小話5 暇つぶし2
「今日も来てしまったぞ、マスター」
快活に笑い、マスターに声をかけたのは着流しの男。藍色の和服に袖を通し、軽やかな足取りで下駄を鳴らす。
「いらっしゃいませ」
マスターが手を動かしつつも、彼に返事する。着流しの男は入店してすぐ、カウンター席に行って腰を下ろした。
「ふう。やはり自宅からは、少々遠いな。まあ、それはそれで来た甲斐が生まれるというもの」
早速とばかりに「本日のおすすめケーキセット」を注文。マスターの働く姿をなんとはなしに眺めながら待つ。この待つ時間、というのも好きな着流しの男は期待を膨らます。
その時だ。
店に新たな客がやって来た。
ふと音のした方へ顔を巡らせれば、金髪の青年の姿が。キョロキョロと店内を見渡しつつ、入って来る。客は少なからずおり、三つあるボックス席の二つは埋まっていた。女性の声が度々、聞こえて来る。そんな中、青年の視線が、一瞬、着流しの男と交差した。
「ん?」
「!」
バッと視線を外され、着流しの男は苦笑をこぼす。対して金髪の青年は、わざわざカウンター席から離れたボックス席に座った。そこは丁度、カウンター席から死角となる場所。
「……そういえば、店の近くで彼を見かけたな。はて、これは偶然か?」
何か意図があるように感じた、着流しの男。あえてそちらを見ない様にして、再びマスターの姿を目で追う。
「……む。マスターばかり見ていると、変質者なんぞと間違われそうだ」
自分の行いが側から見ると、怪しい人間に思えて眉を顰める。それはちょっと勘弁願いたい。ならばどうしようか、と頭を悩ます。「本日のおすすめケーキセット」の提供には、いくらか時間がかかるだろう。そうなると、時間が余る事になる。
「な、悩ましい……いや、なんとかなりそうかな?」
アイデアが浮かぶよりも前に、事態が動き出す。
「おい! お前、なんでこんなとこにいんだよっ!」
金髪の青年の怒鳴り声を皮切りにして……
次回は、金曜の19時更新です。




