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精霊召喚の娘  作者: 鰀目唯香
6 ハムちゃんの冒険譚
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6 王子と護衛騎士とハムスター

 ハムスター達が、実は第二王子ヴィンセント公爵令嬢アリソンだと伝えたところ、どうやら第一王子には初耳だったようで、目を大きく開けてキョトンとしてハムスターとオスカーを見比べていた。


 あのオッサン(将軍)……事情説明丸投げしてるじゃねぇか!!


 第一王子の様子に目が据わるのを感じるオスカーである。第一王子の右に控えるヘイワード師団長は常に無表情なのでわかりにくい所はあるのだが、恐らく将軍から諸事情聞いているように思われる。

 かたや第一王子の左にいる、魔法師団見習いの格好をしたヴァレンタイン伯爵令嬢は王子と同じで事情は聞かされていないようである。そこはオスカーの想定通りだが、第一王子にくっついて来るのは想定外だ。


「ヴィンセント殿下……なのか?」


 第一王子はケージを覗き込み首を傾げた。ヴィンセント王子と言えば、そんな異母兄の元へ進み鼻をケージに擦り付けるようにして『きゅきゅ』と鳴いた。毛色の僅かな違いで二匹を見分けているオスカーである。バーン侯爵が、回し車の色をケージ毎に変えた工夫は敢えて無視する捻くれ具合だ。


 何となくだが、あの阿呆の事だから餌でも貰えると思っているのではなかろうか……


 などとオスカーが考えていたら、ブレイク公爵令嬢まで第一王子に近づいて来た。すっかり二匹とも第一王子に懐いているようである。もうケージの中から二匹して餌をねだっているようにしか見えない。


「それにしても、ちょっと見ない間に二人してデカくなりましたね。しかもエリック殿下に懐いている」


 オスカーが思ったままを言いケージを覗くと、ブレイク公爵令嬢の方はエリック王子の方から離れるように、さっと回し車に乗り込んで一人遊びを始めてしまう。さすがに若い娘にデカくなったは言い過ぎたのだろうかと、オスカーは首を捻った。


「エリック王子……バーン侯爵のご指摘通り、やはり餌を与え過ぎたのでは?」


 ヴァレンタイン伯爵令嬢が第一王子にそう言うと、ヘイワード師団長が無言で瞑目している。どうやら、ヘイワード師団長も伯爵令嬢と同意見のようだ。


「……そうだろうか?」


 第一王子は困り顔でヴィンセント王子とブレイク公爵令嬢に向かい『多過ぎたかい?』と、訊いているが、二人はハムスター然として第一王子の言葉には反応しなかった。ジェフリーが複雑な表情でハムスター達を見ている。

 今はそんな話がしたかった訳ではなかったと、オスカーは首を振って軌道修正をした。


「まぁ良い……明日は北の聖廟に入ります。将軍から聞いた話では、王族とその共の者は入れるそうだから、エリック殿下がいれば問題なく通過できるでしょう」


 それを聞いた第一王子は『そうか、あの将軍がそう言ったのか』とだけ言い、じっとハムスター達を見ていたので、そんなに餌付けしたいのだろうか……と、オスカーは首を捻った。


 そして、第一王子が第三魔法師団長とヴァレンタイン伯爵令嬢を伴って天蓋から出ようとした時に、オスカーは伯爵令嬢に声をかけた。


「サイラス、少し頼みたい事があるので残ってくれ」


 オスカーの声に、ヘイワード師団長が僅かにこちらを見たが、直ぐに第一王子の後に続いて去って行く。


「何でしょうか?」


「この魔法陣……試しに触ってくれないか?」


 オスカーは、ぼろぼろの魔法陣を指差してそう言った。二人がハムスターになった経緯に新発見があるかも知れない……と、薄めの期待感を持って。


「わかりました」


 伯爵令嬢は魔法陣に手を触れた後に首を振る。オスカーの隣でジェフリーの溜息が割とハッキリ聞こえた。


 まあ……そう上手いことは行かんか。


「他に気になる物があれば触ってみますが……」


 伯爵令嬢がそう言うので、ここは試してもらおう。


「ジェフ、そこの王子あほうとブレイク公爵令嬢が身につけていた物を出してくれ」


 オスカーはそう言うと、ブレイク公爵家の応接間で散乱していた本や筆記用具を公爵家から借りている魔道具の中から引っ張り出した。


「二人がハムスターに変わった時、同じ部屋にあった品々だ。何か視えたら教えてくれ」


 オスカーがそう言うと、伯爵令嬢は一つ一つ手に取り確認し始めた。ジェフリーもヴィンセント王子とブレイク公爵令嬢の衣服を持って来て、伯爵令嬢に渡している。そして、伯爵令嬢がぼろぼろの転移魔法陣を手にオスカー達の方を向いた。


