小話6 ウチには、分かる4
少女の中で、確信を得たのかマスターに聞かせるかの様に大きめの声で話し出す。否、語り出す。
「実はウチな、夢みたいな世界で友達が出来たんや」
当時の思い出に馳せる様に、遠くを見つめる少女。
「その子は、親が薬を生業としている家の娘やった。おかげで将来は、家業を継ごうと頑張ってたんや。けど」
少女は、厳しい面持ちで目をつむった。
「新しい製法が発展して、廃業寸前に追い込まれてしもうた」
席を立ち上がり、拳を握り込む少女。段々と声に力が入って、まばらにいた客達の目が少しずつ引かれ始めていく。
「親も知り合いも、既に諦めの境地。もはや旧時代の自分らは消え、新技術が台頭する世になるだろうと誰もが考えたんや」
少女の話は、現代社会でもある「技術の世代交代」と一緒だ。新しいものの方が、勝手がよく使いやすいとはよくある話。なのに、真剣な表情で話す彼女を見ていると、さも壮大な話に感じてしまう。
「けどな、ウチの友達は諦めへんかった。大の大人がガン首揃えて、無理だと言う中、少女はそれでも努力を続けた」
そして。
「ウチは、そんな彼女に勇気づけられた。そのお礼に、ウチの知っとる言葉を教えたん……やが」
テーブルをバンバンと叩く。
「その先でどうなったか、ウチは知らんのやっ! あの夢世界に行けへん!なあ、どうしたら行けるんか? ウチはもう一度、彼女に会いたい」
『……え?』
何とはなしに聞いていた客達が、思わず驚きを漏らす。
「……」
マスターは変わらず、無言の笑顔。
「そんな殺生なあ! ウチ、気になりすぎて寝不足になるで?」
「……」
「無言は、やめえぇ!」
サラリと脅迫しても、無敵の笑顔でスルーし続けるマスター。少女は奥歯を噛み締め、マスターを指差した。
「ここは、夢世界と同じ"気配"がしとった! ウチには、分かる。マスターが最後の砦なんやとっ!」
キッと睨みつける、少女。
「ウチは、絶対諦めへん! 聞き出すまで、意地でも店に入り浸ったるからな!」
「……いつでも、お待ちしておりますよ」
ーこうして、何の因果か一風変わった客がくる様になったのだった。
次回は、金曜の19時更新です。




