小話4 ワタクシへの挑戦状4
お嬢様がレモンティーを口にした瞬間、息を呑む。
「こ、これは」
すかさずもうひと口。舌の上で味を確かめる様に、ゆっくりと口を動かし、コクリと飲み込んだ。手に持っていたティーカップを皿の上に戻す。
「……驚きましたわ。まさかレモ」
「このレモン、ハチミツとミントの風味がしますね。紅茶をいただいたのに、後味爽やか……はっ!」
「……」
お嬢様の言葉へかぶる様に、スーツの女性が感想を口にした。しかし途中で、お嬢様からの冷たい視線を察して慌てて口を塞ぐ。
「す、すみません! お嬢様!」
「……別に、気にしてません。別に」
「気にしてるじゃないですかあ!」
ふいっ、とスーツの女性から視線を外すお嬢様。そんな彼女の態度を見て、思わず声を上げてしまうスーツの女性。どうにか言葉を尽くして、機嫌を取り戻す。
肩をガクッと下げたスーツの女性を尻目に、お嬢様の目は再度レモンティーへ。
「それにしても、予想以上ですわね。紅茶の醍醐味でもある香りも、こっ…」
「香ばしさもあわせ持つ、なんて珍しいですね……はっ!!」
「…………」
二度目の台詞奪取。やらかした事に気づいたスーツの女性が、恐る恐るお嬢様の方へ顔を向けていく。先程からヒシヒシと伝わって来る、肌を刺すような気配。見れば、サングラス越しでも分かってしまう怒気を露わにしていた。
「ち、違うんですっ! わざとでは無いんです!」
「……」
「沈黙が怖いので、何か言ってください! お嬢様っ!」
無言の威圧感に耐えかねて、スーツの女性が言う。その言葉に対して、お嬢様はイスから降り、毅然とした態度で応えた。
「あなたの思惑を、見抜きましたわ」
「何の思惑もありませんよ!」
「これは、明確なワタクシへの挑戦状ですわね!」
「何も見抜けてません! 違います!」
スーツの女性の言い分は耳を素通りしているのか、お嬢様はやる気を漲らせていた。
「こうしちゃいられませんわ! 早速、次の店で勝負を」
「何を勝負するんで……はあ、もう聞こえてませんね」
スーツの女性に背を向けて、既に出入り口へ歩いているお嬢様。勝負内容をあれこれ口にしており、こちらの様子に気付いてない。
「お待ちくださいっ、お嬢様……あ、マスター。支払いは、カードでも可能で?」
「大丈夫です」
追いかけたいものの、支払いをキッチリこなすスーツの女性。手早く会計を終える。
「申し訳ありません。お騒がせしました」
「お気になさらず」
「……また、伺っても良いですか?」
「ええ。いつでも、お待ちしてます」
スーツの女性は、軽く会釈をして店を出て行く。
そんな一連の騒動に、客達は一様に思う。
『なんとも噛み合わない、二人だった』と。
次回は、月曜日の19時更新です。