「どうやら、ヴァレンタイン伯爵の研究日誌に描かれたメモを元に描き起こした魔法陣が原因でハムスターになったようです」


 ……ほう。


 ヴァレンタイン伯爵の研究日誌を読み解けば、手掛かりが得られそうだ。


「研究日誌は……これかな?」


 ブレイク公爵令嬢が夢中で読み込もうとしていた一冊を取り上げて、ヴァレンタイン伯爵令嬢を見ると、彼女は黙って頷く。


「頁も解るかもしれないです」


 ……それは助かるな。


 オスカーが研究日誌を伯爵令嬢へ手渡すと、彼女はさっと頁を繰って広げて見せ『この頁を見ていました』と、オスカー達に見せた。


 ……まあ、期待はしていなかったが、俺が見ても解らん。


 オスカーは、明日の朝にはあの不仲な五大魔術師たちに見せて見ようと予定を決める。隣のジェフリーは、開かれた研究日誌を覗き込んでいるが、オスカーから遅れる事数秒、読解を諦めたらしく、首を振った。


「その……ヴァレンタイン伯爵令嬢は、日誌の内容が解るのでしょうか?」


 ジェフリーが、躊躇いがちに伯爵令嬢に確認した。問われた伯爵令嬢は首を振った。


「公爵令嬢は新しいインクを入れた後に、試し書き目的で魔法陣を描いたようです」


 それを聞いたジェフリーは、落胆の色を僅かに見せたが伯爵令嬢に礼を言うのだった。



***



 オスカー達のいた天蓋を後にした私はエリック王子のいる天蓋に向かい歩いていた。横には、細マッチョのジェフリーがヴィンセント王子とアリソンの入ったケージを持ってついて来てくれる。何とも律儀な人だ。


 それにしても、ヴァレンタイン伯爵の研究日誌が原因で二人がハムスターに変わったとは……取り敢えず触って見るものだなと思う。オスカーが明日二人の五大魔術師に訊いてくれると言うので、収穫があるかも知れない。私は、ヘイワード師団長と違って威圧感とは無縁そうな護衛騎士を伴って、エリック王子のいる天蓋を目指したのだった。


「おや、送ってもらったのだね」


 天蓋に入ると、エリック王子がこちらに向かいゆったりと微笑んだ。ヘイワード師団長は一緒では無いらしい。

 そんな彼の手にはクッキーがある。どうやら以前私にくれたクッキーと同じ物のようだ。


「エリック王子……それ、食べるのですか?」


 王子から貰ったクッキーは、以前瑠璃ちゃんに叩き落とされた。

 確か、何か薬が入っている……と、言っていた。結局食べずにいたが……


「ああ、少しお腹が空いて」


「……それ、貰えます?」


「残念……これが最後の一つだ」


 ジェフリーが、『良かったらコレを』と、言いながら袋を取り出し私に差し出した。メロの種を火で炙ったモノだと言う。


「ヴィンセント殿下とアリソン嬢はコレをよく食べていました。私も……」


 ナッツの一種か、殻を破り小さな種を口に含むと、香ばしい香りが口に広がった。


「エリック王子も如何ですか?」


 私がそう言うと、エリック王子は右手にクッキーを持ったまま、左手を此方へと差し出した。興味はあるようだ。私が数粒手に乗せてやると、右手はクッキーを持ったままメロの種を一粒口で殻を破って放り込んだ。彼には珍しくお上品な所作とは言い難い食べ方だ。

 

「どうです?」


「……うん。素朴な味だね」


 そう言うと、もう一つ口で殻を破ってケージの中で寛ぐヴィンセント王子に一粒差し入れた。ヴィンセント王子は鼻をぴこぴこと動かして匂いを確かめるようにしたあと、エリック王子から種を受け取りしゃくしゃくと咀嚼している。可愛い。


 隣のアリソンが、その様子に気がついたらしく、エリック王子の方へと吸い寄せられて行く。『君も食べる?』と、王子は同じように口で殻を破り、手渡そうとするが、その前に別の手がメロの種をアリソンに差し入れた。


「……どうぞ」


 ジェフリーから種を受け取ったアリハムもといアリソンは両手で種を上手に掴むと少しずつ味わうようにして齧っていた。これも可愛い。

 それを見るエリック王子は右手のクッキーを手放し、私に右手を出した。もっと寄越せと言う事らしい。これは可愛くない。


「では、このクッキー頂いても?」


 私がメロの種を一盛りエリック王子の右手に乗せてそう言うと、エリック王子は放置したクッキーには目もくれず、殻を口で裂いてはヴィンセント王子に手渡した。


「慣れていないと腹を下すようだから、やめておいた方が良いよ。母上から貰ったものだ」


「以前くれた時はそんな話仰っていませんでしたね」


「……そうだった?」


 ガリ王子は機械のように殻を剥いて、ゴリ王子に手渡している。

 それにしてもコルデリア王妃がくれた物だったとは……ガリ王子には悪いが、私は食べなくて本当に良かったと思う。


「あんまり食べさせると、また太りますよ」


 私がそう言うと、ジェフリーが黙って王子の傍からケージを遠ざけた。そして、やや青い顔で、腹を下すようならクッキーではなくメロの種を食べるようにと提案したのだった。


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