小話7 一般人も楽じゃない2
「マスタあぁぁ! 聞いてくださいっ!」
「!?」
眼鏡の青年がそーっと扉を押し開いた瞬間、女性の声が響く。驚いた眼鏡の青年は、思わずバタンと勢いづけて扉を閉じてしまう。
一部始終を見ていた中の客達は、ジト目を声の主に向けた。閉める音に眼鏡をかけたスーツの女性も気づいたらしい。居心地悪そうに視線を泳がす。
「あ、またやらかしちゃいました?」
カウンター席から後ろを振り返って、客達に尋ねる。彼女の問いに、頷く顔があちこちで見られた。
「……以前、お嬢様の一件で注意する様にしていましたが。まだまだ、配慮が足りないようですね」
大きなため息をつく、スーツの女性。マスターとの話を一旦切り上げ、「さて、どうしましょう?」と腕を組み考え込む。
と、しばらくして扉が再びゆっくりと開いた。マスターを除く、全員の目が注がれる中。
「……」
先程の眼鏡の青年が、店内の様子を伺いながら入って来る。逃げてしまったと思っていただけに、興味深げな視線が入り混じった。
「……入って、いいの?」
「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」
青年の問いに、マスターが笑顔で出迎える。彼はコクリと頷き、迷いのない足取りでカウンター席に座った。気弱な性格だと思っていた客達は、虚をつかれてヒソヒソ話し合う。スーツの女性から三つ分程離れた席に座った彼は、注文を入れる。
「初めてだから、何があるか知らない。おすすめ、お願い」
「少々、お待ちください」
場慣れしているような話し方に、誰もが目を瞬く。
『一体、どういう事だ?」と。
次回は、水曜の19時更新です。




