」
何かを言おうとした女の口を、青年が慌てて塞いだ。つい先程までの大人しい青年とは違って、言葉使いが強気なものに変化していた。
大声を上げないことを確認して、青年は手を離す。
「す、すみません。ちょっと、思考がついていけなくて」
「いや、俺も悪かった」
青年は頬をかきながら、謝罪。だが、それ以上に気になったのは青年の変化だ。周囲の客達は素知らぬふりをしているが、しっかりと聞き耳を立てていたようだ。驚きのあまり、むせる客もいた。
そんな中で青年は、テーブルに肘をついて頬杖する。空いた手でシュガーポットから、角砂糖を2、3個入れるとティースプーンで軽くかき混ぜながら話し出す。
「驚くのも無理ないって。自分でも、わかってるし」
「……え?」
どこか諦めた様な口調。眼鏡の女性が思わず問い返した。
「実は、俺の本質は"僕"の方なんだ」
「えっ? あ、要するに『演じてる』って感じです?」
「あー、そんな感じ。あんた、意外とバカじゃなかったんだな」
「なんですか! その、意外とって!」
肩で怒りを表す眼鏡の女性。青年はサラッとスルーして話を再開した。
「"俺"ってキャラは、アンタが言った通り、テレビなんかに出る芸能人としての顔。だから"僕"として、自由に振る舞う事が難しい」
「いきなり、人生相談されても……」
「……はあ」
「ああ、その憐れみのこもった目やめて下さい! 私が、ものすごく頼り無い様に感じるのでっ」
「……なんか、あんたと会話してると自分の悩みがバカらしく思えるよ」
「既に、バカにされてますね」
ジト目で見られ、たまらず視線を逸らす眼鏡の女性。それでも彼女は、なんとか言葉つむぐ。
「正直、私が話を聞いたところでなんのアドバイスも出来ません。でも、グチぐらいなら聞いてあげます」
「!」
予想だにしなかった返答だったらしい。青年が目を丸くする。そして徐々に、口元にニヤニヤした笑みを浮かべた。
「なるほど。聞いて"あげます"ね」
「っは!? 私、またやらかしちゃいました?」
失言に気づいた眼鏡の女性は、顔面蒼白。その横で、肩を震わせ笑う青年。
「あははっ! 久々に笑った!」
「わ、笑わないでください」
「悪いけど、無理っ」
ひとしきり笑った青年は、注文の品は堪能し終えると眼鏡をかけ直し立ち上がる。
「今日は、ありがとうございました。……また来ます」
そう言って青年は、支払いして店を出ていくのだった。そんな彼の後ろ姿を見た客達が、心の中で思う。
『何、あのギャップ!?』と。




